〈企画〉古書店特集 古本のまち、京都(2012.07.16)

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先日、何十年にもわたって百万遍と京大の石垣を見渡してきた、レブン書房が閉店することになった。お隣のパチンコ店のハデな照明の前では目立つことのない小さな書店だったが、いざなくなってしまうと寂しい。

大学生協の整備やネット販売の普及によって、町の本屋を訪ねて本を探す必要がなくなりつつあるのかもしれない。

しかし同時に、京都は古本屋の街、小さな書店の街でもある。京都大学の周辺には何軒もの古本屋が営業しており、毎年下鴨神社やみやこメッセ、智恩寺で古本まつりが開かれる。そういう場所をろくすっぽ知ることなく大学生活を過ごすのは、どこかものさびしい。気まぐれに入ってみたその書店が、一生ものの出会いを与えてくれるかもしれないのだ。

今号では、そんな「古本屋の街」京都に店をかまえる古書店を、店主たちの声とともに紹介する。あなたが「出会い」のきっかけを得る一助となれば。(編集部)

①ガケ書房

アイデアが集結する町の本屋


白川通今出川交差点を北に進むと、石が組まれた特徴的な外装の建物が目に入ってくる。それがガケ書房である。古書店の店主を一時期任されていた事がきっかけとなり店作りに興味を持った現店主が2004年2月、この書店を開店した。元々は古書店を経営したかったが、新刊書店の方が自分で仕入れる本を選ぶ事ができると思い、新刊書店を開店する事になったという。

ガケ書房にはあらゆるジャンルの本が並んでいるが、ベストセラーなどの売れる本は置いてないという。それはガケ書房に来る客は知らない本を求めているから、顧客のニーズに合わないからだという。また、タイトル・本の大きさ・出版社・著者・値段という、客が書店の棚に並べられている本を見る時と同じ情報量だけを使って仕入れを行う。さらに、注文後に送られてきた現品を実際に吟味して、店頭に並べるかを決めるという。これらの作業を行うことで、そのような顧客のニーズに応えているようだ。そのような仕入れ方を他の書店では通常行わないので、ガケ書房は「セレクトショップ」と言われる事があるが、店主は「自分の趣味は反映させていない。小売業として当たり前の事をやっているだけだ」と語る。

さて、新刊書店であるはずのガケ書房には古書も並べられている。浄土寺にある「善行堂」を開店する前にその店主が「古書を置かせてくれないか」とガケ書房に依頼したことがきっかけとなり、書店内に「貸し棚」を設置した。そして、現在も店内にある「古書善行堂」というコーナーが「善行堂」という店名の由来になったのだとか。その後も、いろいろな人が古書棚のオーナーをするという方式で、現在も様々な古書が並べられている。

ところで、ガケ書房の店主に店内の自慢の一冊を聞いてみた。すると、『ノート』(いしいしんじ著)という本を紹介してくれた。この本は京大文学部出身の作家、いしいしんじのアイデアが詰まった自筆ノートの一部をガケ書房が編集出版したものだという。1000部限りの出版であり表紙はそれぞれ異なるので、ガケ書房に置いてあるそれぞれの「ノート」は世界に一冊だけのものである。(但し内容はすべて同一)

ガケ書房店主は「店に出入りする人々がアイデアを出し、それを発現させていく場として『ガケ書房』が存在していて、現在書店内の数々のユニークなコーナーはその証である」と語る。何かアイデアが出なくて煮詰まってしまったとき、アイデアに溢れたガケ書房に少し立ち寄ることで、アイデアのひとつやふたつ浮かんでくるかもしれない。(湘)


②善行堂

読みたい本との出会いを


善行堂は、今出川通り沿いの銀閣寺近くにある。店主の山本善行さんは、数年前までは大阪で学習塾を営んでいた。京都から大阪への通勤の際には、京阪沿線の古本屋に毎日のように通っていたという。そのうちに、古本についての文章を書くようになった(新潮新書の『関西赤貧古本道』など)。そのような活動をしている中で、2009年の7月に善行堂をオープンした。

20年以上、毎日のように古本屋に通っていたために、店を始める前にすでに1万冊ほどの蔵書があったという。持っている本をすべて店頭に並べることはできないので、店頭にある本は山本さんが特に人に読んでほしい、並べたいと思った本が並べられている。ほこりを叩く、日に当てるなどして、なるべくきれいな状態にすることもまた仕事である。

店づくりに対する考えは次のようなやり取りからも浮かび上がった。山本さんは自分の著書を新品で買ってほしいと思わないのか、と尋ねると、古本屋に置いてあっても嬉しいと答えた。何故なら、店主は価値があると判断するからこそ店頭に置くからだという。またレブン書房が閉店したことについて、本屋は店主が様々なことを考えながら何年も積み重ねてつくっていくものであり、同じものをつくることはできない、だからなくなってしまうのは大きな損失だと語った。

