文化

京都大学未来フォーラム 「声」の「楽器化」としての VOCALOID その正体と影響を探る

2013.07.16

7月2日、第56回京都大学未来フォーラムが開催された。未来フォーラムは、大学と社会との協力・連携を一層深めるため、企業やマスメディアなど様々な分野で活躍する卒業生を迎えて講演と意見交換を行うもの。今回は剣持秀紀氏(ヤマハ株式会社VOCALOIDプロジェクトリーダー)が「歌声合成システムVOCALOID――新しい楽器と新しい音楽」と題する講演を行った。

電子音が楽曲に採用されるようになってからはもうかなりの年月が経っているが、新たに「声」を電子音として表現するVOCALOIDが登場したのはまだ最近になってからのことだ。講演会で剣持氏は、VOCALOIDの概要や新たに音楽シーンに与える影響について語った。

「ボーカロイド」と聞いて、良くない印象を持つ人は少なくない。「気持ち悪い」とか「オタクっぽい」という声は私もよく聞くし、どうしてもそうしたイメージが先行してしまっているのが現状だろう。しかし、今回の講演はそのような印象を払拭するような内容であった。

講演会では、主にVOCALOIDが音楽に与えている影響について述べられた。これは決して革命的な物ではないものの、確実に音楽へ変化をもたらしたものだと剣持氏は語る。2000年代後半からネット上で少しずつ市民権を獲得し、最近ではオリコンシングルチャートの1位を獲得することもある。確かに、高校生から年配の方まで幅広い年齢層を集めて満員となった会場は、その隠れた人気を表していたかもしれない。プロではないアマチュアの作曲家が、市販のソフトをつかってウェブ上に楽曲を上げ、その中で人気を博したものがCDとして世の中に出回ったり、カラオケで歌われたりする。昔からどこか権威主義的側面のあった音楽の世界で、こうした素人による楽曲が多くの人に親しまれるということは類を見ないことだろう。講演会では、剣持氏自らが動画サイト「ニコニコ動画」を開き、VOCALOID「初音ミク」による楽曲を再生したり、デモンストレーションとして歌詞と音程をその場で設定して再生して見せたりした。その操作方法の簡易さと合成音声としての質の高さに、会場はどよめいていた。

この講演会の中で、剣持氏が強調したことは、「楽器としてのボーカル」の出現だ。昨今ではアイドルグループや特定の歌手が歌う曲に対して、「アイドルが歌ってるからカワイイ曲」だとか、「ジャニーズが歌ってるからカッコイイ曲」といったようなバイアスがかかってしまう。VOCALOIDはそうしたバイアスを回避した存在であると剣持氏は述べる。VOCALOIDはあくまで楽器であり、歌手ではない。強いて言うとすれば、歌い手はVOCALOIDを使って作曲をした本人である。こうした特異な存在としてのVOCALOIDは、音楽シーンに新たな表現を組み込むだろう。さまざまな楽器が電子音で表現されてきたが、これまで最も困難だとされるボーカル音声までも(完全とは言えないものの)電子化に成功した。「ここまで流行るとは、開発当時は思っていなかった」と語る剣持氏だが、VOCALOIDが極めて大きな影響を音楽界に与えたことは、否定できない事実であろう。(草)

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