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新総長に山極氏 「全学教員と協力体制を」

2014.07.16

京都大学の次期総長候補に山極壽一(やまぎわ・じゅいち)理学研究科教授(62歳)が、7月4日選出された。松本紘現総長が9月末で任期を満了した後、就任する。任期は今年10月1日から6年間で、再選はない。山極氏は記者会見で「世界的に有名な多くの科学者を生み出してきた土壌を支え、それを世界に向けて発信するにはどうしたらいいのかを全学体制で考えていきたい」と抱負を述べた。
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山極氏は6月2日の学内予備投票で2位に選出され、その後の選考会議で第一次候補者6名に残った。7月3日の「意向調査」でも多数の教員の支持を受け、最多票を獲得。湊長博医学研究科長との決選投票も制した。これを受けて7月4日に総長選考会議が山極氏に面接調査を行い、次期総長候補者に決定した。文部科学省から正式に任命された後、10月1日に就任する。

山極氏は京大理学部出身。京大では理学研究科長・理学部長、教育研究評議会評議委員、経営協議会委員を歴任した。霊長類学が専門で、日本霊長類学会、国際霊長類学会の会長も務めた。

次期総長に選出されたことについて「大学の財産は学生だ。彼らをいかに育て上げ世界で活躍できる人材にして送り出すかが、総長として課せられた使命だ」と話し、「全員の意見を迅速にまとめて、きちんとした企画を作り実行していく」と大学運営に意欲を示した。

理事など執行部として大学の経営に携わったことはないが「大学がビジネス化していく時代の中で私一人が経営を担うのは時代遅れ。全学の教員を巻き込みながら教学と大学経営という二つの方向性を定め、協力体制を作っていきたい」と話す。

現在、文科省の規程では国立大学法人の学長等の任期は2年以上、6年以内とされているが、山極氏はこれについて「6年という任期のどこかで総長の業績を評価する機会が必要だと考えている。その上で教員が総長をリコールできる制度を設けたい。私としてはそれがやりやすい」と語る。

山極氏は現在も学生を指導しているが、総長を引き受けた動機について「予備投票で2位に選出されたことが大きかった。私自身が立候補したわけではないにも関わらず、多くの教職員から推薦を受けたことに大きく心を動かされた。教えている学生諸君には申し訳ない気持ちだが、それ以上に大きな期待を寄せられたと思っている」と胸中を語った。

また、学生には「京大のアクターは学生。自由の学風と創造の精神を忘れずに、教員と対話し、知識、経験を奪い取ってほしい」とメッセージを送った。

学外候補は残らず

今回の総長選では、4月の選考会議で、第一次候補者に対する教職員等の投票の名称を「学内意向投票」から「意向調査」とするなど規定が変更された。そのほか、第一次候補者とする学外者の上限を2名から3名へと引き上げたり、選考会議委員のみに限られていた学外者の推薦資格を国内外の学長等にも拡大したりと、候補者を学外にも広く募った。会議の議長を務めた安西祐一郎氏(独立行政法人日本学術振興会理事長)は、今回の総長選考について「選考会議が主体的に候補者を選考し、これからの時代を形成していくべき京大のリーダーにふさわしい人材を世界中に求めることを方針とした」と振り返る。

こうした変更の一方で、結果的には、学内投票などによる伝統的な選考方法が保たれた。学外者の推薦はあったものの、第一次候補に残ったのは学内者のみ。選考会議による第二次選考でも、意向調査で選ばれた山極氏を追認した形となった。学外への推薦依頼も海外の19機関に出されたが、推薦者が出たのはアジアの大学の1件のみで、第一次選考では候補に選出されなかった。

安西氏は「実質的には以前の選考方法と似たようなものになった」と述べ、次回の選考方法や総長の任期に関しては「次の選考会議が議論するだろう」と語った。

「山極氏に投票しないで」 学生有志が貼紙

山極氏が第一次候補者として選出された6月末、学内の掲示板の至るところに大きく「山極教授に投票しないで」と書かれた貼紙がされた。文学研究科と理学研究科の学生有志が作成したもので「研究者としての山極教授が京大の発展には不可欠」「山極教授が次期総長に選出されることに反対する」といった内容だった。山極氏はニホンザルやゴリラの研究を40年以上続けており、現在も霊長類学の第一線で活躍しているが、総長に就任する以上、研究職を続けることは難しい。会見でも山極氏は「研究職については一旦店じまいをする必要がある」と話した。

結果として山極氏が選出されたが、学生有志の一人は「山極氏が選ばれたことで霊長類学の知名度が上がることは期待できる。ただ、立候補をしていないのに祭り上げられて総長になってしまう現行の総長選の仕組みはおかしい」と問題点を指摘した。

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