インタビュー

障害学生が学びやすい京大へ 障害学生支援ルームに聞く

2014.12.16

京都大学の障害学生支援ルーム(以下支援ルーム)をご存知だろうか。障害があるなどの理由により修学上悩みを抱える京大生の支援をするほか、障害がある学生が大学で学ぶことについて書かれた『知のバリアフリー』を12月に出版するなど精力的に活動している。

支援ルームチーフコーディネーターの村田淳氏に、支援の内容および一般学生と障害学生との関わりについてお話を伺った。(智)

教育上の障壁を取り除く

学生総合支援センターという独立した部局があり、その下にカウンセリングルーム、キャリアサポートルーム、障害学生支援ルームという3つのセクションが連携して学生の支援をしています。この形になったのは2013年8月で、それまでは、カウンセリングセンター、キャリアサポートセンター、障害学生支援室が、個々に業務を行っていました。しかし、キャリアの相談で来た学生が、何らかの障害があったり、メンタルのサポートが必要な心理状況にあるなど、複雑、多様な学生のニーズに答えるために、現体制に改めました。その中で障害学生支援ルームは、障害がある学生の就学支援に特化して業務をしています。

前身の身体障害学生支援室は2008年4月に設立されました。それまでは、文学部、教育学部など部局ごとでの場面場面の支援に留まっていましたが、学内の障害学生の増加に応え、総合的で質の高い支援をするために、核となる組織を作って中長期的な目標を持って、組織運営していくことになりました。

支援ルームの人員は、室長が兼任で1名、コーディネーター、アシスタントがそれぞれ2名、事務スタッフが1人、合計5名が専任で常駐しています。

聴覚障害の学生に情報保障をつけ、車椅子や視覚障害の人の移動を介助するなど学生への直接的な支援とともに、授業を担当している教員や窓口の職員に理解してもらう活動や、京都大学のフリーアクセスマップの発行などもしています。

受験前には、入試での支援、入学してからの支援について事前に相談をしています。オープンキャンパスでは、参加する中高生に実際に大学に入ってから必要となる様々な支援を体験してもらっています。

就職の支援ではキャリアサポートルームと協力して支援をします。

2008年初年度の正式登録者は15名程度でしたが、今年度は11月現在で37名に及びます。7年で2倍以上と大きく増えていますが、急激な増加は京都大学だけでなく、全国的な傾向です。全日本学生支援機構の調査によると、全国の大学、短期大学、高等専門学校の障害学生在籍率は、2008年度が0.20%であるのに対し、2013年度は0.42%と二倍以上になっています。

主な原因は、目に見えない障害の顕在化にあります。肢体不自由など目に見える障害がある場合は、支援へのアクセスはスムーズですが、圧倒的に多い、発達障害等の目に見えない障害の学生は、適切な支援を受けることができずに、自分の努力や友人の助けだけで乗り越えてきました。

しかし障害学生の割合は、欧米先進国と比べて未だ極めて低いです。アメリカ合衆国、EU諸国平均の障害学生の割合は、それぞれ10%、5%前後。国が違えば障害の定義も違うため単純な比較はできませんが、日本もあと10倍くらいの障害学生がいるのが適切といえるでしょう。

日本では、一般に障害という言葉は機能障害、つまり医学的な診断としての障害としてのみ捉えられています。この意味の「障害」は、英語でimpairmentと呼ばれます。

英語圏ではもう一つ障害を表す重要な用語としてdisabilityがあり、障害の社会モデルとして用いられます。対して、先ほどのim- pairmentは個人モデルといわれます。

個人モデルは、視覚障害でいうと、目が見えないという障害を負っているという状態ですが、社会モデルは、目が見えないことによって、行政で手続きができないなど、二次的、社会的なものを指します。教育機関でいえば、聴覚障害のimpairmentは耳が聴こえないことですが、disabilityは耳が聴こえないことによって、教員の声が聴こえず学習に不利益を被ることです。障害学生支援ルームの最大のミッションは、教育機関が生み出しているこのような障壁を取り除くことですから、音声情報で行われる授業に、PC文字通訳をつけるなどの支援を行います。障害学生支援ルームが英語表記でDisability Support Officeとなっているのもその現れです。

この考えに基づき、正式登録の基準は、手帳を持っているかなど「障害の有無」によるのではなく、何らかの症状が大学教育を受ける上で障壁を生み出しているかどうかに置かれています。

京大の特徴に、全登録者37名のうち、視覚、聴覚の障害学生が、それぞれ2名、5名と少ないことが挙げられます。それは、初等中等教育の影響が大きいです。視覚障害の「見る読む」、聴覚の「先生の話を聞く」。教育を伝える上で重要な二つのツールの片方が欠落してしまった人が学力を伸ばすのは難しいです。

初等中等教育の特別支援学校に、聾(ろう)学校、盲学校がありますが、それらは障害で区切っています。しかし、一般に難しい大学に行くときは、進学校といわれるような一定の学力レベルを持つ生徒が通う高校から入る人が多いですよね。学力レベルに差があるにもかかわらず、障害があるというだけで一つの教育機関で教育することにはどうしても無理があります。

