塩塚秀一郎 地球環境学堂准教授 「街路と政治とユーモア」(2013.06.16)

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東京でほぼ同時期に開催されていた三つの現代アート展をまとめて訪れてみた。「フランシス・アリス展第一期」(東京都現代美術館)、フランス人アーティストJRによる「世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)、岡本太郎+Chim↑Pomの「Pavillon」(岡本太郎記念館)、いずれも広い意味で街やストリートに関わるアートとみなすことができるだろう。フランシス・アリスは、都市を歩きつつ観察することから生まれる儚い行為を、ビデオや写真の記録によって、あるいは、絵はがきや人々の噂によって伝えるアーティストである。製氷所で扱うような大きな氷の塊が溶けて無くなるまで、手で押したり足で蹴ったりしながら、メキシコシティーの街中を歩きまわる《実践のパラドクス1》(一九九七年)や、イスラエルとパレスチナの境界線上に緑のペンキを垂らしながら歩く《グリーン・ライン》(二〇〇五年)などがよく知られている。後者が詩的であるとともに政治的な行為であることは明らかであるが、何の成果も生まない労働によってメキシコの社会状況を映し出しているという意味で、前者もやはり政治的な営みであると言えるだろう。

美術館やギャラリーを飛び出したアートが政治的なメッセージを帯びつつ街へ介入していく傾向は世界規模で認められるようだ。オキュパイ・ウォールストリートなどのムーヴメントやフラッシュモブの流行とも呼応しているのかもしれない。日本においてこうした潮流にいち早く反応し、海外の動向を紹介しつつ自らも刺激的・挑発的な活動を展開しているのが、アーティスト集団Chim↑Pomである。今回の「Pavillon」展には、岡本太郎の《明日の神話》に付け足されて話題となった福島第一原発事故の絵が展示されていた。もともと、水爆の炸裂をテーマとする《明日の神話》は、アートがパブリックであることを願っていた岡本太郎の意志を継いで、紆余曲折の末、渋谷駅連絡通路に掲げられることになったものである。したがって、彼らの行為あるいは作品《LEVEL7 feat.『明日の神話』》は、名画の複製へのいたずら書きとも美術館の絵の毀損とも異なった、まさに政治的メッセージを伴う「街への介入」であった。だから、付け足された絵だけを美術館で鑑賞することにはあまり意味がないとも言える。その代わりに、と言ってはなんだが、記念館の二階に額入りで展示されている岡本太郎の書、米紙に掲載されたベトナム反戦広告の文字「殺すな」が、外のブロック塀にスプレーでそっくり写し取られていた。Chim↑Pomは素知らぬ顔で岡本太郎を街路に持ち出しながら、パンフレットには記載もせずシレっととぼけている。それでいて、塀の文字のすぐ上には「駐車・駐輪はご遠慮ください」といった類の「公序良俗の尊重」
を促すプレートが貼られているのだから、思わず笑ってしまうのだ。Chim↑Pomの持ち味は、その政治的メッセージや問題提起の手法もさることながら、それらにともかくも目を向けさせ、流通させてしまうユーモアにあると思う。

そう思って見直せば、フランシス・アリスの営みだって相当にすっとぼけていてユーモラスだ。一歩間違えば銃殺されかねない危険な境界地帯を、ひょろっとした長身の男がペンキをボトボト垂らしながら歩いていく。あるいは、腰をかがめて大きな氷塊を押し進めつつ、溶けるほどに姿勢を変えざるを得ず、最後は小石ほどの氷を蹴り歩くことになる。いずれも、大男が大まじめにやっているのがなんともおかしい。そこにどんなメッセージが込められているにしても。

Chim↑Pomと交流をもつJRもやはり街路のアーティストである。そして、先の二者と同様に、その企てからは声高でないメッセージが聞きとれるのだ。彼は、弱く貧しい、名もなき人たちの大きな肖像写真を、世界中の建物や公共の壁に貼り付けるプロジェクトを展開中である。そうすることによって、人々を元気づけたり、偏見を打ち破ったり、見慣れた日常に変化を与えたりすることを目指しているのだ。東日本大震災の被災地も訪れて、フォトブースを積んだトラックで気仙沼をはじめとする各地を回っている。JRの活動をこのように記すと、その志には共感しつつも押しつけがましい結果にならないだろうか、と危惧する向きもあるだろう。ところが、そうでもないのだ。イスラエルとパレスチナの境界付近でJRが行ったのは、互いの領域内に、外見からは区別できない相手側の住民たちの巨大な肖像写真を貼り付けることだった。この人たちの表情が素晴らしい。作られた笑顔ではなく、相手側領内で視線を向けるはずの人々を和ませようと、とっておきの顔でおどけている。それに、そもそも、街中の思いがけない場所に貼られた巨大な顔は、どんな政治的・社会的背景をもっていようと、人々の頬を緩ますものではないだろうか。街路と政治とユーモア。これらの要素によって三つの展覧会は響き合っているように感じられた。




しおつか・しゅういちろう(地球環境学堂本属・人間・環境学研究科併任/フランス文学)

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