複眼時評

高見茂 教育学研究科教授「国立大学の『機能別分化』と地域交流」

2015.04.16

われわれは今、高等教育改革の真只中にいる。文部科学省は、2013年11月に「国立大学改革プラン」を公表し、国立大学の「機能別分化」を高等教育政策の重点施策の一つと位置付けた。国立大学の機能強化策として、各大学は16年度から始まる第3期中期目標・中期計画期間に、①世界最高の教育研究の展開拠点、②全国的な教育研究拠点、③地域活性化の中核的拠点、という3つの類型の何れかを選択し、各大学の強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することを求めた。こうした流れを踏まえ、安倍内閣の成長戦略の実現を図るべく日本経済再生本部の下に設置された産業競争力会議においても、イノベーションの観点からの大学改革について積極的な提言がなされている。具体的な提言としては、上記の3類型への大学の機能分化に加えて、注目すべきものとして、評価と資源配分の仕組みの工夫を指摘できる。そこでは、評価結果と資源(運営費交付金)配分の連動、重点配分枠の一定割合の学長裁量経費化、第3期中期計画・中期目標期間における運営費交付金配分の改革成果連動割合の設定(3~4割)等が提言されている。

去る3月26日、文部科学省の「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会有識者会議」が中間まとめ案を取りまとめた。上記の提言を追認する形で、国立大学の3類型への機能分化を前提に、類型ごとの評価指標に基づき各大学を評価し、その結果を運営費交付金の配分額に反映するとした。教育行政当局が漸く高等教育政策の今後の方向性を具体的に提示したと言えよう。

では京都大学は3類型のどこに位置づくのか。伝統的にノーベル賞をはじめ、特に国際的に高く評価される学術褒賞の受賞者を輩出して来た経緯に照らせば、恐らく①世界最高の教育研究の展開拠点を目指すものと推察される。厳しい財政制約下においては、「選択と集中」を基軸とした資源配分システムが政策誘導手段となり、類型別評価枠組の導入も相俟って選択類型外の機能強化の誘因は弱くなるのは必然である。

京都大学の今後の方向性として、単純にこの「選択と集中」システムに乗ることで良いのか。京都大学は、各分野で優れた知的資源を蓄積しており、現実には多くの分野で②全国的な教育研究拠点としての機能を果たしている。また、創設・拡充期に京都府・京都市から多額の現金・土地の提供等の支援を受けてきたという歴史的経緯から、同時に③地域活性化の中核的拠点としての役割も果たさねばならない宿命にある。ゆえに②、③の部分も京都大学の一部であり歴史を形成して来た重要な要素である。資源配分にリンクさせた機能分化誘導策と現実に果たしている機能との狭間で、正に複眼的思考が求められ極めて難しい舵取りを迫られることになる。

果たして解決策は見出せるのか。運営費交付金の政策誘導手段化(=規制強化)と削減が進む中にあっては、規制強化の見返りとして資源調達面での規制緩和を求め、公財政支出教育費の枠外から自由度の高い資源の調達を進めると共に、調達手法の自由度を高める措置の導入を求めるべきであろう。寄附獲得促進のための税制改正、自主財源としての国立大学法人の借入・債券発行の条件緩和等はその典型である。また、平成28年度の学習指導要領の改訂により、小・中・高校での教育手法がアクティブ・ラーニング(AL)を軸とした課題解決・問題探究型授業へ全面移行する予定である。これを受けて今後大学は、プロジェクト・ベイスト・ラーニング(PBL)や、諸外国のトップ大学で導入が進んでいるサービス・ラーニング等の新しい教育方法も検討・準備しなければならない。「機能別分化」と関わりなく、何れの大学もこれらの教育の効果的な展開を図ることが肝要であり、教育フィールドの提供等地域からの支援を仰がねばならない。このように地域との交流、地域への貢献は、今後大学にとって益々重要な機能の一つとなる可能性がある。それゆえ地域の理解と協力を受皿として、自由度の高い資源によって効果的な教育の展開の必要性・重要性を広く発信することは重要であろう。全学が一丸となって「機能別分化」を超える改革に立ち向かう時期が近づいている。

(たかみ・しげる 理事補(広報・地域交流担当)教育学研究科。専門は教育政策学)