インタビュー

京大硬式野球部 田中英祐投手 「目標は勝てる投手、信頼される投手」

2013.01.16

京大硬式野球部の2012年秋季リーグ戦は10年ぶりの開幕戦勝利で始まるも、5年ぶりにノーヒットノーランを喫して終わるという悔しいシーズンだった。

そんななか、この右腕に注目が集まっている。この春に京大のリーグ戦の連敗を60で止め、先述の秋の開幕戦勝利にも貢献した田中英祐投手である。まだ2回生にもかかわらず京大投手陣の軸を担う彼に話を聞いた。(銭)

60連敗を止める勝利

―まずは秋のシーズンを振り返っていただきたいんですけれども、防御率1点台で終えてどういうシーズンでしたか。

そうですね。自分が思ったことがうまくいったようには思いますね。

―思ったこととは?

とりあえずは試合を1シーズン通してつくることができたというのは一番大きいかなとは思います。特に春はよかった時はよかったんですけど、自分の調子次第でなかなか試合がつくれなかったりしたんで。その部分では自分の調子にかかわらず、とりあえず試合がつくれるようになったのは大きいかなとは思います。

―新人戦も3位ということで、特に近畿大学戦(11月6日、豊中ローズ)は無四球完封するなど、非常に素晴らしい成績だと思うんですけれども、新人戦も思うようなピッチングはできましたか。

そうですね。相手が1、2回生ということもあってリーグ戦よりは少しレベルが落ちたという部分はありますけど、将来主力となる相手に対していいピッチングが出来たのは自信になるかなと思います。

―田中投手の野球経歴について振り返っていただきたいんですけれども、野球を始めたきっかけは?

地元の少年野球チームに友達から誘われて入ったのが野球を始めたきっかけですね。

―投手を選んだのはなぜですか。

小学生の時は投手というよりは内野手、外野手、捕手をしていて全然投手はやってなかったんですけど、中学校に入ってからは進学校で野球経験がある選手が少なかったんです。その中で自分が野球をしていたということでとりあえずピッチャーをやってみろと言われて始めました。

―白陵高校時代についてお伺いしたいんですけれども、どういう野球をしていましたか。

高校時代はなかなか勝てないチームでした。地区予選でも初戦敗退がほとんどで、本当に勝てないチームでしたね。どうやったら勝てるかなということをずっと考えていて、考えながら全然うまいこといかなかったというのが高校時代のほとんどですね。

―2年生の夏、加古川北高と戦っていますよね。その試合について覚えていることはありますか。

その前の試合(東灘高戦)で、公式戦で初めて勝ったんでチーム自体に勢いがついていました。相手が前年の西兵庫大会の優勝校だったんで胸を借りるつもりで「自分が出来ることを」と思って投げているとうまいこと試合が運んで5回まで1-0で勝っていたんです。後半まで勝っていて、最後に勝ちを意識してひっくり返されたので手ごたえと自分の力の無さの両方を感じましたね。

―その後引退されて、なぜ京大に入学しようと?

京大に、というよりは自分の高校時代の成績で京大を狙えるというので。周りが結構国公立とか医学部とかそういうところに行くような学校だったんで自分もそういう流れに乗って京大を受験しましたね。

―入学される前の京大野球部のイメージはどうでしたか。

実際入るまではあまり大学野球自体、東京六大学ぐらいしか知らなくて、京大が関西学生野球連盟に所属していることすら知らなかったというのが本音ですけど、入ってからいろいろ聞いて知りましたね。

―京大入学後、1回生の春のリーグからマウンドに上がるわけですけれども、デビュー戦について何か覚えていることは?

デビュー戦は関西学院大学戦(5月14日、皇子山)ですね。ヒットは打たれたんですけど、とりあえず1回を無失点に抑えました。その時は無我夢中だったというのはあるんですけど、自分の投球が出来れば1回くらいなら抑えられるのかなというのが最初の印象でしたね。

―緊張などは?

