英語教育のあり方を巡って 第6回英語教育総合学会(2013.09.16)

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8月24日、大阪大学豊中キャンパスにて、第6回英語教育総合学会が開かれた。今回の学会は、安倍政権がグローバル化政策を進めていくために、英語教育の改革を進めていることに対して、そのような改革を批判検討する中で、英語教育のあり方について具体的に考えていくことを目的としている。今回、大谷泰照(大阪大学名誉教授)をはじめとして、江利川春雄(和歌山大学教育学部教授)、成田一(大阪大学名誉教授)、佐渡正英(熊本県立荒尾高等学校教諭)、松岡徹治(関西家電メーカー社員)の各氏によってそれぞれ講演が行われた。

大谷氏は「この国の言語教育政策を考える―対症療法から原因療法へ―」というタイトルで、日本人の英語能力が低い理由として三つの理由を指摘した。一つ目は、言語文化的条件としてインドヨーロッパ語族の言語文化圏外におかれている日本は英語習得に不利な立場にあるということ。二つ目は、欧米諸国による植民地の経験がある国とない国とでは、経験のある国が有利だということ。三つ目は、教育政策的条件として授業時間数の増加とクラスの人数を減らすことが教育効果を上げるということである。日本の教育行政ではこのような項目に関する認識が欠如しており、教育政策の再考を促した。

江利川氏は「超国家企業と政治家が破壊する学校英語教育」というタイトルで教育政策が大企業に牛耳られているとの危惧を示し、自民党教育再生実行本部や教育再生実行会議の提出した教育提言を徹底的に批判した。安倍政権が導入しようとしている、高校課程修了時にTOEFL等の一定以上の成績を求めるという案に対しては、TOEFL‐iBT45点以上という数字を試験的に導入したが、留学生比率が高く英語に秀でた学校でも基準を満たせなかった(38点)大阪府の事例を教訓にしていないと述べた。また、学習指導要領の定める目標とTOEFLの求める能力に整合性が無く、このまま学習指導要領を遵守するならば、多くの生徒が卒業できなくなるという弊害が生じる恐れがあるとも指摘した。一部のエリートを育てるために多くの子供を切り捨てるグローバル人材の育成は、教育格差の拡大を招き、英語嫌いを生む。こうした教育改革は現場を知らない素人による思い込み、思いつきだと指摘し、このような「シロウト英語狂想曲」と闘う意志を表明した。そして、検証に基づき憲法や教育基本法を基にした教育改革を目指すべきだと提言し、人間関係の向上なども望める5、6人程度の少人数グループで英語学習に取り組む協同学習の導入の検討も促した。

成田氏は「『英語で授業』と『入試にTOEFL 』で壊れる現場」というタイトルで昨今進められている英語教育改革が、日本人の英語運用に及ぼす影響について論じた。一般に人間は7歳児までに言語獲得能力がピークに達してしまうため、以降の習得においては文法や語彙を増やすといった知識獲得による外国語習得を行わざるをえない。また大谷氏が述べていたように、言語系統の遠い日本語を母語にする者にとって、英語の習得は難しいと指摘した。またコミュニケーション能力を重視して文法・語彙の習得をおろそかにすると、逆に「使える」英語は育たずコミュニケーションもできないという皮肉な結果に陥ると述べた。英語での授業については英語でついていける生徒は少なく、また英語で複雑な説明を行える教師も少ないと、現場で起こりうる弊害を挙げた。その上で日本人にふさわしい英語教育として早期英語教育(幼稚園・小学校でネイティブなどによる英語授業)や中高での文法・音読を中心とする学習による基盤の構築、大学でのコミュニケーションと討議による講義を提言した。

佐渡氏は高校教師の立場から新課程導入の状況や問題点から今後の政策のあり方について論じ、松岡氏は英語を武器として仕事を進めてきた経験から会社における英語能力の位置づけやどういった英語力が必要となるかについて提言した。

今回の学会は学者による講演だけでなく、教育改革によって大きな変化がもたらされる学校や企業の現場に立つ者からの講演もあり、多角的に英語教育について考える機会となった。また学校教員を中心に構成される参加者からの活発な質問により、議論が深まった。グローバル化が標榜される中で改革されようとしている英語教育が様々な問題をはらんでいることが指摘され、慎重に改革を進めていくべきだという意見が今回の学会では主であり、教育政策や英語教育に再考を促していることを認識させられた。(千)

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