〈京大雑記〉ノーベル賞報道の舞台裏 取らぬ狸の皮算用なんて言ってられない(2012.11.01)

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山中伸弥教授はノーベル医学・生理学賞を受賞したことによりマスコミの圧倒的な質問にさらされることになった。数多くの質問にさらされることで山中教授はある意味丸裸になってしまった。一方マスコミはさらされることはほとんどなく取材の実態はベールに覆われている。マスコミの実態が気になる方もいるのではないだろうか。そこで今回は取材の裏側の報告として医学・生理学賞の発表待機の様子と記者会見の様子を一部始終書いてみたいと思う。

10月8日午後3時半過ぎ、吉田キャンパスの本部棟前を通過したとき、あるTV局の車を目にした。ノーベル医学・生理学賞受賞者の有力候補に山中教授の名前が挙がっていることを知っていたが、発表時間が午後6時半であるのでせっかちだなと思いつつも、仮に山中教授が受賞した場合に場所が取れず、取材できなかったら嫌なので私は本部棟へ入っていった。

記者会見室がある5階へ行くとそこには10数名の報道陣が山中教授の受賞を待ち構えてすでに待機していた。4時半に記者会見室へ入室可能となり、そこへ入っていった。会見室の前から3列目の席に私は座ったのだが、あたりを見るとあっという間に席が埋まっていく。さらには一眼レフカメラ、ビデオカメラ、三脚などを各人が確保したい場所に置いてある。すでに各社の競争が始まっていて、私はプロの世界の場所取りは厳しいなと思った。

自分の席が取れたことで安堵し、席に座っていると背後から話が聞こえてくる。「私は去年も京大に来て、山中教授がノーベル医学・生理学賞を受賞することを待っていたのですよ」。そうした話はいくつも耳にし、来年も自分がここにいる姿を想像していた。

最前列の前方には会見者用の机と椅子があるのだが、時折それをカメラで撮影している人がいた。何があるのかと気になりそこへ行くと机の上に各社が用意したマイクと共に白い紙が置いてあった。紙を見ると山中教授の名前があり、さらには総長の名前もあった。私は自分のことを棚に上げて、京大気が早いなと思っていた。

ウトウトしながら椅子で待機していると午後6時を過ぎていた。もうそろそろだなと思うと徐々に緊張してきた。山中教授の受賞可能性は低いと思いながら会見室に来たのにも関わらず緊張してしまった。周囲の報道陣はノートパソコンを開きウェブで受賞者の発表を待っていた。

ついに6時半になった。受賞者の発表を誰もが画面を見つめ待っていた。1分、2分、3分過ぎたころにどこからか「ガードン氏受賞」という声が聞こえた。「オオー」と言う声が漏れたので山中教授の受賞可能性は消えていないようだ。その後に「山中出ました」という声も聞こえた。山中教授がノーベル賞を受賞したようだが、私は実感が持てなかった。会見室で万歳などが起こらなかったからであろう。ただ周囲の報道陣が次の仕事に向けて動いているのを見ると私も次の準備をしないといけないように感じた。

京大側から記者会見が午後8時から開かれることが発表されると、会見まで時間に余裕があることを確認し一度建物から外へ出た。山中教授へのノーベル賞授与が決定したことで、吉田キャンパスで何か動きがあるのではないかと思ったためだ。本部棟から出る際に出入り口を通るとそこにはカメラを持った報道陣が待機していた。建物に入る際の山中教授の写真を撮りたいようだ。報道陣に背を向けとりあえず正門前まで走ると、某TV局が学生に山中教授のノーベル賞受賞に対するコメントを求めていた。それを見て刺激された私は近くにいた男子学生に同じようにコメントを求めた。彼は私の突然のお願いにも関わらず穏やかな口調で「京都大学は研究に力入れている大学だと聞いていました。それが今回のノーベル賞で証明されて研究者を目指す自分の励みになる」と答えてくれた。コメントをとれたことに満足し、私は本部棟5階へ戻った。後から考えると私はずいぶんミーハーである。

7時55分過ぎ山中教授や松本総長を含む4名が会見席につき記者会見が始まった。会見が始まるとあちこちからカメラのフラッシュの音が聞こえた。記者会見は総長の会見から始まった。総長は涙が出るほどうれしかったそうで会見も生き生きと行っていた。その後に山中教授が会見に応じ受賞の報告と感想を述べたが、総長に比べ声が小さくやや緊張しているように感じた。この間はフラッシュの音が絶え間なく鳴り、山中教授への注目度合がうかがえたが、その量の多さにあきれてしまった。その後は質疑応答で各社が山中教授に質問した。質問の内容を聞いているとiPS細胞や核の初期化などの科学的なことより、家族や同僚などの人間関係に比重が置かれているようだ。全体の記者会見ではあまりにも科学的な質問は好まれないのであろうか。記者会見は1時間ほどで終わり、それに合わせて私は本部棟を後にした。

今回の記者会見は、改めて大学とマスコミの距離を考えるきっかけとなった。進んで記者会見室を提供する京大。それを最初から期待している私を含めた報道陣。利害が一致した両者の間には、緊張関係が存在しない。確かに今回のノーベル賞は例外かもしれない。しかしながら、まるで京大広報であるかのような役割を果たすのが我々メディアの使命ではない。相手のことを鵜呑みにせず、事実を吟味しながら取材に取り組む。そうした姿勢を大学であっても忘れないようにしたい。(狭)

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