文化

〈特集〉 「学域・学系」構想の現在 第二編 ~改革をめぐる本部の姿勢を問う~

2013.10.16

今年3月に明らかとなった「学域・学系」構想(当初は「ファカルティ」という呼称が使われていた)について、京大新聞では3月16日号で初めて報道した後、7月16日号で続報を取り上げ、最近の9月16日号では「学域・学系」構想に対して部局側から提示された3つの対案、及びそれを受けた本部側の骨子案を掲載した。

今号は9月16日号の続きとして、「学域・学系」構想を、松本総長・江崎理事・村中副学長から教職員に向けられた2通のメールに即して読み解くことを試みる。

また第2面では資料編として、8月7日及び10月10日の総長メールを掲載するとともに、大学の機能強化に関わる、近年の国や大学等の動きを年表で示している。(朴)

>第一編はこちら<

はじめに、本部側の考えを大まかに把握するため、8月7日の総長メールを簡単に要約すると、

1(1)お金がありません。お金をもらうために改革(教育研究組織の再編)が必要です。(2)しかし部局自治が改革の邪魔です。2(1)そこで教育研究組織(部局)から教員組織(人事権)を分離します。これで改革がやりやすくなります。(2)さらに改革しやすくするために、教育研究組織ではなく教員組織(学系)で改革の議論をすることにします。また全学及び学域が学系に影響していくことで、改革の方向性を調整します。(3)学系は当面現在の部局を基本に構成しますが、分割や統合により議論しやすい規模にします。3以上、言うとおりにしてください。

おおよそこのようになる。末端まで扱うときりがないので省いた部分も多いが、文章の本筋を損なっていないつもりではある。なお総長メールの実際の内容は以下に資料として掲載している。

部局側からの批判

続いて、本部案に対する部局側からの対案について、論点を簡単に整理する。9月16日号に掲載した3つの案をもとに話を進める。

まず部局案②(文学研究科等)は、本部案の主眼が人事管理にあり、教育・研究の在り方についての議論が欠けていることを批判し、改革の主体は教育・研究を直接担う教育研究組織であるべきだと主張している。

また「学域・学系」構想は、教育研究組織を再編するための下準備として位置づけられている。この時点で教育研究組織を再編することが無条件に前提となっているのだが、教育研究組織の再編イメージは一切示されていない。部局案③(理学研究科等)はこの点を「教育研究組織のあるべき姿が共有されないなかで不安定性だけを導入すれば、教育・研究機能の予期せぬ低下を招く恐れがある」と批判している。このまま教員組織を分離してしまえば、その後教育研究組織がどうなるかわからないということである。部局案①(工学研究科)も同様の批判をしている。

本部側の姿勢

部局側が3つの対案を提示した後、それを受けて本部側が修正案を出した(9月10日「京都大学の持続的発展を支える組織改革の骨子(案)」)。その内容を説明すると同時に「組織改革の必要性についてあらためてご理解をお願いする」ため、10月10日に再度総長メールが送られた。しかし何が修正されたのかと言えば、実際にはほとんど変わっていない。

一番重要な点として、部局案が総じて教員組織の分離を批判しているにも関わらず、修正案の中でそれは維持されている(むしろ時期が早まった)。これについて総長らは「教育研究組織への所属が否定されるとの誤解を生じたことも事実であり、「本籍の移動」という表現は現在の修正案では削除しました」と説明しているが、表現を削除したというだけで、教員組織分離の実質はそのままになっている。

しかも批判された原因が、自らの案ではなく、部局側が本部案を「誤解」したことにあるという。それ以外に部局側の対案を本部側はどう受け止めたのかといえば、「特定の学系間ではより緊密な連携を行う場合も想定されるとの指摘を受け」くらいしか見られない。結局のところ、本部側は対案を無視したに等しい。もしくは「誤解」したかのどちらかだろう。

* * *

ここまで、「学域・学系」構想をめぐる議論を整理しながら、本部側の姿勢を分析してきた。しかし、元よりすべての論点を挙げることなど不可能とはいえ、紙幅の都合上かなり論点が限られており、不十分とさえ言える。ただ9月16日号と今号とで資料は十分に掲載しているつもりなので、それを基に「学域・学系」構想についてさらに考えていただければ幸いである。

