歴代総長を振り返る Vol.2(2015.05.01)

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前回は1897年から1930年頃まで、第一代から第七代までの総長を振り返ってきた。今回は三代の総長にわたって繰り広げられた瀧川事件、別名京大事件について紹介したい。なお今回も『京都大学百年史』を参考にしている。(海)

蓑田胸喜教授の講演


1933年の瀧川事件の間接的な原因として1929年6月の京大での蓑田胸喜教授の講演が挙げられる。右翼思想家である蓑田は『資本論』について批判的に論じて聴衆から激しい罵声を浴びた。さらに直後の座談会でも攻撃されたので彼は逃げるように大学を去ったという。この出来事によって当時の講演部長を務めていた瀧川教授は蓑田の批判対象となってしまう。ただ、この講演を企画したのは講演部の学生であり、瀧川教授は蓑田が右翼思想者だと知った際には講演の中止を申し入れ、講演中には罵声を抑えるよう司会者に指示を送っていたらしい。蓑田は瀧川教授の批判論文を新城第八代総長や文部省などに送ったが、この時は何の反応もなかった。

瀧川教授の著書の発禁


1932年9月に中央大学にて瀧川教授も講演を行っている。内容はトルストイの『復活』の刑罰思想についてであった。講演要旨を「国家の組織が悪いから犯罪が起こるのであって刑罰を加えるのは矛盾だ」と解釈した司法省がこれを問題視し、文部省は法学部長に説明を求めたがこの時も穏やかに解決した。

しかし、1930年代に入ってから満州事変や5・15事件が勃発する激動の時代の中、判事が治安維持法で逮捕されるという司法官赤化事件が起きる。蓑田はその原因は帝国大学法学部の赤化教授だと主張して彼らへの批判を展開した。ついに衆議院でも赤化教授の対応について議論がなされるほどに盛り上がりを見せた。名前は直接挙げられなかったが瀧川教授も非難の対象となってしまった。その結果として1933年4月に瀧川教授著作の『刑法読本』と『刑法講義』が発禁になる。

文部省による休職発令


5月、その年の3月に就任した小西第九代総長は文部省に呼ばれて瀧川教授を辞職させるか休職を命令するように要求されるも拒否する。対して法学部教授会は総長に次のような意見を文部省に伝えるように依頼した。というのは、政府の方針で教授の進退を決定すると学問の進展は阻害され、大学は存在意義を失ってしまうというものだった。その後、法学部教授陣は「教授会の決議なしに瀧川教授が処分を受けた場合には辞職する」と申し合わせ、総長は処分の拒絶の意向を文部省に通知した。しかし、最終的に瀧川教授の処分は文官高等分限委員会に持ち込まれ、休職処分が全会一致で決定した。

二人の総長の解決案


6月に総長は文部省と交渉して一つの解決案を作成した。それは「大学での学問の自由と教授の進退について文部大臣は法令と前例の範囲内では認める」というようなものだったが、法学部はこれを受け入れなかった。こうして小西総長は事件の責任と健康上の都合で辞職を申し出た。

翌月に選挙が行われ、理学部の松井元興教授が第十代総長に就任した。松井総長はまず法学部教授15名全員の辞表を文部省に提出した。それらのうち瀧川教授含む6名だけが受理された。次に文部省と協議して新たな解決案を発表した。「今回の処分は非常特別の場合のものであって原則的に文部省が教授の進退を扱う際には総長の申し出が必要である」という解決案に対して、辞表を受理されなかった9名中7名は留任を決め、残り2名は「非常特別の場合」に文部省の権限が認められることに納得できずに京大を去った。

その後


瀧川事件をきっかけに京大を退職した教官の多くは立命館大学など関西の私大に移籍し、京大に残った教官たちは法学部の再建に奔走した。事件の前後で残留組と辞職組が生まれることになり、彼らの間に精神的な隔たりができてしまった。

ちなみに瀧川教授は1946年に京大に法学部長として復職している。前年には「京大事件に関しては京大法学部が正しくて文部省が間違っていた」と総長から発表された。

法学部教授会は文部省が行った処分に対して、瀧川教授個人の思想についてではなく、大学における学問の自由のあり方についてを問題にした。大学の自治とは何かを考える上で瀧川事件はとても参考になるだろう。

前述の通り、満州事変などが起こる非常時において京大では瀧川事件が起こったわけだが、それから工学研究所や結核研究所の設置など大学の拡大が進展し、次第に戦時体制に移行してゆく。

次回では戦中・戦後の京都帝国大学、さらに京都大学の成立の時代を見ていきたい。

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