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こころの歴史性に焦点 第1回京都こころ会議シンポジウム開催

2015.10.01

こころとその歴史性について考える第1回京都こころ会議シンポジウムが9月13日、京都ホテルオークラで開催され、これからの社会で「こころ」に求められるものについて分野の異なる5人の学者が発表した。

まず吉川左紀子・こころの未来研究センター長が「こころ」という日本語のもつ多面性と複雑性について説明した。中沢新一・明治大学野生の科学研究所長は、神経科学により発見された「ニューロ系」と、精神分析において理論化された「こころ系」というこころの構造の二通りの理解について紹介したのち、両者を通底する原理としての「ブリコラージュ」と「ホモロジー」という二つの概念を提示し、人文科学と自然科学を統一する方向性を示した。河合俊雄・こころの未来研究センター教授は、前近代の世界において個人を超えて拡がっていたオープンシステムとしてのこころについて例証。近代に個人の観念が誕生したことによりこころが内面化されてゆく過程を解説するとともに、ネットワーク化の進む現代において内面が再び消失しつつある状況を指摘した。広井良典・千葉大学法政経学部教授は「人口増加が定常期を迎えた現代こそ物質的生産の量的拡大から内的・精神的発展へと転換する文化的創造の時代だ」と説き、社会保障や福祉をめぐる課題を抱える日本こそはグローバル定常型社会のフロントランナーであると述べた。下條信輔・カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授は、個人史が年輪のように一つ所に蓄積された「来歴」という概念を提示し、色知覚や身体化した知性について来場者に体感させながら、「こころの発達に影響を及ぼす遺伝と環境の両要因は実に複雑に畳み込まれており、それゆえに来歴を振り返ることが重要」と主張した。山極壽一・京都大学総長は、類人猿と人類の食と性をめぐる競合について、類人猿に見られるけんかの仲裁や食物分配といった例を挙げながら解説。それらとは対照的な発展を遂げた人類の、共感を通じた規範の成立と全世界的な倫理の限界について指摘し、「我々の道徳性はいまだ進化の途上にある」と述べた。

すべての講演の後に行われた討論では、閉じてゆくナショナリズムと開いてゆくグローバリズムがともに日本の空気を覆いつつあることの矛盾や、無機的に増殖する資本と有機的に収束する富の価値判断などについて各々の意見が出された。(交)

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