最後に、私とは別の観点から今回の構想を捉えた一文を「ある教員の話」として以下に掲載する。名前は伏せてあるが、実際の京大教員の話である。

「ある教員の話」

今回の「学域・学系」構想の問題点は、

①教育・研究体制の再編を謳っているにも関わらず、実際には、事実上、予算と人事権を本部にまとめる方向がはっきりでていること。したがって、教育体制そのものについてはほとんど何も言われていないこと。またステークホルダー民主主義などという美名のもとに、その実、理事会などに入っている外部委員や産業界の意向ばかりが反映されていること。その際、学生の聴取などは一切行われていないこと

②部局自治の原則(これは予算と人事の配分や決定も含む)を無視するものであること(松本総長は全教職員向けメールのなかではっきりと部局自治が改革の障碍になっている旨述べている)

③教員組織にまとめられた場合、多人数の部局や「重点的」な研究対象と見なされた分野が人事権を握り、京大の学問的伝統やそれぞれの部局の学問的伝統を無視して人事の再配分が行われる可能性が高いこと

などが挙げられる。

「学域・学系」案は、基本的に国の文教政策に則った改革で、大学本部の権限強化により、「選択と集中」を介して重点的研究分野に予算を投入し、「イノベーション」= 産業化できる新分野開拓(たとえばiPS)を実現するというラインで構想されている。そもそも予算を投入すれば新発見ができるのか、と言いたくなる博打のような性格を持った政策である(この辺、個人的には、脱産業資本主義時代に、まったく産業資本主義のロジックで突き進んでいるような印象を持っている。先進国におけるGDPの70%は「サービス業」によって占められているのだが)。この点、完全に理系主導で、「産学協同」路線を驀進するものである。ただ、同時に学生人口の減少をにらんで、大学の教員ポストを削減して行くという方針と対になってでてきている。ある意味、国の貧困化に伴って新たな大学の教育研究体制が模索されているという趣がある。

すでに向こう8年間で12.6%の教員の削減を既に打ち出している京都大学としても、今後、何らかの対処を強いられるのは確かだ。普通、この手の「経営合理化」をすれば業務を縮小するものだが、人数は減らすが業務は減らさないというのが現在の本部の姿勢である。ではどうするか、というところで出てきたのが「学域・学系」案であり、基本的にこれは大きなアリーナを作っておいて、後はじっくり時間をかけてそれぞれの教員組織のなかでポストと予算の奪い合いをしてつぶし合いなさい、という「制度設計」だと考えている。結局のところ、産業界や政府の意向を承けての改革で、大学にいる構成員が主体となって、いかなる教育研究体制を理想として、いかなる改革を模索すべきなのかについての一切の議論が欠けている。

<資料編>

【総長メール①】本学の組織改革について(2013.08.07)

教職員の皆様へ

総長     松本  紘
理事・副学長 江崎 信芳
副学長    村中 孝史

教員の皆様におかれましては、日頃より教育・研究にご尽力いただき、感謝申し上げます。皆様もご承知のとおり、現在、教育研究組織改革専門委員会の合同委員会において、京都大学の教育研究組織改革に関する検討を行っています。その内容については、すでに各部局長を通じて逐次お知らせしているところですが、京都大学の将来にとってきわめて重要な問題ですので、あらためて教員の皆様に検討内容についてご説明申し上げ、組織改革に向けた皆様のご理解と積極的なご議論をお願いしたいと思います。

1 組織改革をめぐる議論の背景

(1)運営費交付金の削減と競争的資金の内容変化

法人化以降、運営費交付金の削減が続き、これに対応するための工夫や努力を迫られる状況が続いています。国の財政状況が厳しい中、こうした状況には改善の兆しがまったく見られず、さらに悪化する可能性も大きいと判断しています。また、昨年度からは震災復興協力を目的とした給与削減が求められ、本学の運営はますます厳しい状況となっています。教育・研究の基盤は何をおいても人であるとの考えから、教員定員の削減には慎重な態度をとってきましたが、昨年度末には、平成26年度以降の定員削減を決定せざるを得ませんでした。各部局には、今まで以上の工夫や努力が求められることとなりますが、部局によってはもはや単独で対処することが難しい状況になる可能性も生じます。今後は、大学全体での対処のあり方を検討しなければならない状況となっています。

