企画

〈銭湯特集〉京都湯屋探訪録

2013.06.16

夏。日ごとに湿度と気温が上がり、不快指数はどんどん上昇していく。キャンパスを少し歩けば汗をかき、肌はべたつき、服は身体にまとわりつく。日に二度三度と、シャワーを浴びたくなるような季節だ。

しかし、シャワーばかりというのも味気ない。汗を流し、身体を清めるにしても、手脚を伸ばして大きな浴槽でリラックスしたくなるというものだ。幸い、京都大学から少し足を伸ばせば、そこには数多くの銭湯が存在する。ちなみに、京大周辺の銭湯は、入浴料が一律で410円だ。毎日、とはいかなくとも、たまにはちょっと贅沢をして、銭湯でゆっくり夏の疲れを取るというのはどうだろう。

今回、数ある京大周辺の銭湯の中から、幾つかを紹介しようと思う。蒸し暑い京都の夏、リフレッシュする助けとなれば幸いである。(編集部)

①東山湯 ~ご主人の趣味光る。~



百万遍の交差点からすぐ近く、もちろん京大生もすぐに足を運べる立地だ。暑くなってきたし、私も疲れた体を癒しに、ひとつ足を運んでみることにした。

60年近くの歴史を持つというこの銭湯は、今のご主人の更にひとつ上の代から続く。店内もどこか昔懐かしい雰囲気を感じさせたが、それはご主人の趣味を存分に反映させたものであるからだ。脱衣所はジョン・レノンやマリリンモンローのポスターを始め、音楽を聴くこと
趣味だというご主人らしく飾られており、浴槽へと進めばビートルズのBGMが流れている。60年代、70年代をを賑わせた英雄らは、今尚、京都の一銭湯の穏やかな庶民の雰囲気を演出していたように見えた。

浴場はその広さを生かしてバリエーションに富み、水風呂、薬湯、エステジェット、電気風呂にネオン風呂まであり、もちろん奥にはサウナもある。客達は互いに言葉を交わしながら東山湯を満喫しているように見えた。

しかし今はその広さも持て余し気味だとご主人は言う。寮生活をする学生が多かった昔とは違い、今は風呂の付いたワンルームに一人で住むのが基本だ。わざわざ銭湯まで足を運ぶ人たちもめっぽう少なくなり、京大生の数は以前の5分の1程度にまで落ち込んだという。「お風呂は広いんだけどねぇ」と呟いたご主人の表情は、どこか寂しさを感じさせるものがあった。

私が風呂場から上がってきた後、ご主人は「銭湯ノート」という一冊のノートを見せてくれた。銭湯へと訪れた客が、何かしら思い思いのことを書き連ねる為のノートだ。内定が決まった、卒業式が終わった、友達と遊びに来た。ノートの中には人々のとりとめもない日常が表される。私も何か書こうかと思ったが、それはいずれ、取材ではなく一人の客としてここへ来た時のためにとっておくことにした。

「ワンルームに住んでる人も、1回2回は来てみるといいよ、ハマるから」、とご主人は言う。今回の取材を通し、銭湯は私たちの日常にいつでも寄り添うものなのだと感じた。私もたまには、友人たちと一緒に、昔ながらの銭湯を楽しむことにしよう。(草)

営業時間:15時20分~25時00分 定休日:金曜日 TEL:075‐781‐4472

②銀閣寺湯 ~銀閣お膝元のすごいやつ~



その名の通り銀閣寺道の入り口近く、白川疎水のほとりに建つのが銀閣寺湯だ。

ゆったりとした時間が流れる街並みに溶け込むその渋い店構えは昭和の初めから変わらぬものであるそうだ。なるほど暖簾をくぐった瞬間平成生まれの私でさえもノスタルジーに似た感傷に浸ってしまうような、何とも言えないゆかしさと風情を持っている。

とはいえけして歴史を語るのみの建物であるということはなく、平日夜10時にふらりと立ち寄ってみたところ、勝手知ったる様子の地元の人達で大変賑わっていた。形のみならず文字通り昭和の生活が今に息づく場所なのだ。勿論、部活帰りなど京大生の利用者も多いとのこと。