聾学校、盲学校に勉強がよくできる生徒がいても、「この子はよくできるな」で止まってしまう。だから今は普通校に入って支援を求め、学力の伸びを期待する流れが起こっています。

現状では難関大学になればなるほど、視覚、聴覚障害が減る傾向にある。今の京大生で聾学校や支援学校の出身者はいません。

また、37名のうち、15名ほどが大学院生と、大学院生の数が多いです。研究に力を入れる京都大学の特徴といえます。院生の方がより高度な支援が必要となりますが、専門的な技能を持つ人の多様性を確保することは社会的意義があるでしょう。

障害学生支援ルームでは、京大生の学生サポーター(有償)も募集しています。主な業務は、PCを用いたノートテイクですが、その他にも、聴覚障害学生のための書籍のテキストデータ化や、車椅子に乗る学生の移動介助などにも携わることができます。ノートテイクは80名ほどの登録者がいますが、更に登録者が増えることでより円滑に支援を行うことができるようになります。

一般の学生には、誰しもがdis- abilityになる可能性があり、dis-abilityを生み出す可能性があることを知ってほしいです。例えば、大学の建物で車椅子の人がエレベーターで移動しようとしても、沢山人が乗っていて乗ることができないことがあります。気を使って乗せてくれる人もいますが、悪意がなくても、代わってあげられない人もいるし、障害学生自身も遠慮してしまうことがあります。身近な生活で意識してくれると、障害学生との共存がうまくいくでしょう。

今後、障害学生の人数が増える可能性は高く、スタッフや予算の拡充が望まれます。と同時に日々登場する新しいテクノロジーを学び、支援の質を向上させたいです。

また、ハード、ソフト両面から大学をバリアフリー化したいです。物理的に使いやすいものにすると同時に、学生や教職員の意識を高めたいです。

京都大学の活動を、外にも広めていけるような活動も行いたいです。その一環で、「知のバリアフリー」を刊行しました。障害を持つ中高生やその保護者、教員に読んでもらって、障害を持つ人が大学で学ぶということを考える機会になればと思います。

インタビューを終えて

私自身、吃音という言語障害があり、支援ルームには入学時に就学について、3回生になって、就職活動について相談に伺った。吃音は基本的に障害者手帳を受給できない障害で、私自身、手帳は持たない。

相談に行く際は、手帳を持たない私が行ってもよいものだろうかと悩んだ。実際に行くと親切に応対してくれ嬉しく思ったが、その背景にdisabilityという考え方があったことを本取材で知った。

本取材で一番印象に残ったのが、支援の基準をimpairmentすなわち障害の有無ではなく、dis- abilityつまり障害でどれだけ授業を受ける上で困るかに置いているところだ。私自身、「障害」というとimpairmentの概念しかなかったが、disabilityから障害を捉え直すことは、「健常者」と「障害者」の垣根をなくすことに繋がるのではないだろうか。村田氏が述べたように、「誰しもdisabilityになる可能性があり、disabilityを生み出す可能性がある」。障害は私たち全員の問題なのだ。

障害を持つ学生に聞く

実際に支援を受けている学生を代表して、理学部1回生の西尾宗一郎さん=写真(紙面に掲載)=にお話を伺った。西尾さんは肢体不自由で車椅子で生活している。

高1、高2でオープンキャンパスに行き、一人暮らしや学生生活で起こりうる支障にどういったものがあるかを聞きました。一番嬉しかったのが、一人暮らしをしている車椅子の学生を紹介してくれたこと。自分でも一人暮らしで学生生活ができるという実感を得られたのが良かったです。

入学後は希望する支援の内容を伝えて、それを行ってもらっています。3限と4限で吉田南から北部へ移動しないといけない時間割になったときは、北部の授業を吉田南で行うようにしてもらいました。また、実験を一人で行うのが難しいので学生サポーターをつけてもらっています。

また、支援というわけではないですが、支援ルームでの人との関わりも勉強になっています。昼食時や空きコマに、職員や障害を持つ先輩と話すことができ、学生生活へのアドバイスを得たり、障害について考えを深めることができます。視覚障害の学生のために書籍をテキストデータ化するアルバイトも行っています。

全然知らない学生が生協で物を取るのを手伝ってくれるなど、助けてくれることがよくあります。あらためてお礼を言いたいです。

学生サポーターになるなど積極的に関わってくれるのはとても嬉しいですが、同時に、僕のような人がふらっと一般の学生の集まりに来たときに、「普通」の人として扱ってもらって、できないところだけ何気なく手伝ってもらえると嬉しいです。慣れるまではどう扱っていいか困ると思いますが、接するうちに障害者が全く特別な人ではないということを知ってもらえると思います。

よく中身がめちゃめちゃ真面目と思われたりします。でも、授業も普通に休んだりするし、異性に全く興味がないなんてこともない。そういう意味では「普通」の大学生と変わらないのです(笑)

一般の学生に障害学生のことを知ってもらうためには、僕のような学生が外の集まりに出て行くことも大切だと思います。