文化

〈ドイツ留学体験記〉 ~Googleで「留学 失敗例」と検索しないために~

2014.05.01

留学というと、外国語に長けていてお金持ちな育ちのよいエリートや、外国人と闊達に議論し世界で活躍する「グローバル・リーダー」がするものだというイメージがないだろうか。しかしこの体験記では、平凡で控えめな京大生のドイツ留学1年間における等身大の日常や困難を率直に述べていく。これを読むことで、留学は実は身近で敷居の低いものだということを知ってもらえたらと思う。(P)



北京での8時間のトランジットを経て、私はフランクフルト空港に着いた。「○○行きのバスはありますか」という簡単な英文も、頭の中で復唱しないと出てこなかった。海外に一人で行くのがこの留学で初めてだったうえに、英会話経験がほぼ皆無だったため、留学当初はひたすら「とにかく喋れない!」という困難に直面していた。

そんな私の最大の困難は、友人を作ることだった。「日本語も英語もほとんどしゃべれない人と一緒に居ても、大した意思疎通もできず退屈するだろう」と考えると、ろくに英語が喋れない私が外国人に話しかけるのは気が引けたのだ。留学生のコミュニティというのもあったが、あまりドイツに来る学生とは馬が合わない、と勝手に思っていた。実際、ビールが安く学費も安いドイツには、酒を飲んで遊び呆けるためにヨーロッパの他国から来る留学生が多い。「交流イベント」でナイトクラブに行って、酒を飲みながら踊り狂う彼らを見て「僕はこんな刹那的な楽しさはいらないのだ」と斜に構えて一人ひっそりと帰宅したこともあった。

そうしたこともあり、留学の前半はひたすら例文暗記をしたり、英語で映画鑑賞をするなど、一人で過ごす時間が多かった。日本人の知り合いに「最近何をしているの?」と訊かれると、「今日は天気がいいからマイン川で本を読んでいたよ」と答えていた。私はひょうひょうとした体で情けなさをごまかしていたのだ。内心は穏やかではなく、「留学 失敗例」とグーグルで検索しては自分よりも惨めな人を探して慰みとすることが何度もあった。

数か月経つと、さすがに地道な英語の独習はそれなりに功を奏し、友達も少しずつ増えてきたが、どうも英語力が飛躍的に向上しないと思ったので、夏休みの間にイギリスに語学留学をすることにした。「留学中に留学なんて変だ」と言われることも多かったが、夏休みは2か月半とあまりに長く、たいていの学生は実家に帰ってしまうので、ドイツにいても暇だったのだ。ともかく、旅行に行くつもりだったお金と時間を英語留学に費やした結果、私の会話力はかなり上達した。午前は授業、午後は市内観光などのアクティビティ、夜はホームステイという英語漬けの環境だったので、むべなるかなという感じである。

ドイツに帰って新学期が始まったときには、周りが急にフレンドリーになった気がした。「外国人と仲良くなれないのは自分の性格のせいなんじゃないか」などと考えていたこともあったが、やはり語学のハンディが大きかったのだと思う。ロシアや中国、チュニジアなどいろいろな国から来た留学生と話すうちに、酒を飲んで踊り狂うことが楽しめない外国人もいると知った。「お酒を飲みながらクラブで踊るよりコーヒーを飲みながらカフェで話すほうが好きだ」というデンマーク人とはよく語り合ったし、「パーティに行くと社交的な人のふりをしなきゃならないから疲れる」とゴネるドイツ人とも仲が良くなった。

そしてもうひとつ、友達を作るのに障壁となっていたのは、やはり文化の違いだったと思う。当初中国人や韓国人とは割と仲良くなりやすかったが、欧米人の友人がなかなかできなかった。後から気づいたのだが、欧米人と話すときは、自分の意見をはっきりと遠慮せずに行ったほうが、相手と打ち解けられる傾向にある。また彼らは皮肉をよく言うので、それをいちいち真に受けると「冗談が分からないヤツだ」と思われてしまうこともある。

留学の目的は、語学の上達と外国人との交流、そして日本とは異なる文化の社会を体験することであり、それは英語で会話が出来るようになってきた留学後半になって初めて達成できたと思う。私は留学前にろくに語学の準備をしなかったので、そのために前半は一人でいる事が多く、海外にいる時間を無駄にしていた。ドイツで暮らし始めて必要に迫られたからこそ英語を本気で勉強したのであり、日本にいながら語学に熱心になるのは大変だと思う。それでも無責任ではあるが、私の体験から言えば、留学前に最大限の語学の準備をしておくべきだといっておきたい。

ドイツでの学生生活事情

ドイツ語と英語 フランクフルト大学には英語しか話せない留学生も多く、ドイツ人大学生もほぼ全員英語が話せるため、ドイツ語ができなくても国際交流は十分楽しめる。英語での授業も多い。もちろん、市井のドイツ人と会話したり、ドイツ語の新聞やテレビが理解できれば、より深くドイツを知ることができるだろう。

大学の講義 ドイツの大学の講義形式は、大教室で講師が一方的に喋るというのが一般的。基本的に成績はテストだけで評価される。私はドイツ語専門ではなく経済学が専門のため、経済の授業を英語で履修することが多かった。英語で開講されている授業も多数あり、留学生に限らず正規のドイツ人大学生も英語講義を履修していた。

交通費 寮から大学まではバスと地下鉄で20分強の距離であった。しかし学生証を持っていれば市内・州内の大部分の公共交通機関を無料で利用できる。大学に半期に支払う学費は約4万円ほどだが、実質これは定期券代のようなものであった。

家賃と生活費 このように交通費も割安だったのだが、学生寮の家賃も比較的安かった。トイレ・シャワー・キッチンが共同だが部屋は個室で、月々2万8千円ほど(光熱費等全て込みなので、家賃が高いことで有名なフランクフルトにしては破格)。加えて生活費も比較的安く済んだ。ドイツでは日用品にかかる消費税は6%で野菜や果物の価格は日本よりも安かった(日用品以外にかかる付加価値税は19%と高い)。

アルバイト 学生ビザでも一定時間・給与の範囲内であればアルバイトをすることができる。私は月1万4000円ほどの民間ドイツ語学校の学費を自分で稼ごうと思い、週に1回は日本人経営の寿司屋でアルバイトしていた。

語学学校 そのアルバイト代で通っていた民間のドイツ語学校は、学生だけだなく会社員や専業主婦も多く、人種も多様で、ドイツ社会の多文化な側面を垣間見ることができた。フランクフルトにはトルコやアジアからの移民が多い。ドイツ語学校の生徒はそうした国々からドイツへの永住や留学を目指して通っている。専業主婦は、「ドイツ人の男と結婚したが、夫とは英語で喋っていたので、これからドイツ語を勉強する」といったフィリピン人・ベトナム人などといった境遇の人が何人もいた。

※記事中の価格は1ユーロ=140円で統一している