堀部篤史(誠光社店主) いま「本屋さん」をはじめる(2015.11.16)

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 街から本屋さんが消えている。2000年に約2万1000店あった書店数は減少を続け、現在は1万4000店を下回る(アルメディア調べ)。新刊書店が地域にない「本屋ゼロ」の自治体も300以上にのぼるという(日本書籍出版協会調べ)。インターネット書店や電子書籍の登場で、書店に足を運ぶことが少なくなった今、街の本屋さんはこれまでにない苦戦を強いられている。
 一方で、そういう厳しい状況のなか「個性」をだして生き残りを図る本屋さんもでてきた。既存店にない本のセレクトや独自の棚づくりで知られる恵文社一乗寺店もそのひとつ。英ガーディアン紙の「The world’s 10 best bookshops」に紹介されるなど、いまや日本を代表する書店のひとつとなった。
 その恵文社一乗寺店で13年間店長を務めた堀部篤史さんが独立し、新刊書店「誠光社」を11月末にオープンする。出版不況の逆風吹き荒れる中、堀部さんが新たに目指す「本屋さん」とはどのようなものなのだろうか。誠光社のコンセプトや新たな取り組み、出版・書店業界の現在について伺った。





「本がメインの本屋さんをもう一度やってみたい」


—まずは、新たに出店される「誠光社」がどのような本屋なのか教えていただけますか。

商品構成においては、恵文社の書籍の部分をぎゅっと凝縮したものになると思います。例えば、棚のインデックスは「あいうえお順」とか「〇〇文庫」とかそういう分け方はしません。嗜好性の高い面白い本を恵文社の棚のつくり方で、二十坪くらいで展開する。雑誌もあり、小説もあれば、人文書もあるし、芸術書、写真集、古本、洋書、ミニコミなんかも総合的に扱ういわゆる一般書店ですね。 

ただ誠光社のコンセプトは、そうした表向きの部分だけにあるのではありません。今回は、お客様にはみえない部分、つまり本屋さんのビジネスを刷新したいと考えています。バランスの崩れた書店業界で「本がメイン」の本屋さんをもう一度やってみたいんです。

—それは具体的にはどういうことなのでしょうか。

まず前提として、本屋さんの構造についてお話しなければなりません。

書籍には再販制という仕組みがあります。書店は出版社の決めた定価で本を販売し、安売りができません。これは建前としては書籍文化を守るため、大きな資本が独占できないようにする仕組みです。一方でこの再販制には、売れ残った本を返本できる返品制というスタイルもついてきます。つまり書店はセールすることができない代わりに、注文して仕入れたものを返品できるわけです。

さらに書店と出版社の間で、この配本と返本の流通を一手に担っているのが取次と呼ばれる会社です。現状、取次は日版さんとトーハンさんのほぼ二社寡占状態で、小売店や出版社に対しても幅をきかせています。この取次は「みんなが欲しいもの」というのを前提にマーケティングをして、書店に配本します。この配本システムでは、小売店が注文してなくても配本されることもあれば、逆に小売店が欲しくても配本されないということもあります。

このように再販制や返品制、画一的な取次の配本システムがあったので、本屋さんというのは主体性のない商品構成が多かったんです。今も大抵の本屋さんって昔ながらのマス・マーケットに慣れてるんで、当然みんなが買うものを沢山仕入れることに執着するんですね。『進撃の巨人』『ONE PIECE』の新刊がでたら全員買うから、それをいかに仕入れるか。あとは「あいうえお順」に並んでるわけだから、工夫がないわけですよ。売り上げランキングも似通ってくる。そういう状態が続いてきたわけです。

—しかし、本が売れない出版不況の時代がやってきて状況が変わってきたわけですね。

そうです。書籍のマス・マーケットというのが崩れてきた。コミックなんかだと、まだマス・マーケットがあると思いますよ。でも昔みたいに本が何十万部売れたりすることが滅多にないわけですよ。

そうすると、書店は立ちゆかなくなります。というのも本っていうのは、ものすごく利幅が低い物販なんですね。小売業の中でも特に低くて、本屋さんにとって二割しか利幅がない。二割の利幅の書籍だけで成立していたのは、本がまだ大きなマーケットだったときの話です。

だから今のままでは、カフェなどの複合施設や雑貨に頼らないと経営が成り立たなくなる。例えば、雑貨の利幅って本の倍くらいあります。一万円の本って年に一冊も買わないけど、一万円のバッグを年に三回買う人は普通にいるわけです。単価も大きいし、利幅も倍なので、本屋がそっちの方に依存していくのは当然なんです。

恵文社もどんどん雑貨が増えてきて、あまりネガティブなことを言うつもりはないのだけど、あの中でストレスを感じていたところもあります。経営上は徐々に雑貨のほうが多くせざるを得なくて、観光地みたいに訪れる人がほとんどになってきた。でもそれは仕方の無いことですよね。




