パリの襲撃事件をどう理解するか 鵜飼哲・一橋大教授が講演(2016.01.16)

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11月にパリで起きた6か所同時襲撃事件を考える講演会が、12月17日に吉田南総合館の講義室で開かれた。人間・環境学研究科岡真理教授の研究室が主催。鵜飼哲・一橋大学教授が今回の事件を考える上での視座を語った。

テロリズムという言葉を疑う

テロリズムという言葉の持つ危うさを鵜飼氏は語った。「テロリズムという言葉は必ずしも暴力を伴わない政治的な背景を持った行為を犯罪のカテゴリに翻訳する装置として機能している」と述べる。テロリズムは「イズム(主義)」であり明白な政治・思想的含意があるということを考慮しなければならないという。「この言葉はでたらめです。いつの間にか凶悪な事件も北朝鮮の拉致も国会前のデモでもこの言葉で語られてしまう。この言葉が出てくるといかに多くのことが考えられなくなるか。この言葉を使わないことから抵抗は始まると考えています」

パリはどうして狙われたのか

鵜飼氏は今回の事件でフランスが狙われた理由を説明した。フランスは多文化的で自由な国だからなのか。それとも、アフリカや中東で戦争をしているからなのか。鵜飼氏はフランスがここ数年でとってきた行動を振り返り、「多文化性や自由の国であることではなく、していることが理由で標的になっている」と語った。

鵜飼氏は2004年にマドリード、2005年にロンドンで起きた爆破事件の背景にスペイン、イギリスのイラク戦争参加があったことを指摘。「やはり問題含みの戦争をしている国が事件に巻き込まれている」と述べた。

フランスはどうだったのか。イラク戦争には反対だったもののネオリベ路線のサルコジが大統領になると、フランスは中東外交を親イスラエルに転換。イスラエルのガザ攻撃を支持した。2009年にはNATOに復帰。「ここを転換点として主体的な軍事行動をとるようになった」と鵜飼氏は分析する。2011年にはイタリアとともにリビアに介入。翌年に成立したオランド政権は、マリ内戦に介入した。ここでオランドは「テロとの戦い」という言葉を使うようになったという。

「非常事態」

今回の事件を受けフランスでは非常事態が宣言された。非常事態の下では、捜査令状なしの家宅捜査が可能になったり街頭デモが禁止されたりするという。この状況下で住民運動などに関わる活動家が「被疑者」扱いされ自宅軟禁されていることを鵜飼氏は問題視。「最初から住民運動の抑圧を狙っていたのではないか」と述べた。

社会党政権は憲法を改正し緊急事態延長に国会決議を不要にすることや外国の「聖戦」活動に参加した二重国籍保持者から、帰国後にフランス国籍をはく奪することを可能にしようとしているという。これらは従来右派、極右が主張してきたことだ。鵜飼氏は「支持を失いつつある社会党政権は憲法改正を政争の具として利用する意図があると批判が起こっている」と説明した。

急接近するフランスと日本

鵜飼氏はフランスと日本が「没落しつつある旧植民地帝国の類似性によって接近している」と主張した。両国は原子力や軍事協力の面で関係を深化させている。米英と露中という対立構図のなかで国連政治のキャスティングボードを握っていたフランスだったが、NATO復帰により独自に国連決議を出すなど軍事的主導権を発揮しようとしている。一方、日本は東アジアの覇権国家という自画像を追い求めて国連の常任理事国入りを目指し、自衛隊が国連の軍事活動でより大きな役割を担うことを可能にしようとしている。日本の集団的自衛権について鵜飼氏は「アメリカだけでなくフランスなど他のNATO諸国とも軍事協力をすることを想定している」と指摘した。

現状にどう立ち向かうか

現状に抵抗し応答する思想として鵜飼氏は、人質から平和を考えることを試みたバリバールのエッセイを紹介。「人質的状況を双方が非対称な形で分有するということを考えなければいけない。具体的にはフランス人がシリア空爆を支持し、シリア人の挟み撃ち的状況、人質的状況の強化に加担すれば、それだけみずからの人質的状況も深刻化させることになる。こういう人質的状況からの解放は、戦線の両側から同時的に求めていくほかない」と解説した。(小)

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