啓かれる知的財産 第1回 学術情報リポジトリ(2007.12.01)

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研究成果は広く社会に還元されてしかるべきである。この認識はほぼ一般的になっている。研究成果は大学の「財産」とみなされ、京都大学産学官連携ポリシーにおいても「研究成果を知的財産として広く社会に還元していく」ことを謳っており、社会への説明責任を非常に重要なものと捉えている。実際に「春秋講義」などの一般向け公開講座から産学官連携事業まで、研究成果を社会に向けて発信する多種多様な機会を用意している。

知的財産を受容する社会の構成員として、あるいは発信する大学の構成員として、そうした機会にどう関わり、どう捉えればいいのだろうか。様々なかたちを以て行われる大学の「知の還元」。それらを紹介していく中で試みに考えてみたい。第1回目は最近の新しい事業の一つの事例として「京都大学学術情報リポジトリ」を取り上げたい。(秀)

京都大学学術情報リポジトリ(以下リポジトリ)は、大学内で生産された学術情報(学術雑誌掲載論文、学位論文、科学研究費報告書、COEプログラム研究成果、講義資料・教材、学会発表資料など)を電子的(PDF形式等)に蓄積し、誰もが無料で読めるようにWeb上で公開するものである。こうした事業は一般に「機関リポジトリ」と呼ばれ、アメリカで起こり、世界中で拡大している。日本では2003年に千葉大学がいち早く取り組み始め、それをモデルケースに05年、国立情報学研究所の学術情報基盤の構築推進事業として、全国的に導入が始まった。京都大学も採択され、全学的事業として昨年から公開が始まっている。

学部、研究所、事務部等から選出された16名で構成されるリポジトリ検討委員会が方針を検討し、管理・運営は附属図書館が行う。昨年10月の本公開開始以降、制度およびシステムの整備、コンテンツの充実といった作業が重点的になされ、各研究機関にコンテンツ登録を呼びかけた結果、現在では総数が1万件を超えた。国内では5番目の件数であり、この数字は今後の展望が見込めるひとつの指標だという。

ただし、現在実際に公開されているものは研究紀要論文などがほとんどで、それ以外(雑誌掲載論文、学位論文など)の登録はいまのところ少数にとどまっている。07年度には、工学研究科の博士論文が一部登録されることになった。工学研究科の博士課程の学生に対し、学位論文を提出する際にリポジトリへの登録を勧めた結果、なかなかの反応だったという。コンテンツの種類・数は徐々にではあるが充実してきている。

だが、リポジトリ事業はいまだ十分な認知が進んでいない、というのは担当職員も感じているところだという。10月に京大で行われたリポジトリに関する公開事業では、全国の図書館関係者などが集まり、リポジトリ事業への大きな期待を再認識させたが、研究者や学生の参加は少なく実際のコンテンツ提供者・利用者の関心がまだそれほど高くないことも示したといえる。現在、月3万件のダウンロードがあるというが、この数字をどう評価するべきかは難しい。公開間もないこともあり、現在はアクセス数、ダウンロード数はともに右肩上がりだが、この傾向を伸ばしより広く利用されるようにしたいとしている。

今後の方針としては、周知活動にもつながるコンテンツの充実を更に図っていくつもりだという。工学研究科の博士論文公開がある程度成功を収めているので、他研究科の学生にも登録を働きかけていきたいとしている。各研究機関にも引き続き登録を呼びかけ、紀要だけでなく多種多様なコンテンツが充実した京大の知の窓口に近づけていきたいと話している。

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これまで研究機関や研究者はホームページをもつことで研究成果を独自に公開してきた。そうしたホームページの数は拡大の傾向にあり、研究成果の視認性は高まってきていると思われる。では、そんな状況下でリポジトリの必要性はどこにあるのか。それは情報発信の「一本化」にあるといえるだろう。研究成果を電子情報として保存、公開することは広域性にすぐれているが、反面、常に散逸の可能性をはらんでおり、集中的に管理するほうが効率がよいのはたしかだ。リポジトリが学内の研究成果を集中管理し、一括公開することで、論文を読みたいと思っている人は見つけやすくなり、公開しようとする研究者は発信作業の手間から解放される。図書館機構はこれまで学内の学術情報の保存・公開事業を続けてきた実績とノウハウを持ち、永続的な電子情報の管理が可能であるだろう。また、研究部局の垣根を越えた包括的な学術情報の提供をする機関として相応しいというのもうなずける。

リポジトリ事業では、最終的に先に述べた種類の学術情報に関してはほぼ全てを管理し公開していくことを理想としている。事業3年目の現在、道はまだまだ長いといわざるを得ない。リポジトリへの登録はあくまでも任意であり、各人各部局の判断に委ねられる。今後もリポジトリへの登録を強制するような制度が設けられることは考えにくい。だが、「学術情報の保存・公開」ということに関してリポジトリが何らかのイニシアチブをとる必要はあるのではないだろうか。ごく一部の情報しか登録されていないとなると、情報の包括的管理、発信の一本化を旨とする全学的事業としてのリポジトリの立ち位置は不安定なものになりかねない。豊富で多様なコンテンツコレクションの形成が求められる。

自分の研究成果や論文を広く社会に還元したいというニーズは、顕在化していない部分でも少なからずあるだろう。だがそのニーズが即、リポジトリを通しての公開につながるわけではない。「大学の説明責任」を果たす場はリポジトリ以外にも様々なものがある。その中でリポジトリが特に担うべき役割はどこにあるのか。学生も教職員も、リポジトリの利用者にも、またコンテンツ提供者にもなりうるのである。全学的事業としてのリポジトリの意義と特性を正確に認知し、関わり方を判断していく必要がある。

※京都大学学術情報リポジトリでは現在愛称を公募中。詳細は http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/koubo/index.html(1月4日まで)

《本紙に図・写真掲載》

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