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生物が空気環境を感じる意味 第24回京大地球環境フォーラム

2016.02.16

京都大学大学院地球環境学堂が主催する京都大学地球環境フォーラム「生物が空気環境を感じる意味」が、2月6日に益川ホールで開催された。地球環境学堂では、さまざまな分野の最新研究を多面的に市民に伝える場として地球環境フォーラムを年3回開催している。第24回に当たる今回は、酸素や低酸素条件下で生きる生物を題材に、3名の講演者による講演と総合討論が行われた。

地球環境学堂の森泰生教授は、活性酸素がその酸化作用によって健康を損ねるものであり、酸化を妨げる抗酸化物質を健康にいいものだとする考え方に疑問を呈した。もともとミトコンドリアによる酸素を使ったエネルギー合成には、生物にとって毒である酸素を分解する必要があったという背景があり、酸化や還元は生体にとって善悪をつけられるものではないのだという。また、活性酸素が免疫応答に利用されている例や抗酸化系が体に害を及ぼすこともあるという事実を挙げ、生物にとって酸化と抗酸化のバランスが重要なのだと説いた。

北海道大学遺伝子病制御研究所で講師を務める三浦恭子氏は、アフリカ東部の地下に住むハダカデバネズミの生態や特徴を紹介した。酸素濃度の低い地中に暮らすこのネズミは、30年近く生きるにもかかわらず、細胞老化やそれに起因する癌化がみられないという特徴を持つ。三浦氏はこの老化耐性や癌化耐性の原因を調べた実験の結果を示し、ハダカデバネズミの持つ遺伝子が将来的に人類の健康長寿化に役立つ可能性を示唆した。

農学研究科の松浦健二教授は「シロアリの社会構造の進化と化学コミュニケーション」と題して講演した。松浦氏はまずシロアリがアリではなくゴキブリの仲間であることを述べ、有性生殖と無性生殖の併用で女王交代による近親交配を防ぐというシロアリの巣の存続の仕組みを説明した。また、フェロモンを感知して卵を巣に運ぶ性質を逆手に取ることで、卵に擬態してシロアリに世話をさせるカビの仲間の存在や、ホルモンに似せた物質でコーティングした遅効性の毒を利用するシロアリ駆除方法を紹介した。

総合討論では、休憩時間に集められた質問を中心に講演者による説明が行われた。その中では低酸素環境と長寿が関係する可能性も話題にあがり、白熱のうちに幕を閉じた。(鹿)