文化

宇宙は人類の生存圏になりうるか 宇宙ユニットシンポジウム開催

2013.02.16

 2月2日・3日の両日にわたって、京都大学百周年記念館にて京都大学宇宙総合学研究ユニット(宇宙ユニット)が主催する第6回宇宙ユニットシンポジウム「人類はなぜ宇宙へ行くのか4」が開催された。宇宙ユニットは、文理の壁を越えた学際的な宇宙研究の構築を目指して2008年に設置された組織で、学生や学外へ向けた情報発信も盛んに行っている。今回のシンポジウムではJAXA宇宙科学研究所との共同研究を中心に、様々な分野の研究者が人類の生存圏と宇宙の関係について講演を行った。

シンポジウムは二部構成になっており、初日のテーマは「生存圏としての宇宙環境」。柴田一成・理学研究科付属天文台長や宇宙科学研究所の今村剛氏らが宇宙環境の最新研究、宇宙探査機や人工衛星の最先端技術について発表した。2日目は「宇宙環境利用の未来」をテーマに鈴木一人・北海道大学公共政策大学院教授や水谷雅彦・京都大学文学研究科教授、「絶望の国の幸福な若者たち」の著者で知られる古市憲寿氏らが、宇宙開発政策や宇宙倫理学など宇宙開発に関わる諸問題について語った。

講演者のうち、鈴木一人氏は「政治はなぜ人類を宇宙に行かせないのか」という挑戦的なタイトルで講演を行った。人類が宇宙に行くためには莫大な予算が必要であり、それは国家予算でしか賄う事が出来ない。しかし、宇宙事業はそれだけでは従事者の少なさ、金銭的なメリットの少なさから票にならず政治を動かすファクターにはなり得ない。安全保障のため、産業振興のためといった政治的に正当化されるための明確な政策論理が他に必要となる。

例えば、冷戦期の米国とソ連にとって有人宇宙事業は両陣営が技術力を誇示するためという政策論理で正当化され、冷戦後も大国のステータスとして機能していた。しかしながら、近年のひっ迫する財政状況や国家の事業縮小によって、有人宇宙事業はもはや政治の手を離れつつあるという。

したがって、これからの宇宙事業は民間主導となるが、営利目的で大きなリスクをとれない以上、地球周回軌道内の安全な範囲での有人宇宙事業は活発になることこそあれ、長期的な宇宙滞在は困難になる。結論として、鈴木氏はこれから人類が宇宙、とりわけ地球の軌道外へ進出するためには、革命的な技術革新や人類の突然変異による大幅なコストダウンでも無い限り難しいだろうと話した。

講演の後には、講演者らによる総合討論が行われた。2日目の総合討論では、太陽が燃え尽きた時に備え人類は宇宙に移住すべきかという水谷雅彦氏と伊勢田哲治氏による宇宙倫理学の講演に関連して、人類は何世代先まで責任を負うべきかについて、講演者達が自らの考えを述べ白熱した議論を展開させた。最後に、宇宙は理工学のみならず「思考実験の場」としても有用である、としてシンポジウムは幕を閉じた。会場では全プログラムが終わった後も、講演者に積極的に質問する参加者が多く見られた。

なお講演で使われたスライドは宇宙ユニットのウェブページより見ることができる。

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