〈11月祭講演会 連動書評〉 橘木俊詔著『「幸せ」の経済学』(2015.10.01)

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本書は経済学の立場から人の「幸せ」を考えるものだ。経済学における「幸せ」とは、消費の最大化であり、消費を決める所得の最大化である。著者は経済学の立場から様々な実証研究や経済学史・福祉国家論・心理学的アプローチなどの幸福研究について考察したあと、経済学的な幸福の定義に疑問を呈する。

複数の幸福度に関する国際比較調査をみると、次のようなことが分かる。第一に、日本は中位にくることが多い。日本人が自国について高く評価しているのは安全や教育であり、逆に収入やワークライフバランスには低い評価をしている。第二に、国の所得水準と幸福度は必ずしも比例しない。主な理由は豊かな国において低所得な人は大きな格差を実感して幸福感が損なわれることなどによる。裏を返せば、所得の平等は幸福度の底上げにつながる。

国際比較のみならず、日本人の幸せのとらえ方についての大規模なアンケート調査も取り上げられている。勤務形態や家族構成、学歴や収入、パーソナリティなどによる主観的幸福度の違いが調べられていて興味深い。民間企業の正社員よりも公務員の幸福度が高い、子ありの夫婦より子なしの夫婦のほうが幸福度は高いなど、意外と思える結果もいくつかあった。

多様な分析を踏まえた上での筆者の結論は、幸福度は経済的な豊かさだけで決定されるものではないということだ。例えば安心感や人との関わり、自然の豊かさなどが他に重視すべき要素といえる。現代の日本経済はマイナスの人口成長率や低下する貯蓄率に直面しており、経済成長率が高い状態で推移することは見込めない。そのような条件下では、経済成長率よりも所得の再分配や余暇などを重視した政策に知恵を絞る方が、幸福度を上げることに寄与するということだ。一つのモデルとしては、ヨーロッパ流の福祉国家の道が挙げられる。

アベノミクスでは株価や企業業績は向上、失業率は減少したが、実質賃金は低下し続け、家計消費も低迷していた。実質賃金の低下には、経済成長率を押し上げるための金融緩和による円安も寄与しており、経済政策の運営にあたって経済成長率と個人が感じる豊かさにトレードオフが生じている。これは経済成長率の向上が万人の豊かさに直結した時代と比べたら大きな違いだ。先日、安倍首相は会見において名目GDP600兆円という目標と「一億総活躍社会」という標語を掲げた。こうした方針が本当に個々人の「幸せ」をもたらすものなのか、といった点も講演会での論点となりうるだろう。(P)

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