〈講演会録〉戦後日本のなかの沖縄―日米安保・密約とメディア 後編(2012.10.01)

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7月28・29日、同志社大学寒梅館ハーディホールにて、同大教授・浅野健一ゼミ企画によるシンポジウム「国策とメディア-沖縄と福島から」が開催された。28日にはシンポジウムに先立ち、沖縄返還協定における密約が白日の下にさらされるきっかけを作った「西山事件」で知られるジャーナリストの西山太吉氏が講演。今なお日本社会に大きな禍根を残している沖縄米軍基地問題の歴史的経緯と、現代日本メディア・政府が抱える構造的問題について語った。

今号では、西山氏の講演の後半部分と、その後シンポジウム内で行われた質問のやり取りをお伝えする。(編集部)

〈講演会録〉戦後日本のなかの沖縄―日米安保・密約とメディア 中編(2012.09.16)


外務省の対応

1972年に私が社会的に「抹殺」されて、権力はほくそえみました。「これで大安心だ。密約問題は完全に消滅した。西山は二度と立ち上がれまい」。この安心感が大変な事態を巻き起こすのです。安心してしまったから、アメリカに対するチェックを怠ってしまった。極秘の密約を結んでいるのだから「アメリカに何かあるといけない」という疑念があれば、絶対にチェックするでしょう。一方、アメリカは法律が変わりましたから、25年経てばどんどん開示する。それが真相です。日本のメディアは一切報道せず、密約問題は72年で終わってしまっていたのです。そこに突然、降って湧いたように密約の情報が出てきます。慌てたのは外務省です。奇しくもちょうど情報公開法ができた時です。「開示請求が殺到するだろう」となった。それで2、3ヶ月の間に、外交機密文書1200トンを焼却処分してしまいました。そして多数の証言、客観的証拠が出てきたにもかかわらず、政府は密約など一切ないとしました。2009年の政権交代までです。メディアはメディアで、ただそのことを報道するだけ。それ以前にアメリカで膨大な数の機密文書が開示されていたにもかかわらずです。ケーススタディといって、アメリカがその全貌を調べ尽くしてまとめた本があります。私もこれを読みました。沖縄返還交渉の密約はどうして起こったのか。その背景にはどういうことがあったのか。日本が期限を設けたためにどれだけの問題が起こったのか。こんな危険な交渉はありません。旧大蔵省が財政問題を全てやり、外務省が基地問題をやる。そして核問題は全部密使がやる。こんな三重構造の交渉なんて見たことも聞いたこともありません。異常です。そういったことが出ているにもかかわらず、国会で「沖縄返還は返還協定が全てだ」と言った。メディアはどうだったか。目の前に開示文書が山ほどあって、証言まであるにもかかわらず、開示手続をとろうとする人は一人もいないのです。こんなバカな国はありませんよ。そういう動きを見せる学者も、弁護士も、ジャーナリストも日本にはいないのです。ヨーロッパだったら国会で一網打尽です。そして担当者は全部追放ですよ。誰も何もやらないから、とうとう私たちが開示請求をしたのです。私たちがやらなければ沖縄の密約裁判なんて無かったのです。裁判所は沖縄密約を全部認定しました。これは民主主義にとって歴史的な事件です。我々少数のグループが裁判を立ち上げていなければ、今も日本はちっとも変わっていなかったでしょう。


「下達」をつらぬくメディア

日本の民主主義というのは、制度としてはあっても機能としては全然ない。ご存知のように日本の戦後民主主義は民衆が作ったものではなく、GHQと官僚が作ったものです。日本の新聞も資本家が作ったものです。戦争、軍国主義が拡大するにつれて商業新聞が伸びていく。権力の情報を下達するのが新聞の役割でした。日本の新聞は民衆が下から作ったものではないのです。ヨーロッパ、アメリカの新聞というのは、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズにせよ、ロンドン・タイムズ、マンチェスター・ガーディアンにせよ、全部地名がついています。民衆と統治者の戦いの中で、意思表明の手段として民衆が新聞を作ってきたのです。日本では民衆が無関心なものは大手メディアも報道しません。沖縄密約の開示請求なんて民衆は無関心なのです。下の問題を上にフィードバックするのがメディアの役割なのに、大手メディアは民衆の関心のある問題ばかりを取り上げていく。そういう日本の矛盾が、密約問題の中に全部凝結しているのです。

北米局長という役職が外務省にあります。次官候補ですね。旧大蔵省でいえば主計局長のレベルです。つまり、エリート中のエリート。河相周夫というのですが、その北米局長が、先輩だった人物の証言にもかかわらず、国会で「沖縄返還協定が全てで密約など一切無い」と言ったのです。自民党では内閣官房副長官補(外政担当)でした。ところで、民主党は情報公開法をかなぐり捨てて、今秘密保全法を作ろうとしています。なんと、内閣官房副長官補としてこの河相周夫が戻っているのです。そして今や官房の中心人物です。こんな国があるでしょうか。結局彼は、国会で虚偽の証言を繰り返した。とっくに追放されなければならない。でも今、秘密保全法の委員会に中心人物として出ている。大手メディアは何も報道しません。私は日本弁護士連合会と行動を起こすつもりです。こんなことを放置していては、日本の民主主義は崩壊します―すでにしているのですが。情報公開法改正案という画期的な法案を出したかと思えば、たった1年半後にはその法案を全部つぶしてしまおうとしている。それについて民衆もメディアも全く無関心であります。そういう状況であることをよく知っておいていただきたいと思います。


アメリカ依存は続く

今、アメリカは中東での戦略を全て失敗し、撤退しようとしています。イラクはどうですか。バグダッドでは今、毎日のようにテロが起こっている。内乱状態です。何のために戦争をしたのか。アフガニスタンはどうですか。14年までに撤退するとしていますが、フランスは耐え切れないと言って今年中に撤退です。アメリカの財政赤字は2001年に400兆円でしたが、今や1200兆円です。軍事費を減らしていかなければならない中で、国防戦略を立てなければならない。こんな矛盾はありません。結局、東アジアに目を向ける。幸いにして東南アジアと中国の仲が悪い。そこで中国抑止を打ち出します。その上で東南アジア6億人の市場を影響下に置こうとしています。私はこれを「最後の戦略」と呼んでいますが、あれだけの失敗にもかかわらず、日本はまたこの新戦略に全面協力しています。東アジア共同体が日本の生命線として提起された時期もありますが、アメリカはこの路線に反対です。

そして、アメリカの抑止の主な対象がとうとうこの中国・北朝鮮だけになりました。そして日本はアメリカに全面協力すると言っています。1950年代のルネサンスとでもいうべきあの頃を思い出して独自の路線を貫き、共存をはかるべきであるにもかかわらず。そうすれば沖縄の問題も解決できるでしょう。しかし秘密保全法を作りなおして、またもや準軍事体制的になろうとしている。この秘密保全法というのは軍事、外交、秩序と全部において特別機密を役人が作るものです。すると開示請求がいくら来ても「特別機密だ」といえば一切開示しなくていいのです。そういう体制が、今目の前まで来ています。近く選挙があって大連立でもできれば、1週間で全部通過してしまいます。今、そのような危機的状況になっているのも、日米同盟という大きな動脈によるものです。そしてそれをいびつに変質させてきたのが「守ってもらっている」、「返してもらう」という2つの「ユニークな」政治的ファクターの作用なのです。私はみなさんに、そのことをよく知っておいていただきたいと思います。

〈講演会録〉戦後日本のなかの沖縄―日米安保・密約とメディア 質問編(2012.10.01)

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