新刊書評 服部茂幸『新自由主義の帰結―なぜ世界経済は停滞するのか』(岩波新書)(2013.06.16)

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新自由主義の是非を問う

アベノミクスによる株高、円安がもたらされてもなお日本経済は不況から脱却できるかわからない。ただし経済停滞は日本に限ったことではなく、世界中で現在進行形の出来事なのだ(だから諸外国へ貿易赤字をもたらす、日本の円安進行は他国の批判にさらされることにもなったのだが)。市場の自由化が謳われた新自由主義が浸透した現代において、筆者は新自由主義を批判するため、アメリカを主眼に分析、提言していく。

「○○主義」とタイトルにあれば読者は醜い思想・主義対決を想定してしまうかもしれない。確かにこの本でも、筆者の擁護するのはポストケインズ主義という、新自由主義と対立した、政府の介入を重視する学派ではある。だがここでは単なるイデオロギー対決に終わらない。読者は経済学について真剣に学んだことがなくても、基本的な経済に対する知識と時事的関心があれば、筆者の批判から多くの新しい知識を学び、あるいは既存の知識に対する理解を深められる。批判に対する根拠を丁寧に読んでいけば過去に起こったこと、今起きていることについて示唆を得られるに違いない。たとえば過去に起こったこととしては金本位制が世界貿易を安定化させる仕組みなどはわかりやすい。

新自由主義がもたらしたであろう、大きな失敗であるサブプライム問題については、株式市場にとらわれた企業が短期的利益を求めざるを得ないため危険な投資が行われたと、構造的な問題が指摘されている。またここではレバレッジ(融資を行う際の債務、負債)や金融工学についてわかりやすく説明されており、ウォール街がひどくたたかれた理由がはっきりするに違いない。またアメリカや日本の累積債務問題がなぜ金融危機を招かないかという分析にも重要な示唆を得られる。

筆者はリーマンショック前後のFRB(連邦準備制度理事会。米国の金融当局)が誤った政策を施行することによって、上記のような問題を引き起こした、あるいは増幅させたと批判し、「FRBはミクロ経済学の教科書をよく読むべきであった。」と痛烈な言葉を浴びせている。やや乱暴な見解でもあるが、これまで施行されてきた政策がごく基本的な部分で誤っていたという指摘は読者に身震いを起こさせる。

では新自由主義を推進するFRB・政府の恩恵を受けるのは誰か? 筆者は「新自由主義が金持ちのための政策であり、富裕層から消費意欲の盛んな低所得層に富を分配すべきである」と本書の随所で主張を繰り返しており、正義感の強い読者は同意したくなるに違いない。ただしここでは単にこの主張を聞き入れてもらおうとしているだけではなく、政策は常に” 誰か”のための政策であり万人が満足することはできないことも示唆している。

「経済学は大きな問題が起こるたびにそれを特殊な事情としてみなしてきた。」、「多数派より少数派に真理がある場合もある。」というのが、彼が新自由主義を批判する中でもっとも伝えたかったことだ。社会科学では避けられない不確実性をはっきりと示す言葉である。そしてこれは政策がなされるたびに考慮すべき点であり、また政府や金融当局などの権威に盲従せず、個々人が関心を持って彼らのやることに対して批判、検討していく必要性を教えている。(千)

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