〈企画〉 京で涼む ~鴨川の源流をたどって~(2014.08.01)

Filed under: 企画類
????????????????????
京阪沿線につづく鴨川の風景はおなじみであろう。両岸が歩行者道路となっているほか、橋代わりに利用できる飛び石もあるため、人との距離が近い川といえる。桜並木が美しい春はもちろんのこと、一年を通じて市民や観光客の憩いの場として広く親しまれている。

今は夏真っ盛り。市内はうだるような暑さに襲われ、人々は空調の効いた部屋に閉じこもりがちだ。そんな中、鴨川で涼む人影もちらほら見える。我々は、さらなる自然の涼を求めて鴨川を上ることに決めた。目指すは水源。鴨川のはじまりを踏破するため、京都盆地を逃れるように自転車で出発した。(千)(北)

魚谷山水源地


7月某日、私は鴨川の源流の一つ、中津川の水源を目指した。中津川は京都市北区に位置する川である。この日の京都市内の予想最高気温は36度。暑さでバテずに水源にたどり着けるのか、不安になりながら自転車のペダルをこぎ始めた。

スタート地点の賀茂大橋からしばらくは、出町柳付近の様子とあまり変わらない賀茂川の景色が続く。30分ほど進んでいくと、川幅が少しずつ狭まってきた。遠くにあった山が次第に近づいてくる。この時点ではまだ道の勾配はゆるく、普段市街を移動するのとあまり変わらないサイクリングとなった。

約1時間後に山幸橋に到着。ここから坂が徐々にきつくなり、進むのが辛くなる。道路は木々に囲まれ、雲ヶ畑地区の集落まで住宅はほとんど見られなくなる。川幅は約4メートル。下流と比べ水が速く流れており、せせらぎの音が心地よい。水遊びする人が何人かいて、なんとも涼しげな様子であった。

休憩を何度もはさみながら、賀茂川(雲ヶ畑川)に沿った府道61号線をさらに1時間進み、雲ヶ畑地区の出合橋に到着した。そこから中津川に沿って水源まで移動する。貴船山への道と魚谷山につながる道に分かれる松尾谷分岐からは勾配がさらにきつくなり、自転車を降りて押して歩くことにした。もう完全に山の中である。幸いにも道路は舗装されており、砂利道を進むよりは楽であった。しかしいたるところに岩や石が散らばり、道路のすぐ横は急斜面であるため移動には細心の注意を要する。中津川の川幅は1メートル程度。進んでいる道と必ずしも平行に流れてきてはいないので、途中何度か川を見失ってしまう(写真①参照)。このまま水源にたどり着けるのだろうかと心配になってきた。そのうえ、普段運動する習慣のない私の体力は、この時点で暑さと移動に伴う疲労のため限界に近づいてきた。ふくらはぎが痛み始め、今にもつりそうである。

歩きと休憩を繰り返し何とか進み続け、出発してから約4時間後、ついに中津川の水源と思われる地点に到達した。道から少し離れたところで川は治山ダム(注1参照)でせき止められており、その先に水の流れは見られず、この地点が水源だと判断できる。水は地面にわずかにしみだしている程度にしか存在していなかった。

川の水源は地図上で明確には示されていないため、実際にたどり着くまではどこにあるのか分からない。暑い中、必死に道を進み続け、ふと姿を現した水源を目にして得られた充足感は、予想をはるかに超える大きなものであった。(北)

注1・・・治山ダム
水源涵養機能をはじめとする森林の持つ多様な機能を強化するために、渓流の勾配を緩やかにすることで浸食を防止するとともに、土砂をせき止めることで流出を防止するのを目的として設置されている治水施設。

桟敷ヶ岳水源地


祖父谷川は岩屋橋より北の流れで岩屋川とは異なるものをいう。今回紹介する鴨川の源流の中で最も距離が長く、最も多くの水量をたたえているのがこの祖父谷川だ。手元の地図を見る限り、桟敷ヶ岳の北東の麓辺りに水源を見い出せる。岩屋橋付近に設置された周辺地図では、桟敷ヶ岳登山口まで3・8キロとなっているがさらに先であろう。

洛雲荘周辺には川に沿って提灯が並び、木々の下の暗がりに赤い光を放っている。風流な景色を後にして北上していく。しばらくいくと勾配がかなり急になり、自転車を押して歩くことになる。道はひたすら祖父谷川に沿っており、川の様子を横目にしつつ上ることになる。既にお察しではあろうが、この道を通る車はないに等しい。それにも関わらず、どういうわけか途中から2車線道路に拡張する。地図上ではこの府道61号線は一旦途切れるものの京北で再開しており、京都市と京北をつなげる計画があったのではと推測される。しかし、京北・左京山間部土木事務所によれば、現在そのような計画はないのだという。その2車線道路を私一人で独占しつつ水源を目指す。

その後2車線道路は1車線になり、舗装道路の終点辺りに桟敷ヶ岳へ至る登山口を道の脇に発見した。祖父谷川はまだ多くの水をたたえて流れており、水源はまだ先のようだ。未整備の林道をしばらく進むと急に視界が開けた。二又に分かれ、川の流れる方向へ行くと治山ダムが目の前に現れた。ここの標高は700メートルを超える。岩屋橋付近の標高が約300メートルであるから、5キロほどで400メートル以上一気に上ってきたことになる。