また、運営費交付金削減の状況下で獲得の必要性が大きい競争的資金の内容を見ますと、昨今は、いずれも組織再編を促すような内容のものとなっており、大学が積極的に社会的ニーズをそのミッションや組織のあり方に反映しなければ獲得できない仕組みとされています。この点においても、部局の枠を超えた大学全体としての取組をより積極的に推進する必要に迫られています。

(2)本学における部局自治を根幹とする組織運営の問題点

本学におきましては、法人化以降も、部局自治を原則とした大学運営を行ってきました。このような部局自治は、それぞれの学問分野の継承・発展を確保する見地からすると、大きな役割を果たしてきたと言えますが、他方、大学全体としての方針やそれに基づく組織再編の実現にとっては、むしろ消極的に作用してきたように思われます。

どの部局におきましても、それぞれのミッションの遂行を責務とする以上、まずは自部局の利害に関心が向くのは当然です。部局にはそれぞれ定員が配当されるとともに、教員候補者の決定権という大きな権限が認められていますが、各部局がその権限を行使するにあたっても、自らのミッションを優先することはいわば当然のことと言えます。しかし、これでは、およそ大学全体としての方針を決定したとしても、それを実現するために、現在の組織を改革することはほとんど不可能となります。法人化以前では、たとえ部局が反対しても、文部科学省により組織改革が行われる可能性はありましたが、法人化後、京都大学の場合には、部局を超えた組織改革の可能性はほとんど消失したように思います。

法人化が学問の承継・発展を阻害するのではないか、という京都大学教員の強い危惧によって、このような現在の仕組みが生み出されたと言えますが、他方で、それは、状況変化に対応できない硬直した運営体制でもありました。大学が拡大局面にあるのであれば、それでも何とかなるのかもしれませんが、現在、京都大学に求められているのは、運営費交付金の削減という条件下において、学問の発展や大学に対する社会的ニーズの変化に応じて大学のミッションやそれを果たすための組織を改革していくことです。先般の教育再生実行会議の提言の中においては、様々な大学改革が提案されるとともに、それを支えるガバナンス改革の一環として、教授会の役割の明確化、部局長の職務や理事会・役員会の機能の見直しなどが触れられています。また、中央教育審議会の大学分科会においても、教授会を中心とした大学のガバナンスのあり方について検討がなされており、部局自治が大学改革を阻んでいるのではないかとの問題意識も見られます。本学がこれからも教員の自主性を基礎に組織のあり方を決めていくのであれば、自ら組織を改革することができなければなりません。そのためには、従来のように各部局において対応するだけでなく、大学全体として、部局の枠を克服して柔軟に新たな京都大学を創造できる体制を構築することが必要です。

2 組織改革案の基本的な考え方

今回、合同委員会において進められている組織改革論議は、上記のような状況認識と問題意識に基づき、京都大学における組織改革を実現するプロセスを確立しようとするものですが、そこでの提案内容は、およそ以下のような考え方によるものです。

(1)教育研究組織と教員組織の分離

現在は、部局としての教育研究組織に配当定員や教員候補者の決定権を付与するという仕組みになっていますが、提案におきましては、教育研究組織とは別に、学系という名称の教員組織を構築し、そこに定員を配当するとともに、教員候補者の決定権を付与します。学系は、自らが責任を負う教育研究組織から教員人事を依頼されますと、それに従った人事を行って当該教育研究組織の担当を命じなければなりません。学系自体は、そこで教育・研究を行うようなものではなく、あくまで教員の所属組織であり、教育研究組織に対して必要となる担当教員を確保する責任を果たすものです。なお、学系がそのような責任を果たさない場合を想定して、学系が属する学域において、あるいは全学において、責任の履行を担保する仕組みを設けることとしています。

このような教育研究組織と教員組織の分離には、次のようなメリットが考えられます。教育研究組織が自らのあり方を不断に検討することは当然ですが、教員組織においても、教育研究組織の現状や将来について議論することを想定しています。これにより、教員は、自らが担当する教育研究組織を多少なりとも客観的に観察することが可能となります。とりわけ、一つの学系が複数の教育研究組織に対して責任を負っている場合には、他の教育研究組織を担当する教員とともに、自らの担当する教育研究組織の将来について検討を行う機会が生じます。このことは、自らの部局にしか目が向かない現状を多少なりとも変化させるものと期待されます。