緊張は逆になかったですね。なんかもう相手がすごすぎて抑えられないのが普通ぐらいという風に最初は考えていたんで。開き直ってとりあえず思い切り投げていた、がむしゃらにしていたという感じでした。

―1回生の春は「とりあえず自分を」という気持ちで?

そうですね。1回生の春はとりあえずがむしゃらに投げていました。

―1回生の秋は投球イニングも増えて、2回生の春の関西学院大学戦(5月21日、わかさスタジアム京都)で京大の60連敗を止める完封勝利で公式戦初勝利を挙げました。

あの日は確かナイターで、連敗でメディアとかにも取り上げられてチーム自体が逆に開き直って、まあせっかくだから楽しもうじゃないかみたいな雰囲気もありました。

―では決して落ち込んでいたわけではなかった。

僕自身はあんまり落ち込んでいたということはなかったですね。それにその前の近畿大学戦(5月11日、甲子園)でいいピッチング(8回2失点)が出来ていたんで。それがあったんでそんなに落ち込むこととかはなかったですし、絶望感とかネガティブなものは持ってなかったですね。

―試合中、雨は気にならなかったですか。途中から雨が降っていましたが。

一瞬、この春の関西大学戦の2回戦(4月22日、南港中央)の雨が降る中引き分けまで持ち込まれた試合の事が頭をよぎったりしたんですけど、うまいこと試合に集中できていたんで、そこまでは気にはならなかったですね。

―9回表に先制して、ある種異様な雰囲気になったと思うんですけど、球場の雰囲気はどうでした?

バッターが確か6番バッターで、カウントが2ボールまでいったときに大丈夫かという雰囲気を一瞬感じて僕も「あっ、やばいんじゃないかな」と思いました。やっぱり勝ちを意識した瞬間にチーム全体が浮足立って、球場全体がちょっと異様な雰囲気になったのを大分感じながら投げていました。

―最後のバッターを三振に取ったとき、マウンドでガッツポーズしていましたけど、あの時はどういう心境でしたか。

あれは自然に出たという感じですね。とりあえずキャッチャーが自分の方に向かってきたので。本当に自然に出ました、今思い出しても。

―春はその活躍が認められて関西オールスター5リーグ対抗戦の関西学生野球連盟代表に選出されましたが、このことについてはどうですか。

うれしかったですね。それと他のチームのスター選手、主力の選手と交流できたのは秋にもいろいろつながってきたと思います。そこでいろいろアドバイスや駆け引き、他のチームがどういう心境でやっているのか、あの試合であそことあそこのチームのバッテリーはこう考えていたというのを話しているのを聞いて、大分勉強させてもらいました。

―例えば誰というのはありますか。

関西学院大学のキャッチャーの山崎(裕貴)さんや関西大学の中園(拓磨)さん、後は立命館大学のエースだった工藤(悠河)さんですね。本当にいろんな方と話させてもらって、「もっと自信持っていいんやぞ」とかそういうことも言われましたし、いろいろアドバイスをもらいましたね。

―京滋大学野球連盟代表との3位決定戦(7月2日、わかさスタジアム京都)に先発(3回無失点)されましたが、あの時はどういう気持ちで投げたんでしょうか。

今までとは違うプレッシャーも感じましたけど、やっぱりバックがすごかったんで素直に楽しかったですね。

―では田中投手の現在についてお聞きしたいんですけれども、マウンドに立つにあたって何かピッチングで心掛けていることはありますか。

フォアボールを出すということが僕の中では最悪なことで、フォアボールを出すくらいなら打たれた方がいいと考えていますね。それがおのずとチームのリズムを生んでいくと思っているんで、とりあえずストライクを先行させてリズムよく投げていこうというのが自分のスタイルかなとは思っていますね。

―三振については?

調子がいいときは思ったところに投げられれば取れるとは思っているんで、三振の数自体はそこまでは気にはしてないです。ピンチの場面でどこまで三振が取れるかという、状況に応じて自分のピッチングを変えることに意識を置くようにはしていますね。

―登板前に何か決まってすることはありますか。

強いて言えばブルペンでのバランスをキャッチャーにチェックしてもらうというのが毎回やっていることですね。あまりゲンを担ぐというのはそこまではやってはないですね。

―バランスというのは体のバランス?

