今、振り返る教員人生 2011年度退職教員講義ハイライト(2012.04.01)

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京大では2010年度末に教員の定年を64歳とすることを発表した。そのため、2010年度は定年退職する教員はいなかった。2年ぶりに京都大学教員定年規程が実施される2011年度は74名の教員が定年退職する。

そこで、弊紙では退職教員の最終講義を一部ではあるが紹介したい。(編集部)


吉川一義・文学研究科教授
          先達が残した仕事の頂上へ


3月16日、吉川一義・文学研究科教授(フランス語学フランス文学)の最終講義が文学部新館第三講義室で行われた。19世紀の作家マルセル・プルーストの作品研究をはじめ、日本および世界のフランス文学研究をリードしてきた吉川教授の総括ともいえる講義を聞きに、学内外から多くの来聴者が訪れた。

吉川教授は大阪府出身。1977年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学、1977年パリ・ソルボンヌ大学博士課程取得。東京都立大学教授などを経て、2006年より京都大学大学院文学研究科教授をつとめた。2010年からはプルーストの『失われた時を求めて』の個人完訳に取り組んでいる。また同週の12日にはプルースト作品に登場する絵画芸術に関する研究が評価され、日本学士院賞・恩賜賞の受賞が決定した。

「ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバンと幻灯 ―テーマ系列とコンテキスト―」と題した今回の講演では、『失われた時を求めて』序盤の場面分析を通じて、プルースト作品における壮大な試みを明らかにした。

『失われた時を求めて』の第一部は、作品全体の「序曲」にあたる冒頭部分と、「コンブレー1」、「コンブレー2」と呼ばれる部分によって構成されている。今回の講義ではまず、「コンブレー1」の冒頭に登場する映写機、幻灯(lanterne magique)の役割を確認した。

この箇所には、講義の表題にもある中世フランスの聖女伝説「ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン」の一シーンが、幻灯によって「私(Je)」の眼前に映し出されたと書かれている。しかしそこで語られているようなシーンは、伝えられている伝説には実のところ存在しない。つまりここは、表面的には中世の伝説を下敷きにしているとされながら、作者プルーストの完全な創作となっているのである。

吉川教授は精密な分析を通じ、「幻灯」を介し中世の伝説を異様な場面に再構成することによって、「幻灯」の持つ魔術性を際立たせつつ、後のコンテキストに対する前触れとしての機能を果たしていることを示した。すなわち、後のち小説内で語られることになる「私」の読書体験の一部を、この伝説が構成しているのである。さらに「私」の読書体験は、個人史のレベルを超越し、フランス文学史の全体に接近する。このような壮大な試みは、作品の冒頭で、幾世紀にも渡る文明、人類の歴史を超越しようとする「私」の意識の有り様が語られていることにも見事に対応している。

講義後、吉川教授は自身の研究者、教員としての半生を振り返った。現在行なっている『失われた時を求めて』の完訳作業については、「「翻訳奴隷」のような日々ですが、これほどやりがいのある仕事はないと思っています」。最後に、高校、大学の恩師や同僚に感謝を述べた上で、「亡き先達の責務を負っているような感覚で、今後も頑張っていきたい」と締めくくった。


淡路敏行・理事
        自分の分野が統合できる勉強を


3月15日、淡路敏行・理事の退職教員最終講義が開かれた。会場となった理学部6号館には約60人の学生や教員が集い、中には淡路氏の研究仲間も遠方から赴いていた。

講義のテーマは「海洋科学研究のこれまでとこれから」で、自身の専攻・研究している内容を解説。海洋現象の物理を明らかにすることに関心があったが、基づくデータが無かったため、データ同化(数値モデルの再現性を高めるための作業)を行いそれに基づいて様々な現象を解明していたという背景についても語った。若いときにカラー図を用いた論文を出す際、印刷技術の関係上当時は色ごとに違う印刷所に送られ、赤系統は香港にまで送られてしまい1ページ作るのに1000ドルかかったという苦い話もしていた。

淡路氏は京都大学の教育担当理事にも就いており、それに関連して京都大学の基本理念や教育方針についても言及。志を重視した入試や、緩やかな専門化や本物を使って学ぶフィールドワークと理論の統合の重視などを挙げ、さらに自学自習の重要さについても語った。自学自習というのは自分で学んだことを束ねて発展させる自己研鑽、自己演習ならびに対話型交流力のことを指す。そういう意味での高いレベルの自学自習を研究力の養成やモチベーションの高揚のためにリーダーを養成していく大学であるところの京都大学は認めているという。専門を横断的に束ねて課題を解決する総力戦の基盤としての自学自習力や実社会での時代の進展とともに次を生きる力や開発・開拓力を身に着けさせる教育を通して気づきを与える教育の重要さを強調し、来年より始まるリーディング大学院に繋がる自信の考えを示した。

解決のシナリオに必要な要素科学が何なのか、その勉強をしていれば何かしらのシナリオが出てくる。勉強もしてないのにシナリオは描けない。問題意識を持つと同時にその分野を統合するような勉強をしてほしい、と学生に向けて話した。講義の最後には淡路氏に花束が贈呈され、拍手の中終了した。

なお、淡路氏の京都大学教育担当理事としての任期は2010年10月1日から2012年9月30日となっている。

2011年度退職教員一覧はWebサイト上では掲載・配信を行っておりません。
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