戸を開けてまず目を引くのが木製の番台、これも今は中々見ることができないものだ。脱衣所にはドライヤーやコイン式マッサージ機が設置。男湯には漫画雑誌もある。浴槽は全部で5つ、深浅の異なる通常の2槽に加えてジェット風呂と水風呂、薬湯を備えている。建物自体の古さに反し、屋内は改装されて整えられており、タイルも真新しい。こぢんまりとしつつも機能的な作りが長年地元の人に愛される所以であるのだろう。大文字山の地下50メートルから汲み上げた水を沸かしているというお湯は42、3度位だろうか、体の芯まで温まるには丁度いい温度だった。

また宝寿湯の名を持つ薬湯には高麗人参など漢方由来の成分が含まれており、肩こり、腰痛、神経痛、冷え性など様々な症状に効果が期待できる。入浴中にフワッと香る生薬がいかにも効きそうで、強くお勧めしたい。

無料の乾式サウナが浴場に併設しているのも魅力の一つ。サウナ室内に流れる昭和歌謡(私の時はピンクレディーの『サウスポー』だった)を聞き、一人で砂時計をじっと眺めながら背中を伝う汗を感じていると、あたかもタイムスリップをしたかのような気分になれるのだ。休日の銀閣寺観光帰りにひとっ風呂浴びてアイスキャンデーを舐めつつ帰るも良し、白川疎水や哲学の道で湯上りの蛍狩り、なんてオツなひと時を過ごすも良し。幾度も通って自分なりの楽しみ方を発見してみたい銭湯である。(易)

営業時間:15時40分~24時30分 定休日:土曜日 TEL:075‐771‐8311

③栄湯 ~ゆったり浴槽、まったりひと時。~



栄湯は京大から少し離れたところに位置しており、大学構内から気軽に行けるというもわけではない。だが、100年以上の歴史を持つ栄湯には、様々な魅力があった。

住宅街の中を歩いていると朱色でレトロなゲートが現れる。これが栄湯の入り口である。ゲートをくぐって自転車置き場を兼ねた通路を通り抜けると暖簾があり、中に入ると下駄箱がある。さらに男湯・女湯の暖簾をくぐれば番台があり、すぐに脱衣所となる。脱衣所の棚にはいまどき珍しい柳行李が並んでいる。公式サイト(http://welovesakaeyu.web.fc2.com/ )によると職人による手作りで50年以上もの間、修理しながら使ってきたものだそうだ。

浴室へ入るとまず目に入るのは主浴槽だろう。その中央には噴水があり、入浴客の目を楽しませてくれる。また、京大周辺の銭湯にある湯船は2~3人用サイズのものが並んでいるところが多いようだが、この主浴槽は大きく、他の人に遠慮すること無くのんびりと浸かることができる。この主浴槽以外にも水風呂や電気風呂、薬湯があるが、こちらは他の銭湯同様、小さめの湯船である。外壁側の洗い場に固定されているシャワーはかなり低めに設置されており、椅子を使わず地面に直接座って洗うことが想定されているようで、ここからもこの銭湯の長い歴史が感じられる。ちなみに、風呂桶と椅子は浴室への扉横に置かれているが、持参することが推奨されている。

ところで、入り口横には「麦飯石の湯」とある。この銭湯の湯船で使われているお湯が麦飯石という岩石を用いてろ過されているということらしい。ちなみにそのお湯自体は栄湯の持つ井戸水を使っているとのことで、お湯が柔らかい感じがしたのはこのためだったようだ。更に奥には遠赤外線サウナがあり、入ってみると意外に広かったが、既にのぼせかけていた私は長居できなかった。

脱衣所に戻ると、風呂あがりでロッカーを利用しない常連客の柳行李をおばちゃんが入口付近の椅子まで動かしていた。常連客は身体をある程度拭くとその椅子の方へ進み、ゆっくりと着替えており、脱衣所の棚がすべて鍵付きロッカーになっているスーパー銭湯ではありえない人情が感じられた。さらに彼らはおばちゃんと談笑しながらスポーツドリンクを飲んだりもし、脱衣所全体に暖かい空気が漂っていた。営業時間が短いのがもったいないが、こんな銭湯の常連になればきっと楽しいに違いないだろう。(通)