そうですね。フォームのバランスとかはよくキャッチャーに見てもらったりはしますね。

―ストレート、最速147キロという風に言われているんですけれども、速さにこだわりは?

ないと言えばうそになるんですけど、甲子園みたいに球速が表示される球場は少ないんで、どちらかというと自分の感覚でいいと思えるような球を投げることに最近は意識がいっているかなとは思いますね。でも速いということは僕の中で武器ではあるんで、そこの部分は磨いていきたいとは思っていますね。

―ツーシームなどの変化球については?

ツーシームだけではなくてカーブやスライダーですね。そこの精度が大分上がったというのがあんまり注目されてはないですけど。

―上がったというのは2回生の春からですか。

2回生の春の途中くらいからですね。思ったように投げられるようになってそこから大分変わったかなと思います。変化球に関しては、そんなにツーシームにこだわりがあるというわけじゃないですけど、全体としての精度が上がったというところには自信を持っていますね。

―先発のこだわりはありますか。

最近は先発について、一試合を背負う責任感や、できれば大事な試合は任されたいという気持ちや先発するからには投げ切りたいという気持ちも出てきました。

―エースと言われることに関してはどうお考えですか。

秋までは内藤(悠太)さんがエースと言われていて、自分が投げるときは自分が投げ切るという気持ちだったんですけど、4回生が抜けてマウンド上だけではない部分で何とかしていかなければ、引っ張っていかなければという気持ちもこの新人戦期間中にちょっと感じ始めたんで、難しいですけどゆくゆくはそういう自覚も持てたらなとは思います。

―練習中は主に何を意識して練習されていますか。

ピッチャー陣は主に走りこみが中心なんですけど、ブルペンに入った時の練習に関しては、ここでストライクが取れるかなというプレッシャーをたまに自分にかけています。

―試合中を想定して?

そうですね。想定するかたちで投げるようにはしていますね。例えば2ストライク・3ボールでボールは投げられないという場面でどれだけ投げられるんかなというのをできるだけ想定してやったりはしています。

―コントロールを重視している?

コントロールもそうですけど、やっぱり打たれたらおしまいなんで自分が思っている球をどれだけ投げられるかを重視しています。どっちかというと気持ちの部分ですけど、本当に試合も他校に比べたら少ないので、練習中でできるだけそういう部分を磨くことを意識してやっていますね。

―目標とするピッチャーはいますか。

目標とする選手は抽象的に言ってしまえば勝てるピッチャーで信頼されるピッチャーですね。今のプロ野球選手でいえば日本ハム時代のダルビッシュ(有、現テキサスレンジャーズ)選手みたいな、「あの人が投げれば相手はもう打てない、勝って当たり前」みたいな雰囲気がある勝てるピッチャー信頼されるピッチャーで、自分のピッチングで周りを惹きつけることができる、そういうピッチャーを目標にしていますね。

―ライバルとする選手はいらっしゃいますか。

やっぱり他の大学の選手でも同回生の投手には負けたくないという気持ちは強いですね。同回のピッチャーとたまに球場で話したりするんですけど、対戦する時でも負けたくないなと思いますね。

―対戦して嫌だなと思うバッターはいますか。

もう引退してしまった選手では関西学院大学の萩原(圭悟)さんですね。長打を打たれないという前提で最悪ヒット1本OKという形で入ってしまったんで、ランナー三塁とかで迎えたらもうどう抑えようかと本当に苦労しました。苦労するというか最悪1点OKになってしまうんで、この秋では一番嫌なバッターだったと思います。
―関西六大学野球連盟や阪神大学野球連盟、京滋大学野球連盟などの他のリーグと関西学生野球連盟の違いを感じたりはしますか。例えば関西学生野球連盟が固定された6校で戦っているのに対して、入れ替え戦があるリーグもありますが。