また、教育研究組織と教員組織を分離しておきますと、たとえ教育研究組織が改編され、その結果として担当する教育研究組織が変わったとしても、所属する教員組織(学系)は変化しませんので、移籍問題が生じません。従来、組織再編にあたって教員が移籍を嫌うということが障壁の一つとなっていましたので、その障壁が除去されるものと期待されます。

以上のように、教育研究組織と教員組織を分離することには、教育研究組織の再編を多少なりとも容易にする効果が期待できます。

もっとも、この分離については、教員の教育研究組織に対する帰属意識が希薄となり、その結果、教育・研究、とりわけ教育が疎かになるのではないか、との危惧が生じるかもしれません。しかし、具体的な教育研究活動は教員組織で行うものではなく、教育研究組織で行うものですから、そのような危険はないものと考えています。過度な教育研究組織への帰属意識は、かえって新たな状況変化に自らの組織を適合させていくための障壁となるように思います。教育・研究へのしっかりとした責任感を確保しつつも、他方で、自らのミッションについても絶対視することなく、全体的な視点で見直しをすることが求められているのではないでしょうか。非常に難しい作業ではありますが、京都大学の将来を、京都大学の教員自らが決めるのであれば、その作業を可能にしなければなりません。

(2)学系による協議と学域及び全学における企画機能の強化

教育研究組織と教員組織を分離したからといって、そのことだけで、状況に応じた組織再編が進むものではありません。そのためには、それぞれの学系が自ら責任を負う教育研究組織の見直しを積極的に行うとともに、学系間の情報共有を密にし、さらに協議を活発化させることにより、協働して教育研究組織の再編に取り組む必要があります。そのための議論の場として、四つの学域を設けることとしています。関連する学系から構成される学域においては、人事の情報共有をはじめ、学系間に協働のための様々なチャンネルを設けます。学系長による意見交換の場を設けるとともに、たとえば同一の学問分野の教員による協働の場を設けます。また、学系における人事に他の学系の教員の参加を促します。これにより、人事の透明性が高まるだけでなく、教育研究組織の見直し議論へとつながる可能性も期待されます。

また、学系の自発性に委ねるだけではなく、学域において積極的に将来ビジョンを作成し、関係学系に提案していくことも重要です。将来ビジョンの作成は、全学レベルにおいても必要であり、このようなビジョンなしに学系間の協働作業を期待することは難しいのではないかと思われます。全学及び学域におけるしっかりとした将来ビジョンの作成と、学系間の積極的な協働作業の二つがともに機能して、はじめて組織再編が実現されるものと考えています。そのため、各教育研究組織や学系における議論の成果を踏まえつつ、全学及び学域においてしっかりとした将来ビジョンを作成する体制の整備も必要となります。

なお、学域は閉じられた組織ではなく、議論のための一応の区切りにすぎないと考えています。教育研究組織によっては、当初より学域をまたぐようなケースも想定されますし、教育研究組織の再編にあたっては、よりいっそうその必要性が大きくなるかもしれません。学域はそのような協議の障壁となるものではありません。各学系には、必要に応じて学域をまたいだ協議や協力関係も求められることになります。

(3)「議論の場」に相応しい「学系」(教員組織)の構成

学系は、当面、現在の部局を基本として構成することとしています。本提案は、学系間の積極的共同作業により教育研究組織の見直しを行うものですから、学系が機動的に行動することが必要です。本学では、従前、部局単位での運営を基本としてきた実績があり、当面は、その実績に依拠することを考えています。合同委員会における当初案においては、教員組織を学術分野ごとに構成する案となっていましたが、それでは教員組織の運営に不安が残ることから、当面は、現在の部局を基本単位としたものです。そのため、教員の所属も学系とする提案になっています。

もっとも、現在の部局構成に問題がないわけではなく、同じく部局といっても、500名規模の巨大部局から10名に満たない規模の部局も存在しています。学系が組織見直しに向けた積極的な議論の場であるならば、その議論に相応しい規模とする必要があり、おおむね30名程度から100名程度になるよう、学系を構成することとしています。そのため、大きな部局の場合には、他の部局と合同して一つの学系を構成していただくことを考えております。このようにして構成された学系は、学系内部において、また、学系間において積極的に情報共有と協議を重ね、京都大学の未来の姿を創造していくこととなります。