営業時間:15時40分~22時 定休日:月曜日・金曜日 TEL:075‐781‐4090

④平安湯 ~地下100メートルからあなたを癒す~



こちらは大正3年創業の平安湯。ここの主人、村中さんは3代目(写真中央)である。京都周辺の銭湯経営者はもともと石川県出身が多いそうで、平安湯初代も石川県出身。平安湯の名前は近くの平安神宮にちなんでおり、参拝客が利用することも多いそうだ。

平安湯にはサウナ、水風呂、電気風呂、トルネードバス、深風呂、浅風呂、薬用ジェット泡風呂とさまざまな種類の浴槽があり、一度にたくさん楽しめる。これらの浴槽を満たす湯は、地下約100メートルから汲み上げた水を利用しているそうだ。店のおすすめの浴槽はトルネードバスである。ジェットの勢いが強く、深さが1メートル15センチほどある浴槽なので、全身の筋肉をほぐしてくれる。

ほかにも魅力的な浴槽がある。たとえば薬用ジェット泡風呂の薬湯は、みかんや薔薇など50種類あり、すべての湯につかるには相当通い詰めねば難しい。サウナは、一般的な温度よりも高めになっており、水風呂と合わせて利用すれば健康にも非常に効果的だ。

また、平安湯は、番台がフロント形式であるので、番台の目を気にすることなく、ゆったりと湯を楽しむことができる。

村上さんによれば、京都の銭湯は40年前には400軒あったのが、ここ20年間は減り続けて、今は200軒ほどになってしまったそうだ。京都には風呂のない町屋が多く残っているとはいえ、シャワーの普及という時代の波にはあらがえなかった銭湯も多かった。最近は、銭湯が少しずつ話題に取り上げられることも多くなり、20代の利用客も増えつつあるそうだ。「銭湯は地域の人々の社交場ともいえるところ。若い世代には銭湯にあまり馴染みがなく利用しにくいかもしれないが、気分転換にぜひ利用してほしい」と語る。ほかの国にはみられない、日本独自の銭湯文化をまもり盛り上げていくため、銭湯巡りスタンプラリーなど、さまざまな試行錯誤を繰り返している。

平安湯は老舗であるが、外観・内装ともにスタイリッシュで古さを感じさせない。これまで4回ほど改装を重ねてきたのだ。現在もとてもきれいで利用しやすい銭湯であるが、これでとどまるつもりはない。村上さんは、まだ秘密ですが、と前置きした上で「もっと和風にしていきたい」と語ってくれた。まだ30代という若さの主人が営む平安湯は、銭湯への熱意と利用客への気遣いでとても快適な空間となっている。「通いたくなる銭湯」にぜひ一度、足を運んでみてほしい。 (井)

営業時間:15時~25時 定休日:木曜日 TEL:075‐771‐1146

⑤銀座湯 ~学生、常連、外国人 千客万来ほっこり銭湯~



京大病院前の弁当屋「かまどや」を目印に、東大路通りからの横道へ入って徒歩数分のところで「サウナ」の文字が目に止まる。銀座湯は閑静な住宅街にひっそりと佇む銭湯である。創業開始は昭和6年。82年もの歴史をもつ銀座湯は、昔ながらの落ち着きある雰囲気が魅力的だ。

番台は創業以来3代目となる老夫婦の方がやっておられて、取材にも快く応じてくださった。銀座湯は午後3時30分から午前0時30分まで利用でき、毎週月曜日が定休日、という以外は祝祭日も営業している(ただし、毎月第3火曜日は休業)。記者が取材に伺ったのは、開店直前の3時すぎだったが、暖簾がかかるやいなや、何人かの常連客は待ちわびていたかのようにお風呂に入っていった。番台さんの話によると、夕方ごろの時間帯にはこうしたお年寄りの常連客の方が多く、8時以降になると京大生など学生の姿も目立つようになるそうだ。こうした常連客は、この銭湯を一つの憩いの場ともしているようで、特に女性の客はお風呂から上がるとしばらく世間話に花を咲かせるという。最近では、近くのホテルに素泊まりで来た観光客などもこの銭湯を利用することがあるそうで、時には「銭湯」自体に馴染みのない外国人がもの珍しそうに訪れることもあるという。

