児童文学作家 上橋菜穂子氏 アンデルセン賞受賞記念講演会 「ありのままの人間を見つめて」(2015.02.16)

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物語成立の軌跡を辿る


1月25日、児童文学作家の上橋菜穂子氏が、国際アンデルセン賞の受賞を記念して京都大学稲盛財団記念館で講演した。同賞は、国際児童図書評議会が主催し、デンマークの著名な児童文学者のアンデルセンにちなみ、児童文学への永続的な貢献をたたえて贈られるもの。同氏が受賞した作家賞は日本人で2人目となる。また、本講演会は、同氏が選考委員を務める、第2回河合隼雄物語賞・学芸賞記念講演会として開催されたもの。上橋氏は「物語との旅路―作家になるまで、そして、いま―」と題して、受賞に至るまで物語と歩んだ道のりを振り返った。

上橋氏は、今の自身の物語を築き上げてきた経験を、幼い頃から順に取り上げた。上橋氏の作品には、死や別離など不条理が正面から扱われている。祖母の下で大切に育てられて物語に親しんだ年少期。すでにその頃には死への恐怖が芽生えていたという。その恐怖が、児童文学ながら死から眼を背けない姿勢にも表れているのでは、と思い返す。また、イギリスやフランスなどの児童文学に惹かれていた小中学生時代に、なかでも夢中になったイギリス児童文学作家のローズマリー・サトクリフからは、大きな影響を受けたという。「自分の意志とは無関係に存在する世の中に生まれ落ちて、生きる意味を見出していく。そういった非情な世界で生きる、ありのままの人間の姿」という上橋氏の作品を貫く重要なモチーフを得たと述べた。

さらに、自身のファンタジーに深みを与えた重要な経験として、文化人類学を志したことを挙げた。大学に進学した頃、作家として活躍したいとの思いがあったものの、今まで特別苦労せずに生きてきた自分には何か意味のあることを書けないとのコンプレックスを感じていた。そこで、知らない土地に飛び出して一から人間関係を築いていけば自分を変えられるのではと思い、フィールドワークに出て行く。様々に移り変わる生活を続けることで、「孤立した一人の人間ではなく、多数の人間や生物のもとで生きる人間を描くことにつながった」と語る。最後に上橋氏は、「自分の全ての経験が今の物語につながっているとともに、それが世界に出ていく力となり、アンデルセン賞につながった」と締め括った。

講演の後には臨床心理学者で河合隼雄学芸賞の選考委員も務める岩宮恵子氏が登壇して、上橋氏と対談を行った。対談では、人間の心の問題を物語の観点から解きほぐすことを試みた。岩宮氏は、上橋氏の作品『夢の守り人』を引き出して、心と身体が一致しない、つまり、身体が振舞う世界で起こったことを心では受け入れられないという、人間に特有の問題が吐露されていると指摘。また、臨床現場において患者が自身のつらい状況を受け入れていく過程に話が及ぶと、上橋氏は「人は自身の状況を自身の外側から見つめなおす物語を紡ぐことで納得するけれども、再び悩んで新しく物語を作りなおすという揺れ戻しが現実。作家も安易に物語をきれいにまとめてはいけない」と人間の心理の複雑さを直視。他にも多くの問題について活発に意見を交わし、人間の心の本質へ迫った。(千)

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