文化

春秋講義 中国経済の過去・現在・未来 地球環境学堂・劉徳強教授

2013.05.01

4月24日、吉田キャンパス百周年時計台記念館・百周年記念ホールにて、劉徳強教授(地球環境学堂)による春秋講義「中国パワーの源泉と行方」が行われた。春秋講義は、京都大学における学術研究活動の中で培われてきた知的財産を、広く学内外の人々と共有することを目的として毎年、春と秋に開講されている。今回で春秋講義は50回目を迎える。

今季のメインテーマは「アジアにおけるインド・中国のパワー」。このテーマに沿って本講義を含め、3回の講義が行われる。今回の劉教授による講義は生憎の雨にもかかわらず大盛況で、開場は満員となった。講義が始まると劉教授はまず、中国経済のここ数十年間にわたる発展に伴って、中国における雇用構造や生活水準などが大きく変化していることを挙げた。次にこの経済成長をもたらす要因として、中国政府による発展目標・政策の大転換といった比較的高い政策立案と執行能力、そしてこれによるインフラ整備の早さを挙げている。

今日の中国経済の発展段階について、劉教授は実地調査の結果から「ルイス転換点」への到達を予想した。ルイス転換点に到達すると農村部の余剰労働力が底をつき、都市部では労働力不足が問題となる。教授によると、この現状が日本の高度経済成長期の「集団就職」と重なり、中国経済は日本の1960年代後半に相当するレベルである。これに対し、中国の直面する課題として昨今取り上げられている環境問題の深刻化や所得格差の拡大、権力の腐敗や治安の悪化を鑑みると、この事から中国社会は日本の1920年から1930年頃に相当するとした。

この講義の本題である“中国パワーの行方”については、先進諸国はルイス転換点を迎えた後も成長を続けていたことから、劉教授の考えでは中国も今後20年間は比較的高い成長が可能である。また、今日の中国が抱える諸問題も中国経済の著しい発展によるもので、今後も中国は発展し続け、その中で先進諸国が過去に辿ったのと同様に解決してゆくだろうと予想した。

そして、劉教授は共産党による一党支配である中国に対し、今季のテーマに含まれるインドが複数政党による民主主義を採っていることを挙げ、中国共産党の一党体制には既に無理があること、民主政治へと転換するべきであることを指摘した。しかしながら、発展途上国に於ける民主主義政治では様々な問題が発生することから、劉教授は急速な民主化は中国の発展を妨げると考え、中国は徐々に民主政治へと向けた、漸進的な改革を取るべきだとした。最後に中国は軍拡をやっているのかということを問い、対GDP比・対歳入比の観点から軍拡をしているとは必ずしも言えないと付け加えて、講義を締めくくった。(通)