告発でなく新たな働き方考える対談に(2007.11.16)

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講演会では現場の見地から2人に対談していただくが、労働を専門に研究している研究者にはこの問題はどのように映るのか。労働経済学を専門にし、京都の最低賃金を決める審議会の委員でもある久本憲夫・経済学研究科教授に話を聞いた。

―若年者の労働問題について思うことは。

若者の失業問題はヨーロッパではすでにオイルショックのころから問題になっていたので、ついに日本でも起こったかという印象を受ける。

私は若年者の労働問題についての専門家ではないが、フリーターやニートについて、今のマスコミのとりあげ方にはやや疑問がある。今回のビラを見て思ったが、センセーショナルに書くこと自体が、そこにカテゴライズされる人たちを追い詰めているのではないか。当事者からすれば本当は「放っておいてくれよ」というかもしれない。企画で取り上げるなら、少なくともそういうことを強く意識してやってほしい。

研究者という立場からすると、ヨーロッパで大きな問題になっているように、若いころから生活保護を受けてしまうと、それに頼ってしまって職業能力開発ができないという事実がある。フリーターは、仕事についているので、それに比べればはるかによい。それでも、キャリア展望という点できびしいのは事実である。そもそもそうした仕事しかない提供できないのは、社会の問題であって、個人の問題ではない。しかし、そんな状況を告発すれば、すむものではない。新たなしくみを議論すべきだと思う。告発は正しいし、それ自身は正義だが、うまく機能する新しいシステムを実際に作るのはむつかしい。

―具体的な場面では。

身近な話でいえば、大学の非常勤講師の話がある。今回の講師の阿部さんも非常勤講師だそうだが、常勤と非常勤との格差が問題になる。そこで非常勤講師を常勤として採用してほしいという主張になる。しかしその一方で、もっと成果主義にして常勤の教員も有期雇用にすれば、回転率がよくなって若手にも仕事の機会ができるという議論がある。しかし、大学教員全体の雇用が不安定化すれば、ますます優秀な人材があまりにリスキーな大学教員というキャリアを選ばなくなるという問題もおこる。問題は単純ではない。ならば、大学での働き方としてどのような区分なら可能であって、本当によいのか。そういう議論をやらなくてはならない。

―対談のなかでは、必ず最低賃金と生活保護という議論が出ると思います。最低賃金を上げろの論拠として、他の先進国に比べて日本は低いというものがあります。

最低賃金額が高いので有名なのはフランスとイギリスだ。イギリスで、現在のような最低賃金制度ができたのはごく最近のことだ。スウェーデンやドイツには最低賃金制度がない。ドイツでは労働組合の力が落ちてきたので最低賃金制が必要ではないかという議論をしている最中だ。

生活保護についていえば、日本は非常に生活保護者の認定基準が厳しい。とかく現在のように、「税金=われわれ国民の金」という認識のもとでは、生活保護者の不正受給が発覚するとマスコミは当然たたく。しかし、餓死や自殺などの悲惨な事態がおこらないように、多くの人が認定されるように認定基準を緩めると、不正受給も増えかねない。その境界線をどう引くかが難しい。

また、不正受給に対しては、それこそ大管理社会にして「誰が誰と血縁関係にあって、誰と交際していて」という人間関係を全てチェックすれば防げるかもしれないが、コストが過大であるし、まずは自由がなくなるといって批判が出るだろう。ここでも、生活保護のシステムの漏れとプライバシーの間のどこかに境界線を引かなくてはならない。

―こうした新たな枠組みを作っているような研究者はいるのでしょうか。

議論はされている。とくに政府の審議会などではされる。そこで合意形成を図るわけだが、具体的な政策決定については、政治的な色彩が強くなる。財源の問題も大きい。しかし、枠組みを包括的かつ具体的に研究している人はあまりいないのではないか。福祉国家の問題という言い方をすれば、関心をもっている研究者は少なくないが。

また、省庁のデータ開示は不十分だと思う。現在では、厚生労働省のHPなどで各種審議会・研究会の議事録や資料が公開されているので、以前よりは改善されているが。

新しく、持続可能で具体的なシステムを考える研究者がでてきてほしいし、この講演でもそれを問えば、退屈であるかもしれないが、学問的にはおもしろいものになると思う。

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