3 積極的な議論のお願い

以上に述べましたとおり、本提案は、教育研究組織と教員組織を分離したうえで、教員組織の内部及び相互間における協議を通じて、教育研究組織の再編を実現しようというものです。そして、この仕組みを動かすために、学域及び全学において将来ビジョンを構想し、学系に積極的な働きかけを行うものです。したがって、本提案は、トップダウン的な組織運営を導入するものではなく、他方、今までのような硬直的な部局自治を温存するものでもありません。それぞれの学系が、京都大学全体の見地から、さらに言えば、日本社会や学問の未来という見地から、京都大学における教育研究組織のあるべき姿を議論するための仕組みを作り上げ、それを具現化するためのプラットフォームであると言えます。

教員各位におかれましては、以上のような本提案の意義をご理解いただき、新たな体制への移行を積極的にとらえていただきたいと思います。いかなることがあっても、現在の教員の教育・研究の場が失われるようなことがあってはなりませんが、他方、今後の組織再編は、既存の分野が将来的に消滅する可能性を当然に持つものです。しかし、それ故に踏み外さない、というのでは、京都大学としての責務を果たすことはもはや不可能です。換言しますと、既存の学問分野を承継させているだけでは、京都大学としての責務はもはや果たせません。そのことをよくご理解いただき、全学的見地からのご議論をお願いしたいと思います。京都大学が、教員の自主性を基礎として成立する大学であるというのであれば、自らの姿も自ら変えることができなければなりません。自ら決めることができないことは、自ら自主性を放棄したことと同じです。京都大学が教員だけのものではなく、日本の、そして世界の財産であることをよく自覚し、その運営を付託された私たちの責任を、今一度かみしめていただけますよう、お願いいたします。

【総長メール②】本学の組織改革について

教職員の皆様へ

総長      松本  紘
理事・副学長  江崎 信芳
副学長     村中 孝史

教職員の皆様には、日頃より教育、研究にご尽力賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、8月7日付のメールにてお知らせしたように、現在、教育研究組織改革専門委員会の合同委員会において、本学の組織改革に関する検討を行っています。9月26日の第11回委員会においては、前記メールにてお知らせした組織改革案に対して部局から提出された三つの対案と、それらを踏まえた本部修正案が検討されました。次回の委員会においては、この本部修正案を基本として委員会報告をまとめる予定にしています。 以下では、この間の本学をめぐる状況を踏まえ、組織改革の必要性についてあらためてご理解をお願いするとともに、修正案の内容をご説明したいと思います。

1 組織改革を推進する必要性

大学の教育研究組織やその管理については、別添資料が示すように、近時、政治的問題としてクローズ・アップされるようになりました。内容的には、我が国の大学の機能を強化するためには、ガバナンスの強化が必要であり、そのためには学長のリーダーシップの確立と、教授会の役割の明確化などが必要である、とするものです。必要な場合には法案の提出も予定されています。かように、大学における改革は立ち遅れている、という見方が、政府や与党、経済界などでは広がっており、本学としては、こうした見方に対し、大学として必要な改革を自ら進めることが可能であることを示す必要があります。さもなければ、より直接的な手段で大学改革を進めようとの動きに繋がる可能性が大きいと危惧されます。

本学は、部局自治の考え方を基本とし、部局ごとに改革を進めてきました。しかし、現在求められているのは部局の枠を超えた改革であり、それに対応する仕組みを早急に整備する必要があります。

他方、本学のように規模の大きな大学の場合、学長のリーダーシップを確立するだけで適切な組織改革が進むものではなく、また、本学の伝統や強みを活かした組織改革でなければ、本学の存立意義を没却することになりかねません。したがって、本学においては、独自の組織改革の方法と方向性を検討する必要があります。