山本さんが自ら本を薦めることも行っている。客と何回か対話する中で、相手の状況や趣味を考えながらどのような本を読んだらいいか薦めるそうだ。記者はいきなり訪れたにもかかわらず「あまり普段小説を読まないので、小説を紹介してほしい。自分と同世代の登場人物が出てくる小説を読みたい」などと図々しくもお願いしたところ、太宰治の短編集を薦めていただいた。

色々な本に出会うために、ふらっと入ってきて話しかけてもらいたい、と山本さんは話す。何か本を読みたい、けれども何を読んだらいいかわからない、という人こそ善行堂に行けば読みたかったような本との出会いがあるかもしれない。

山本さんのご自慢の一冊は、夏目漱石の『虞美人草』初版本である。これは1908年に春陽堂という戦前の代表的な出版社から発行されたもので、現在ならば数万円の価値があるという。もっとも、無理を言って「一冊」に絞っていただいたが、あくまでこれは「貴重」という意味での「ご自慢の一冊」である。他にも、最近仕入れたという1937年に作品社から出版された『梶井基次郎小説全集』などがお気に入りだという。(P)


③萩書房

古本屋再発見


萩書房は、1986年に設立され、扱っている本の数は5000冊を超える。本のジャンルは文学、音楽、芸術関係が中心である。

叡山電鉄一乗寺駅より東へ徒歩3分のところにあり、入口には、「 Welcome! To Hagui shobuow 」「明ルイ古書店ダー」「心配御無ようザンス。」 「記念撮影オッケー!」「此処は左京区一乗寺」と書かれた、ユニークなおじさんの看板が訪れる人を出迎えてくれる。店の外には100円の文庫本が並び、こ れが最もよく売れるそうだ。店内は多くの本で溢れており、どの本を買うべきか迷ってしまう。利用者は、学生が最も多く、近所の住民が利用することもある。

店主の井上さんは、最近は店売りが減っており、もっとお客さんに来て欲しいと言う。昔は本さえあれば売れたが、今は利用する客 が減っている。とりわけ、学生の利用者が減っており、今の学生よりも昔の学生のほうがよく古本屋を利用していた。昔の学生のほうが本をよく読んでおり、今 の学生には、本のジャンルが何であるかを問わず、もっと本を読んで欲しいと思っているそうだ。

萩書房の自慢の1冊は、鴨居羊子の「私は驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」。鴨居羊子は、戦後、白い質素な下着しかなかった時代にカラフルな下着を売り出し、下着ブームの火付け役を果たした昭和後期のデザイナー。これは、著者の直筆サインが入った貴重な一冊である。(亀)


④紫陽書院

漢籍を集め続けて17年


叡電茶山駅から歩いて一分、閑静な住宅街に紫陽書院はひっそりとたたずんでいる。店内はこじんまりこそしているが、天井近くまで本がうずたかく積み上げられ、哲学書や由緒ありそうな古い書物が目をひく。奥に進むと今度はがらりと趣が変わり、アート関係、サブカルチャー関係の本が並んでいるのが面白い。

紫陽書院は写真集や画集といった美術系の古書、思想や歴史など人文系の古書、そして漢籍を取り扱う関西でも大変めずらしい古本屋である。漢籍とは清代以前に漢文で書かれた中国の書籍を指し、中でも中国で作られた本を唐本、日本に輸入されて復刻された本を和刻本と呼ぶ。ご夫婦で経営されており、奥さんが美術系の古書を、ご主人が人文系の学術書や漢籍を担当している。

この地に紫陽書院が開かれたのは17年前。元々、漢籍好きが高じて大阪で古本屋をやっていたご主人が、奥さんの経営していた古本屋を引き継ぐ形で始まった。店内の所々には、ご主人が長年、見つけてきた漢籍が置いてある。江戸時代の和国本書籍を中心に明・清の刻本や民国期の復刻本など、いずれも歴史的価値の高い本である。「これから紙という媒体は消えていって、本はますますマニアックなモノになる。だからこそ、(大衆的な書籍ではなく)あえて漢籍を扱い続けることに一抹の光を感じている」とご主人は語る。

貴重な漢籍の一例としてお見せいただいたものは、16世紀の明代・嘉靖年間に木版印刷された唐本である。とても約500年前のものとは思えない程、頑丈できれいなのが印象的である。残念ながら不揃いではあるが、ハーバード大学にも同一版が存在し、標本としての価値は極めて高いそうだ。

一般書籍のみならず芸術系の古書、漢籍を豊富に扱う紫陽書院は京大界隈の古本屋ではとりわけ個性的である。中国史や中国古典に興味のある方、美術を愛好する方は是非一度、足を運んでみるとよいだろう。(羊)


⑤井上書店

京都ならではの「古い」本


1947年創業の井上書店は学術書を中心に取り扱っている。店主の井上道夫さんがおもむろに取り出したのは、寛政11(1799)年に発行された『都林泉名勝圖會』という、今でいう観光ガイドブックである。観光客で賑わう鴨川の図などがあり、当時の人々の様子をうかがい知ることのできる歴史的価値の高い本である。