「銀座」という言葉には、賑やかで人通りが多い場所を表す意味がある。開業当時は近くの商店街にも活気があり、こうした様子を踏まえて『銀座湯』という名前が付けられたのだそうだ。

取材を終えてから、記者も実際にお風呂に入らせていただいた。見た目はとてもきれいに清掃されており、好印象。浴場に入ると中央にまず普通のお風呂が一つ。壁際には16個のシャワーがついている。体を洗った後、中央のお風呂につかったが、下宿生で普段はシャワーで済ましてしまうことが多い私は久しぶりの広い浴槽で開放感を感じた。しばらくして浴槽から出ると、奥にあるサウナへ。入った瞬間はとにかく「熱い」の言葉しか出てこなかった。小学生のころに一度入ったきり経験していなかった熱さだったので心が折れそうになったが、しばらく座っていると若干慣れてきていい汗がかけたように思う。その後はシャワーで少し汗を流して、サウナの隣の水風呂へ。水風呂の隣には電気風呂もあったが今回は控えた。最後に水風呂とは反対の端にある薬湯風呂へ。湯加減は中央の風呂よりも若干ぬるめで、薬湯独特の匂いに安らぎを感じることができとても入りやすいお風呂だった。

お風呂から上がって着替えてからは、少しのぼせたこともあって飲み物をいただいた。缶ジュースが10種類ほど用意されている。女湯と男湯を隔てた壁の上にあるテレビを見ながら扇風機で涼んでいると、テレビドラマなどでよくある昔ながらの銭湯の風景を思い出し、とても落ち着いた雰囲気が感じられた。取材の最後に番台さんに一言お伺いすると「みなさんお忙しいとは思いますが、気が向いた時でいいので少し立ち寄っていただければうれしいです」と笑顔で話された。始終暖かい雰囲気に包まれた銭湯体験であった。(真)

営業時間:15時~23時 定休日:日曜日・祝日 TEL:075‐771‐0620

☆番外編 ~文学部地下の扉の向こうは・・・~

6月半ばのある日。私は文学部新館前で立ち尽くしていた。暑い。半月ほど前に発表された梅雨入りなどどこ吹く風、太陽は殺人的なまでの熱をキャンパス内に撒き散らす。この日も、最高気温はゆうに30度を上回っていた。自然と吹き出る汗にシャツが身体に纏わりつき、辟易させられる。私は太陽から逃げるように、屋内へと引き返す。

べたつく汗をなんとかできないものかと文学部新館の中をうろついていると、地下一階へ降りてすぐ、視界の右端に気になるものを捉えた。みれば少し謎めいた佇まいのその扉はシャワー室。

これはいい、リュックサックに丁度バスタオルも入ってることだし、早速使わせてもらおうと、喜び勇んで教務窓口へと向かった。教務で怪訝な顔をされながらも頼み込んでみると、いやそれはウチじゃなくて会計の管轄だといわれ、会計掛へ取り次いでもらった。しかし、まだ見ぬシャワー室に期待を膨らませる僕に突きつけられたのは、非常な現実だった。なんでも、あのシャワーはもともと当直の職員用に作られたものであり、学生に使用はさせていないし、ここ5、6年使っても整備してもいないために、そもそも使えるかどうかもわからない、とのこと。それでも折角だからせめてシャワー室の中を見せてほしいと、私は最早当初の目的も忘れて食い下がる。シャワーを浴びて汗を流してしまいたい、というのもあったが、地下にひっそり位置するその不思議な雰囲気に惹かれていたのだろう。私のしつこさが功を奏したのか、忙しそうな中、シャワー室を見せもらうこととなった。

鍵を開けてもらい、視界に現れたのは、まるで自宅のシャワー室のような、こじんまりした脱衣所とシャワーだった。地下に佇む謎めいた扉の向こうにあったのは、何の変哲も無いシャワー室。……やはり、謎は明かさぬが華、ということなのだろうか。(待)

周辺地図(タイトル頭の番号に対応しています)