5リーグのオールスターで実際に対戦して、全国への思いがものすごいかなというのは感じました。逆に言うとうちのリーグよりもなかなか注目を浴びることができていないんで、追いつこうという意識があるのかなというのはちょっと感じますけど。それ以外の部分では、他のリーグもレベルが高いですし、「5強1弱」じゃなくて京大が強くなればうちのリーグももっと盛り上がっていくんじゃないかなとは思いますね。
―関西学生野球連盟はDH制がないんで打席に立たれることもあると思うんですけど、それについてどうですか。ヒットを打ってないですが。

そうですね。打ってないですね(笑)。

―苦手ですか。

苦手という意識はないんですけど、結果が出てないですね(笑)。

―バッティングとピッチングは区別されていますか。

まあ割り切っています。バッティングに関しては「打てなくて当たり前」から入っているんで、バッティングが悪くてピッチングに響くということはそんなにないですね。まだ打った事がないんでバッティングがよくてピッチングがよくなっていくということを経験したことはないですが(笑)。

―理想のピッチングとは何ですか。

理想は得点圏にランナーを進めても結局はゼロに抑えて終わらせるというのが一番理想かなと。特に27球で終わるとか全部三振の81球で終わるとか、僕多分どっちにもちょっとずつ当てはまっている部分があるんで、どっちかってなかなか絞れないんですね。それで最近、東浜(巨、亜細亜大学)投手が10安打打たれてもゼロで抑えるみたいなことを言っていたのを聞いて、「ああ、すごいこと考えているなあ」と思ったんです。でもそうすれば相手にもどんどんプレッシャーがかかってきますし、流れがこっちに来やすくなるというのもあるんで、今のチームに関してはもしかしたら理想かなと思いますね。

―東浜投手の名前を出されましたけど全国大会などにあこがれは?

まだそこまでは考えたことはないですね。まずこのリーグでどう勝つかというのを考えているんで。いずれはどんどんAクラスとかに入っていけるようなチームになっていけば今度は全国という大きな目標が出てくるんじゃないかなと思います。今はこのリーグでどう勝つか、そこで精いっぱいですね。

―今の京大野球部についてお伺いしたいんですけれども、24季連続最下位ということでその点についてはどう思っていますか。

最下位ということに関しては、今のこのリーグで自分たちの力をある意味では表している部分かなとは思うんですけど、その何季連続というのはどちらかというと僕が入る前から続いているものなんで、そんなに意識することではないと思います。比屋根(吉信、京大硬式野球部前監督)さんが言っていましたけど、京大硬式野球部の歴史の中で今が変革の時期で、その一番大きいときに自分が入っているんかなとは思いますね。まあ24季連続最下位とか60連敗とかはそこまでは意識してないですね。
―この大学2年間を振り返っていただいて一番印象に残っている試合は何でしょうか。

多分忘れられないという意味では2回生の春の関西大学戦の2回戦ですかね。引き分けにまで持ち込まれたあの試合は多分忘れられないです。今見返してみたら、今までの野球人生の中でのターニングポイントになっているかなとは思いますね。

―今個人としての目標は何ですか。

今の目標としては、勝ち星ですね。まだシーズン1勝というのが自分の成績で、今シーズンは何とか防御率で京大の1位になれたんで今度は京大トップの4勝(2000年秋、岡村英祐)に並ぶか超えたいなと。そうすればおのずとチームも最下位脱出して上位も見えてくるかなとは思うんで、次は勝ち星にこだわっていきたいと思いますね。

―ご自身の進路については、どうお考えですか。

まだ決まってないですね。工学部なんですけど研究自体やその面白さもまだ全然わかってないですし、野球に関しても今シーズンはよかったですけど、まだもっと上の部分が見えてないというのがあるんで、まだ決めきれてないです。
―プロ野球は選択肢に入っていますか。

僕の実力ではまだまだ、もっと積み重ねていかないと何とも言えないんで。行きたいという気持ちがないわけではないですけどまだ何とも言えないですね。

(注)WHIP:1イニングあたり走者を何人出したかを示す指標。「(被安打+与四球)÷投球回数」で算出される。

《本紙に図表・写真掲載》

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