どのような人がこんな古い本を売りに来たのかという記者の質問に井上さんは「京都の場合は普通の家にこういう本があるんです。和紙でできているので何百年経っても傷まないんですよ。嬉しいことにこういう本が京都には無尽蔵にあるんです(笑)」と語った。その道の研究者の所有物だったというわけではなく、一般の家庭に江戸の世から平成の現在にまで残っていたものである、というのは古都・京都ならではのことだろう。

ほかにも、大阪・今橋で起こった爆発事故の惨状を伝える写真が印刷された絵葉書や「英米撃滅」と書かれた戦時色の強いひらかたパークの菊人形の広告ビラ、明和3(1766)年に出された武芸伝書など「本」以外の物も置いてある。どれも貴重で、そのまま史料になるものである。実際、日文研(国際日本文化研究センター)の人が絵葉書を買いに来たそうだ。井上さんは、こういった昔の絵葉書や地図を眺めていることが好きだという。

京大のそばに位置していることから、教授が退官の際に本を処分することもあり、井上さんはどんな本が来るのか楽しみにしているそうだ。

また、周囲の変化について話を聞いたところ、以前は書店の向かいに工学部棟があり、大晦日と正月以外は24時間電気がついていて、ここに立ち寄る学生も多くいた。しかし桂キャンパスへの移転に伴い、その数も減り、大学の施設も充実してきてキャンパス内で全てが完結するような状況になった。そのために学生街自体が衰退しつつあるのでは、と語った。

最後に、学生の皆さんにということで「おじいちゃん、おばあちゃんの家にある古い本があれば持ってきてください。ほかさんといてね」と井上さんは笑顔で話してくれた。(築)


⑥吉岡書店

学生さん。学問へいらっしゃい


京都大学本部構内の北西門を出ると、今出川通を挟んで反対側の道路で店外に本を置いている古本屋が目に入る。そこが、今回取り上げる吉岡書店である。吉岡書店は学術専門書と和本を中心とした古書販売と出版活動を行っている。

店内に入ると学術専門書が非常に多いことに気付いた。これは京都大学のすぐ近くに位置することから、京大の学生を主な購買層として営業をしているためだと吉岡書店代表取締役の吉岡誠さんに教えてもらった。吉岡さんに本離れと本屋の役割について聞くと、本の役割の観点から語ってくださった。

吉岡さんは「インターネット等の発達で娯楽としての本の役割が薄れることで、本離れが起きているとは思う」と述べる一方で「学問の場で本離れが起こることはないのではないか」と述べた。その理由としてインターネットの情報は数が多くかつ相互比較が難しいが、本は実際手に取って相互を比較することができるため自分自身に合うものが見つけやすいということを挙げた。そして、本屋はそうした出会いを提供する場であり、さらに古本屋は新刊では手に入らない情報との出会い可能にする場だと述べた。

自分の事を振り返ると、受験生だった時は受験参考書選びの際にかなり時間をかけた。一方で大学生の現在、本選びが大切なことは分かっているが、あの時ほど真剣に選んでいないことに気づいた。

吉岡さんに最後に来店者へのメッセージを伺うと「とにかく本屋に来てほしい。そして実際に本を手に取って読んでみてほしい」と答えた。大学生になって学術専門書選びに無頓着であった人は記者を含めて結構いるのではないだろうか。そういう人に向けておすすめの書店である。試験勉強やレポートや研究に行き詰った時に、昔の人の知恵を借りるつもりで気軽に行くのがよいだろう。(狭)


⑦富山房書店

和紙の香り漂う老舗


富山房書店(ふざんぼうしょてん)は戦前から続く古本屋で、1995年の引越しを経て現在の場所に店を構えている。百万遍付近で今出川通から万里小路へ少し入ったところにあり、静かな環境の中でゆっくりと本を探すことができる。

店の戸を開けると、まず和装本の山が目に入る。一冊手に取ってみると、それは能の謡本で、昭和初期に発行されたもののようだ。レジの横にも数多くの能の謡本が積み上げられている。能のほかには、江戸時代の和装本や、宗教のマニアックな本が並んでいることも特徴的だ。そのほか日本の歴史や文学に関する本が多く見られる。

京都に関連する本がまとめて置かれているが、こういう古本屋は意外にも珍しいそうだ。大学生向けの教科書などがあまり見当たらないことも、京大近辺の古本屋としては珍しい。

そんな富山房書店の自慢の一冊は『能趣少狂言』という1935年に芸艸堂(うんそうどう)から出版された木版画の本だ。1枚1枚、丁寧に摺られた木版画そのものが綴じられており、非常に色彩豊かに、また色の濃淡も精緻に、狂言の場面が描かれている。木版画を生で見るのは初めてだったので、貴重な経験になった。

古本屋というと、欲しい本を安く入手できるところだと思う人が多いかもしれない。そもそも足を運ばない人も多いかもしれない。だが貴重な本を多く取り揃えた古本屋も多く、そこは一種の博物館のようでもある。ぜひ足を運び、価値ある本を実際に見て、触れて、感動して、できれば買ってほしい。(朴)

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