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教養科目 半数を英語で実施か? 外国人教員を雇用も、詳細は未定

2013.03.16

教養科目の半数を英語で行うことを目指すなど京大の教育体制が根本から変更される事業が3月1日、文部科学省の国立大学改革強化推進事業に採択されたことが、朝日新聞および日本経済新聞の1日付紙面でわかった。名称は「グローバル化に対応した教学マネジメントのための組織改革」というが、詳細な制度設計は一切が未定であり、また改革構想立案の経緯も不透明だ。早くも現場の教員サイドからは困惑と批判の声が上がっている。

一般紙が報じた時点では文科省、京大両サイドとも公式の発表をしておらず、経緯等が不明な状態だった。文部科学省はその後11日に京大を含む全14拠点の一覧と概要を公表した。

複数の関係者への取材により、京大内では3月5日の部局長会議で、この件が「平成24年度国立大学改革強化推進事業への採択について」という「報告」議題で取り上げられたことがわかっている。この場で「全学を挙げて英語力や教養力を強化し、国際的に活躍できるグローバル人材を育成する」べく、
(1)国際高等教育院で開講される半数以上の教養科目で英語による講義が実施される体制を構築する。
(2)そのため常勤の外国人教員を2013年度から5年間かけて毎年20名ずつ、計約100名新規に雇用する。
(3)(2)で採用した教員は各部局等も兼任して教育・研究活動のほか部局運営にも参画することで、各部局の国際化も同時に目指すことが既定路線として話されたという。

さらに、新規雇用した外国人教員の人件費については、初年度は改革強化推進事業の補助金30億円の一部を充てるが、2年目以降は兼担させる部局のポストもしくは同日決定した教員定員シーリングで生まれる「再配置定員」の枠内で収める、つまり各部局の教員定員を振り分けることで「解決」するという。

英語による授業の増加と、外国人教員の雇用は本来直接結びつく事柄ではない。同議題の資料には「定員内ではないが既に特定有期となっている外国人教員を正規に採用しても、各種大学ランキングの調査項目になっている外国人教員比率は上昇しない(特定有期は既に含まれている)」との記述が見られることから、国際的な「大学ランキング」への対応も視野に入れた動きであることを窺わせる。

不透明な経緯

教員の多くも新聞報道で初めて知ったというほど、今回の拠点採択発表は青天の霹靂であり、この間学内でどのような経緯で同構想が持ち上がったのか未だ不透明な部分が多い。

本紙が入手した情報をまとめると、今回の一件は、本部がトップダウン的に作成した青写真が、当初目指していたグローバル人材育成推進事業では駄目になるも「別枠」で文科省に拾われ生き返ったものとみることができる。

文部科学省高等教育局国立大学法人支援課によると、文部科学省は昨年1月から5月にかけ、全国すべての国立大学に対し、改革の動向等についてヒヤリングを実施、そのなかから「有望」なものについては調書を取るなどして、精査した結果、3月1日に今回の14事業を選定するに至ったという。

学内関係者は、大学改革に関するタスクフォース等大学本部の機関が中心となって文科省サイドと大学改革の方向性について意見交換をしたことを認めつつ、その後6月以降はぱったりと音沙汰がなく2月末になって突然予算がついたとの連絡が来たと語る。この関係者は予算の執行をめぐる政府内のごたごたも影響していたのではないかと推測している。

また昨年11月の理学研究科による全学共通教育改編説明会では、外国人教員を100名規模で雇用するという構想自体は、本部で昨年初頭から検討され、文科省のグローバル人材育成推進事業への申請がなされるも落選し立ち消えたになったことが明らかになっている。その後「国際高等教育院」という名称は生き残り、人間・環境学研究科を中心に反対の声があるなか決定された、全学共通教育を統括する新組織構想の中心となったのは既報の通り。

詳細は一切白紙

このような「行き当たりばったり」ともいえる経緯なだけに、事業は今年度からはじまるものでありながら、人件費の捻出方法以外の具体的な中身は一切が白紙の状態だ。具体的な英語開講科目の設計、教員の招へい・受け入れ体制、2年目以降の教員を振り分けるさいの部局との協力体制などすべては、国際高等教育院の企画・評価専門委員会等でこれから1年かけて検討するのだという。

京都大学の共通・教養教育は、09年以来「学士課程における教養・共通教育検討会」、「全学共通教育システム検討小委員会」、「共通・教養教育企画・改善小委員会」など各所で関係教員が議論を重ねた結果、昨年8月に全学共通教育システム委員会で了承された「平成25年度以降の全学共通科目の科目設計等について(報告)」に基づく新しい科目区分がようやく4月からスタートするばかりだ。ところが新制度がまだスタートしないうちから、この間の共通・教養教育をめぐる各種答申ではほとんど触れられていなかった開講科目の英語化という異質な構想が現れた。これを今後1年で既存の共通・教養教育にどうやって接ぎ木するのか、もしくは理念レベルから共通・教養教育を設計し直してゆくのかは全くの不透明である。

批判の声

「国際高等教育院」構想に反対する人間・環境学研究科教員有志の会(以下、人環教員有志)は、14日付で「外国人教員100名雇用」計画に対する反対声明を発表した。人環教員有志はこの声明で、現場教員も知らないうちにこのような大規模で重大な構想が進展し、またすべてが決定されているような新聞報道を通しての通知により混乱がもたらされたことに「衝撃と怒りを禁じ得」ないとし、大学レベルの授業を英語化するには、授業の質を著しく落とすことになり学生の学力を低下させるなど、大学本部の姿勢を批判している。

用語解説

【国立大学改革強化推進事業】

文部科学省が教育の質保証と個性・特色の明確化(教員審査を伴う学部・研究科の改組、外国人や実務家等の教員や役員への登用拡大、双方向の留学拡大のための抜本的制度改革)、大学運営の高度化(効率的な大学運営のための事務処理等の共同化、大学情報の一元管理と適正な活用による運営体制の強化)といった「改革」を「これまでにない速度、深度」で実行する国立大学に対して補助金を与える政策。2012年度から新規に始まり初年度は総額138億円が計上されている。

【大学改革に関するタスクフォース】

京都大学がいわゆる「大学改革」への対応検討をするため部局長会議の下に設置された機関。2012年2月7日の同会議で設置が了承された。4月24日の部局長会議では、同機関から「国立大学改革強化推進事業」への対応についての報告がなされている。

《本紙に図表掲載》