インタビュー

山中伸弥 iPS細胞研究所長「幸運なこの環境を最大限生かしてほしい」

2012.10.17

ノーベル医学・生理学賞の受賞者の発表から一夜明けた9日、山中教授は京大新聞のインタビューに応じた。インタビューの内容は以下の通り。

―ジョン・ガードン氏とノーベル医学・生理学賞を共同受賞しましたが、今回の受賞は発生生物学や再生生物学の観点から、どのような位置づけにあると考えていますか。

今回の受賞は核の初期化という1962年にガードン先生が始め、そこから脈々と続く研究が評価されたのであり、私の仕事と言うよりは核初期化という分野が受賞対象になったと言えます。そのためガードン先生は受賞されて当然です。私はたまたま、大勢の人が関わってきた研究の中でiPSという技術に出会いました。その技術はガードン先生が始められたことを簡単に再現し、このことが医学や創薬に対する可能性につながったことを評価していただき、ノーベル賞受賞者に加えていただけたのだと考えています。

―iPS細胞研究所の所長を務めていますが、研究者を目指す院生や学生はどのような姿勢で研究に取り組む必要があると考えていますか。

研究者になるためには自分のアイデアで研究を行う習慣を早く身につける必要があります。言われたことだけをするのではなく、自分のやりたいことやビジョンを自分に問うことが大切です。例えば研究室での研究の際に、テーマが決まっていたとしてもそれを他人から言われているから行うのではなく、自分でもその意義を感じ面白いと思って行うようでないと、いつまでたっても独立した研究者にはなれないと思います。

―留学先のグラッドストーン研究所から日本に帰国した際に、日米の状況の違いに戸惑ったそうですがそれはどのようなものだったのですか。

日米ではサイエンティストの社会的評価が大きく異なります。私は医師からサイエンティストになりましたが、アメリカでは医師とサイエンティストが同等、人によってはサイエンティストの方が上だと評価しています。けれども日本に帰国するとサイエンティストは医師より給料は低く、社会的地位もあまり認められていません。このようなギャップが戸惑いの一番の要因だったと思っています。そのため、私はサイエンティストととして日本でどのようにサイエンティストの社会的認知度を高めるか、子供にあこがれを持ってもらうためにはどうしたらいいかについて今も考えています。

―今後学生や一般人向けに再生医療の分野の本を書く活動をする予定はあるのでしょうか。

まず研究を進めることが私の最大の任務でありビジョンなのでそちらに時間を割きます。将来時間に余裕ができたら自分たちのiPS細胞に関する研究を伝えていく活動もしたいと思います。

―最後に京都大学の学生に向けてメッセージをお願いします。

京都大学は日本人ノーベル賞受賞者を多数輩出し、特に自然科学系ではほとんどと言えるほどです。このような大学で20代前後の若い時間を過ごせることは、自身の今まで努力の結果とも言えますが、幸運なことです。これを最大限生かして、今京大に在籍している学生の中からたくさんの研究者が出てくることを期待しています。

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