次にご説明する修正案は、以上に述べた趣旨を実現する一つの方策として提案されています。皆様のご理解とご支援をお願いする次第です。

2 修正案について

(1)学系と学域について

教員は、現在と同様、研究科、研究所等の教育研究組織に所属しますが、同時に、新たに学系という教員組織を設け、そこにも所属することとします。学系は配当された定員の管理、人事審査などを行うとともに、学系が責任をもつ教育研究組織に関する将来構想について検討を行うものであり、そこで独自に教育や研究を行うものではありません。現在は、配当定員管理や人事審査も教育研究組織で行っていますが、その機能を取り出して学系に移すものです。このような機能の分離により、教育研究組織を客観的に見ることが可能となり、また、教育研究組織の改編が生じても、学系への所属を保障することにより、教員の地位を安定させることが可能となります。教育研究組織は従来どおり自律的な運営を行いますが、学系も同様に自律的な運営を行う組織です。

なお、従来の説明文書では、教員の本籍をこの教員組織へ移動するとの表現がありましたが、その意味は学系において教員の地位が安定的なものとなることを強調することにありました。しかし、教育研究組織への所属が否定されるとの誤解を生じたことも事実であり、「本籍の移動」という表現は現在の修正案では削除しました。また、特定の学系間ではより緊密な連携を行う場合も想定されるとの指摘を受け、修正案においては、緊密な連携をとる学系が学系群を構成することを可能としました。

学域として、人文社会科学域、自然科学域、医・薬学域、学際・先端学域の四つを設けます。これらの学域は、学系間における人事情報の共有、学位プログラム等の教育プログラムの構想、さらには教育研究組織の再編などを議論するための場としての役割を果たすものです。すなわち、学系を包括するフォーラムとしての機能をもつ組織であると言えます。そのため、想定している四つの学域のうち複数の学域に関連する学系に関しては、両方への所属を認めることとしています。

(2)企画機能の強化

学域・学系制度の導入は、学系や教育研究組織の自律的運営を基礎として学位プログラム等の教育プログラム、さらには組織の再編を促進するためのものです。もっとも、教育研究組織の枠を超えた再編を促進するには、全学的な将来構想の検討をより積極的に行うことが重要との意見もありました。そこで、修正案においては、学系長と役員等により構成される全学会議を設けるとともに、その下に将来構想検討委員会(仮称)を設けて企画機能の強化を図ることを明記しました。この委員会に学内の英知を結集するとともに学外からの意見も吸収し、本学における組織改革の将来像を描きます。

策定された将来計画は、関連する学系及び教育研究組織との連携の中で、十分な議論を経て実現されるよう努力する必要があります。その際には、今まで以上の全学的な支援を行うことも検討する必要があります。

(3)全学機能組織の取扱い

機構や一部のセンター等は、全学の機能を支えるインフラ的機能を果たしているため、そのあり方は全学的視点で決定される必要があります。そこで、修正案においては、全学機能組織のあり方については、それぞれの機構やセンター等に任せるのではなく本部の責任において決定するとともに、所属する教員のうち教育、研究よりも業務の比率の大きな者については全学機能教員部に所属することとし、ここでの配当定員管理等については本部が実施することとします。他方、教育、研究の比率の大きな教員については、いずれかの学系に所属することも可とします。

(4)スケジュール

別添資料にありますように、政府等における大学改革にかかる検討は着々と進められており、本学がこれに対応するためには本年中に一定の方向性を示す必要があると考えています。また、政府も改革を進める大学に対する支援を打ち出しており、本学は、その支援を受けつつ改革に取り組めるような体制をとる必要があります。修正案で示しておりますスケジュールはそれに対応したものとなっています。学域・学系制度への具体的移行は第2期の最終年度である平成27年度中に行うこととし、それまでに、学系の具体的な組み方を決定することになります。また、同時に、第3期中期目標・中期計画の策定に向け、京都大学の将来構想に関しても検討を行う必要があります。時間的な余裕はそれほどありません。

今回、検討がなされています本学の組織改革案は、本学の将来にとってきわめて重要な意義をもっています。国の財政状況、経済界をはじめとする各界からの大学への要望、学生、受験生やそのご家族からの要望等、大学を取り巻く環境は、大きく変化しています。本学は、生き残りのために環境変化に追随するというのではなく、むしろ、これを積極的に利用して、教育・研究のさらなる発展を目指す必要があります。そのための組織改革を促進する方策として、今回の修正案は検討されたものです。以上の趣旨をご理解いただいたうえで、積極的に組織改革に取り組んでいただきますよう、お願いする次第です。