桟敷ヶ岳へ至る祖父谷峠の登山道が、治山ダムの脇から始まっていた。しばらくは道沿いに川も流れるが、途中で決別した。無論私は登山道を外れ、川づたいに進む。水量は少なく水源は近い。

岩屋橋を出発して約1時間後、ついに水の流れが途絶えた。しかし、ここが水源だとにわかに判別しがたく、その先に水が流れていないか確かめるためさらに先へと進んでいく。しばらく進んだところで、夕立の雷の音が近くなるとともにそれに続いて雨が降り始めたため、引き返すことに決めた。ともあれ水源は無事に特定できた。

当初私は、水源は決まった場所にあると思い込んでいた。しかし、実際に到達してみるとそうではない。流れが途切れている地点がはじまりであった。そのため、水源は日々移り変わっていると考えられる。大げさに言えば、この日私が到達したのは、過去に誰も見たことがなくこの先目にする者はいない、いわば自分だけの水源なのだ。そのような特別な地を見いだすことが水源探訪の醍醐味といえよう。(千)

岩屋山水源地


出合橋から流れに沿ってさらに北上していくと、寺院や神社をところどころで見かけることになる。ここ賀茂川(雲ヶ畑川)上流は、皇位継承争いに敗れた惟喬親王が逃れた場所とも伝わり、関連する史跡がいくつもある。それら寺社の中で最も山奥にたたずむのが、私がこれから目指す志明院だ。この寺院の奥地に信仰上の鴨川の水源地が祀られているという。

急な坂道が続くものの、15分程度自転車を漕げば岩屋橋に到着する。ここが岩屋川と祖父谷川の合流地点だ。岩屋橋付近は、雲ヶ畑もくもく号のバス停の終点をはじめ(注2参照)、周辺地図掲示板や公衆トイレ、自動販売機が設置されているほか、旅館「洛雲荘」や食事処「畑嘉」が店を構える。

ここから先は岩屋橋をわたり、舗装された林道を岩屋川沿いに上がっていくことになる。途中で祖父谷川の水源をたたえる桟敷ヶ岳への登山口を通り過ぎるほか、目印はないといってよい。といっても、ひたすら岩屋川沿いの一本道を上っていくだけなので迷う心配はない。進むごとに勾配は急になっていくようだ。結局、岩屋橋から30分ほど歩いたところで志明院に到着した。

志明院は西暦650年に役行者によって創建されたと伝わり、非常に長い歴史を誇る寺院である。私を出迎えてくれた寺院の方は「古くからこの場所を守り続けてきた志明院は、都を潤す水源地として祈られてきた」と話す。

階段を上り大きな門をくぐって先へ進む。左手には水の神様を祀る銅像と小さな滝が流れている。右手の階段をさらに上っていくと、木製の「清水の舞台」ならぬ鉄製の「志明の舞台」がそびえる。舞台の上には大きな岩を覆うように立派な社が建てられている。ここが志明院の最も奥まった場所に位置する鴨川の水源地だ。

岩の奥は暗くてよく見えないが、ここから鴨川のはじまりとなる一滴が湧き出ているのであろう。一人、聖域として祀られた源流を眺めていると、非常に静かで神聖な気持ちを感じられた。ここを訪れた司馬遼太郎が宮崎駿に「もののけ姫」の着想を与えたといい、それにも頷ける。自然やそれを尊ぶ信仰を大切にしていきたいと強く思った。(千)

注2・・・雲ヶ畑もくもく号
 雲ヶ畑自治振興会が主体となって、2012年から運営しているバス。地下鉄烏丸線・北大路駅前から路線が始まり、終点の雲ヶ畑岩屋橋まで30分で運行する。1日2往復で、北大路駅前から雲ヶ畑地域までの運賃は大人500円、こども250円。定員9名のジャンボタクシーが運行する。詳しくは、雲ヶ畑観光協会(075・406・2001)まで。

【志明院の案内】
・拝観時間 9時~17時(入場は16時30分まで)
・拝観料 中学生以上300円 小学4年生以上中学生未満200円
・電話番号 075・406・2061
・注意 山門内写真撮影禁止

さいごに

 
今回の取材を通して、鴨川は思ったより上流が近い川であることがわかった。雲ヶ畑地域には、車を使えば市街から数十分で訪れることができる。さらに、水源近くまで舗装された道路が続いており、さほど困難を感じずに到達することができる。ここ水源付近も同じ京都市内ということもあって、鴨川は上流まで親しみやすい川といえる。しかし、それだからこそ人の手で汚されるのも容易だ。人の目が届かない山奥にごみが捨てられる現状は、全国各地で今や深刻な問題となっている。ここ鴨川の上流ではほとんど気にならなかったものの、気をつけなければ汚されるのは早いだろう。

鴨川の清流と森林をいつまでも守り続けるために、私たちは何ができるだろうか。もちろん私は一学生であって、数年後にはこの京都の地を去っていくかもしれない身だ。だからこそ、そんなひとときの滞在者が受けているこの豊かなせせらぎとこもれびを、これからここで暮らす多くの人々にも感じてほしい。そこから鴨川を大切にしたいとの気持ちが育つだろう。鴨川の上流へ訪れて、多様な顔をもつ鴨川に親しんでみてはいかがだろうか。(千)

トップページお問い合わせサイトポリシー著作権について個人情報の取り扱いについて
京都大学新聞社 〒606-8317 京都市左京区吉田本町 京都大学構内 TEL:075-761-2054(直通) 075-753-7531(内線2571) FAX:075-761-6095