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ミャンマーの大学教員育成を支援 土木工学分野に重点

2013.11.01

京都大学は10月21日会見を開き、小野紘一シニアリサーチアドミニストレーターは、JICA(独立行政法人国際協力機構)の「ミャンマー工学教育拡充プロジェクト」に参画することを発表した。京大はミャンマーのインフラ・産業開発を担う土木工学系人材の育成支援にあたる。

本プロジェクトは、ヤンゴン工科大学とマンダレー工科大学を対象に行われるもの。今年9月、工学研究科に設置された「ミャンマー工学教育拡充支援ユニット」を中心として推進する。プロジェクトには様々な専攻に所属する教員が関わるため、事業の円滑化を目指して本ユニットが設置された。本プロジェクトでは、基幹大学の京大に国立6大学連携ネットワーク(新潟大学・金沢大学・千葉大学・岡山大学・熊本大学・長崎大学)を加えた合計7大学に対し、JICAから総額13・5億円が提供される。

京大と協力企業から5年間で100人規模の現役教員・退職者・産業界の実務者を現地へ派遣し、教員に対する講義や研究指導、技術指導などを行う。すでに今年8月下旬から10月上旬までの間、22名の教員を派遣し、両大学院の学生へ教員養成を目的として集中講義を行っている。また、教員不足をひとまず解消させるために、ミャンマーの地方工科大学から合計30名から40名の教員を選抜し、両大学の土木工学科へ移籍させる。京大は今年11月中旬から12月中旬にかけて、これら移籍予定の教員に対してヤンゴン工科大学において研修を行う。さらに来年1月以降、京大の工学研究科OBを長期派遣する予定。

このほか、大学院生を教員として養成する過程で、優秀な学生を発掘し、京都大学の博士課程に進学させ、「日本式の研究室」による実践的な実験・演習を伴う研究教育手法を習得させることも計画されている。さらに現地の両大学でも「日本式の研究室」システムを定着させることを目指す。小野氏によると、「日本式の研究室」では、同じ分野を専攻する学生同士が互いの実験に手を貸すことで学ぶことも多く、卒業後も人脈が維持される利点があるという。

今回の支援は、小野氏を中心として京都大学学術研究支援室が2012年5月にミャンマー調査を行ったことを発端とする。この調査はミャンマーの教育・研究・人材育成に対して京大としてどのような支援ができるかを見出すために実施された。支援策を模索しているうちに、JICAがミャンマーの教育支援を担うことになり、同年11月から京大はJICAのミャンマー調査業務に参画した。これ以降の調査はJICAと共同で行われ、今回JICAのプロジェクトに参画するに至った。

会見で小野氏は本プロジェクトに関して次のように語った。ミャンマーの両大学では軍事政権による思想や学問の弾圧の影響で、両大学の土木工学科に所属していた計80人近い教員が地方の工科大学へ移され、結果として両大学合わせて30人以下に削減されたという。本プロジェクトで地方工科大学の教員を両大学に移籍させることは、地方工科大学における教育力の低下を招くが、この問題は両大学の博士課程を修了する大学院生が教員となることで、将来的には解消されるとしている。また、現在の実験設備は50年以上前の古いもので、JICAが新しい実験器具を購入することになっている。しかし小野氏は、実験講義を行える教員がいないため、実験器具の使い方の指導も含め、教員の養成が急務であると付け加えた。

なお、本プロジェクトの開始に関連して10月4日、京都大学はヤンゴン工科大学およびマンダレー工科大学との間に大学間学術交流協定を締結している。教員の短期派遣や留学生の受け入れ、共同研究等はこれを基盤として行われる。