「薄利多売のシステムではない、歪なやりかたです」


—そういう厳しい状況のなかで、あえて「本がメイン」の本屋さんに挑戦すると。

今度の本屋さんは、もちろん雑貨の利幅には頼りつつも、あくまで七、八割は本でやっていきたい。そのためにどうするかというと、取次部分をすっとばして、直接出版社さんと取引をします。

出版社にしても取次に六十何パーセントでおろしてるわけですよね。小売店も出版社も取次にマージンをとられて、小売店に八割で届くわけです。そこで、直接取引をするから、出版者には七割で卸してほしいと。

これまでの「日販さんやトーハンさんと契約して利幅が二割で」っていう薄利多売のシステムではない、かなり歪なやりかたです。結構しんどいとは思うんですけど、そういうやり方をすることによって、もう一度本がメインのこじんまりとした、ただ嗜好性の高い面白いものをメインに並べた本屋をやりたいというのが今回のコンセプトなんですね。

—なるほど。ただ、前例のない試みなだけに直取引を断る出版社もあると思うのですが。

ありますよ。幸いにもぼくの場合には経歴もありますし、ある程度信用して取引していただいています。だけど例えば、コミックをメインにしてる大手出版社さんなんかは、多分相手にしてくれないんじゃないかな。それで取引があったって利益は微々たるものなわけですから。

ただ初版三千部のようなスモールビジネスをやっている出版社もあって、そういうところは嗜好性の高いものを作られてるわけですよ。編集やパッケージに力をいれている。少数部数を刷って、定価をちゃんと上げて、嗜好性を高めると利益がでる。そうすると何十万部っていう本を全国にばらまくための取次があまり必要じゃなくなるわけです。

そういう小規模出版社さんにとって直取引は、顔の知った書店に無駄の少ない配本が可能になります。かつ利幅もいい。ミシマ社さんのように出版社さんの方からそれをやっているところもあります。そういう空気が業界にちょっとずつでてきた。

—書店、出版という斜陽産業を活性化するために、堀部さんなりの考えはありますか。

活性化というか生き残りですね。いま新規出店ができない状態なんですよ。大手取次ぎが多額な契約金を要求するし、何の門戸も開いてないわけです。個人で書店をはじめるひとっていないじゃないですか。新規出店のない業界は衰退しますから、そういう意味では構造を改革して新規出店を促すことは業界の生き残りにつながるのかもしれない。

それが大義といえば大義ですが、他人のことを心配する余裕はまだない(笑)。でも、似たような店舗が100店あって、直取引が当たり前になったら出版社もシステムを整備してくるし、六割でも卸してもらえるようになるかもしれません。

誠光社でも、すでにパートナーになっている出版社がメインで30社以上あるんですけど、取引先は全てウェブに掲載しています。業界の仕組みをしらないひととか、大手取次に相手にされないひとにノウハウをオープンソースにして、本屋をはじめるひとが増えたらいいなと思いますね。

「損得や打算ではなく、美意識をもってお金を払ってほしい」


—京都で独立するにあたって、理想としている書店像はありますか。

「誠光社」という名前は、かつて京都にあった「西川誠光堂」という本屋からとっているんですね。一代で終わってしまったんですけど、終戦直後まで熊野神社の前にあって、三高の学生がよく通っていたようです。ハルという女主人に学生が本を教えたり、逆にお酒を飲ませてもらったり。「西川誠光堂」を引き継ぎたいと思って店名をつけたので、学生には来てほしいですね。

でも「学生に目線をあわせよう」とはあまり思っていません。というのも、学生は背伸びして、わからんもんに無駄遣いするほうがいいと思っているので。損得や打算で行動するのではなく、自分なりの美意識をもっておもしろいと思うものにお金を払ってほしい。そうやって何度も通ってるうちに、お店から声がかかってまた新しい景色を見せてもらえると思うんです。

—たしかに常連さんを大切にするお店が京都には多い気がしますね。

京都のひとは「いけず」だってよく言われますが、それはちゃんと敷居をつくって場が荒れないようにしているだけなんですよ。良いお客さんになると、本当に親切に教えてくれます。

お店とお客さんの間にそういう時間がないと、ただの「消費」でしかないんです。今回のお店は私一人だし、お客さんもそんなに多いわけじゃない。三回レジを打てば、お客さんの顔もなんとなく覚えるし、声をかけてくれればお客さんの背景なんかもわかります。何度も通ううちに、お店のひとが「こういうのあるで」って言ってくれるのが自然だし、そういう本屋さんをやっていければいいなと思います。

—ありがとうございました。



PROFILE
堀部篤史(ほりべ・あつし)
昭和52年京都市生まれ。学生時代より、恵文社一乗寺店スタッフとして勤務。2002年から同店店長を務める。2015年8月に恵文社を退社し、新刊書店「誠光社」を立ち上げる。主な著書に『待ちを変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)、『本を開いてあの頃へ』(mille books)など。 http://www.seikosha-books.com/

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