複眼時評

森晶寿 地球環境学堂准教授「ポスト2015開発アジェンダの作成と実現に向けて」

2014.12.16

国連では現在、2015年秋の総会での決議に向けて、2030年を達成目標とした『ポスト2015開発アジェンダ』の作成に向けての議論が急ピッチで進んでいる。

ポスト2015開発アジェンダとは、平たくいえば、2001年に国連が2015年までに達成すべきとして決議した『ミレニアム開発目標』の後継となる国連の開発目標である。ただし、2つの点で『ミレニアム開発目標』を深化させている。第1に、2012年の国連持続可能な発展会議(リオ+20)の結果を反映すべく、開発目標は途上国の貧困削減だけでなく持続可能な発展、人間福祉の向上を含むものに拡大された。第2に、目標を達成すべき対象国も、貧しい途上国から先進国を含む全世界へと拡大された。

この結果、ミレニアム開発目標では、最も貧しい国・地域の開発に最小限必要な要素、具体的には、最貧困層の所得向上、初等教育、ジェンダー、基礎的医療、国際的感染症、安全な水などが目標に掲げられたが、持続可能な発展目標では、気候変動・エネルギー・食糧安全保障・格差是正といったミレニアム開発目標には含まれていなかった目標が含まれている。そしてポスト2015開発アジェンダでもこれらのうちの多くが目標として設定されるものと期待されている。

そこで課題となるのは、誰がどのような方法でこれらの開発目標を達成するかである。ミレニアム開発目標では、国連や先進国が、途上国の当事者意識(オーナーシップ)を高めるような形で資金を追加的に供与することで、達成することが想定されていた。そして実際、国際的感染症削減目標に関しては、目標設定後に設立された「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」が、革新的なアプローチを駆使して資金及び医薬品の調達と供給を行ったことで、目標達成に大きく寄与してきた。ところが、貧困削減など他の目標は、中国やインドなどの新興国が急速に経済成長したことで達成に近づいたとされ、必ずしも国際的な資金供給が主要な役割を果たしたわけではなかった。

ポスト2015開発アジェンダではどうなのか。2008年以降の世界経済危機に苦しんでいる先進国政府のみでは、これら広範な目標を達成するための資金を供出することは容易ではない。既にフランスや韓国などで導入されている航空券連帯税に加えて、通貨取引税や金融取引税といった国際連帯税の導入が模索されている。しかし、これらは先進国の金融産業を直撃することから、実現は容易ではない。

他方で、途上国が「共通だが差異のある責任」原則を口実に、「我々は貧しい国なのだから、先進国が対策のための資金と技術を供与するのは当然」との認識を持ち続け、ガバナンス改革を行わなければ、先進国や民間企業からの資金供給も増えず、供給された資金や技術も効果的には使用されるとは限らない。仮に効果的に使われたとしても、政策や制度の改革をもたらさず、一時的な効果しか持たないかもしれない。

そこで重要となるのが、政府や企業、コミュニティが、ポスト2015開発アジェンダを自分事と認識することである。自らが目標達成の主体となって内外の資金・技術・知見を動員・活用するようになって初めてそれらを効果的に活用し、目標達成を阻む障害を自らの手で克服すべく努力するようになることが期待される。

とはいえ、こうした活動がいくつかの先進的な地域に止まっている限り、国や地球規模での目標達成は期待できない。先進的な取り組みと経験・技術が政府や企業、市民社会の手によってより多くの地域に広がり、その拡大から便益を得るアクターが増え、政策や制度の変更を求める力が高まって初めて、目標達成に向けた構造転換も進んで行くのではないか。

これを円滑に進めるにはどうすればいいのか。世界中でさらに知恵を出していく必要がある。