教習所特集2012 聖地巡礼記 「拡張現実、しましょうか?」(2012.04.01)

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「『仮想現実(VR)から拡張現実(AR)へ』という問題を現代日本の文化空間で受け止めたとき、これは私たちが虚構に求める作用の変化を如実に表現しているように思える。もう一つの世界に接続するのではなく、この世界を読み替えること、(中略)『聖地巡礼』現象はその端的な例として挙げられるだろう。キャラクターが現実の風景に入り込むことで、何でもない駅前や神社や住宅地が『聖地』と化していく」(宇野常寛著『リトル・ピープルの時代』より抜粋)

上のような解説ではわけがわからないだろうから簡単に噛み砕いて説明すると、「聖地巡礼」とは主にアニメ作品のロケーション探訪の行為を指す。アニメの舞台になった場所へ実際に出かけていって、この場所に誰々ちゃんがいたんだなぐふふと妄想をたくましくさせて楽しい気分になる、というのが「聖地巡礼」の主たる目的である。最近では、この「聖地巡礼」客をターゲットにした町おこしを試みる自治体もでてくるなど、アニメのロケーション探索はしだいに大きなトレンドとなりつつあるようだ。

そこで今回は運転免許を取りたての編集員、47が編集部の同僚を連れて長野の上田市と小諸市に「聖地巡礼」へと行ってきた。


Ⅰ『サマーウォーズ』と真田幸村の里
                     …上田市


まずは2009年に公開されたアニメ映画『サマーウォーズ』(細田守監督)の舞台である長野県上田市へと向かう。『サマーウォーズ』の主人公、小磯健二くんが新幹線の車内で食べていた「30品目バランス弁当」と「お~いお茶」のペットボトルを東京駅で購入し、満を持して長野新幹線に乗り込む。車内ではこれまた健二くんがしていたように、トレイ上で弁当を広げつつ右斜め前にペットボトルを置くという体制で黙々と昼食を食べる。一瞬たりとも気を緩めてはいけない。もうすでに「聖地巡礼」は始まっているのだ。

上田に到着後、駅周辺で事前に予約していたレンタカーに乗り込み、いよいよ上田市聖地巡礼のスタートである。劇中で出てきたバス停や駅前の商店街、上田城などを順に車で回る。市内のところどころに「『サマーウォーズ』の里、信州上田」と書かれたのぼりが立ち、各所のお土産屋にもそれなりに『サマーウォーズ』の関連商品が販売されていたが、それ以上に目立っていたのが戦国武将、真田幸村のグッズであった。上田市というのは戦国武将真田幸村ゆかりの地であるらしく、至る所に真田幸村をアピールするポスターやら記念碑やらが並んでいた。

実はこの真田幸村、『戦国BASARA』という戦国時代が舞台のアニメ作品(原作はPS2のゲームらしい)のキャラクターにもなっており、アニメキャラ「真田幸村」の関連グッズも多く目にした。この地方都市における真田幸村は、単に歴史上の人物として敬愛されているだけでなく、重要な観光キャラクターでもあるらしかった。

一通り市内を回り終えて駅に戻る途中、通りに手書きの模造紙がでかでかと貼り出してあった。市ではNHKの大河ドラマで真田幸村が主人公のものを制作してくれと要求する運動をやっているらしく、これまでになんと666666人の署名が集まっているのだという。

全体的に真田幸村の圧倒的な存在感に押され、やや脇に追いやられている感じを受けた『サマーウォーズ』であったが、そういえば夏希先輩の実家、陣内家も真田家の家臣の末裔という設定であった。家臣が主君を差し置いて目立つことなどあってはいけない、ということだったのだろうか。


Ⅱ『あの夏で待ってる』
            … 小諸市


日が暮れた頃に上田市を周り終え、次に向かったのは上田から数十キロ離れた小諸市。ここは今年の3月下旬まで放映されていたテレビアニメ『あの夏で待ってる』(通称『あの夏』又は『なつまち』)の舞台となった街であり、地元のフィルムコミッションも制作時から協力していたらしい。

小諸に到着した時にはすでにあたりは真っ暗であったが、我々はそのまま海人とイチカ先輩の出会いの場所となった西浦ダムへと向かった。劇中で西浦ダムが登場するのは夜のシーンが圧倒的に多く、夜の西浦ダムこそ見る価値があると考えたのだ。

しかし、いざついて見るとダム周辺には電灯の灯りも少なく、本当の暗闇に支配されていて「聖地」というよりもただの心霊スポットのようであった。逆境の中、必死にフラッシュをたくもののまともな写真は取れずすごすごと退散する。

結局その晩は「巡礼」を断念して近くのマンガ喫茶に宿泊し、朝が来るのを待って西浦ダムや、劇中で映画撮影が行われていた懐古園などの「聖地」を順繰りに回った。この日は日曜日だったこともあり、市内では我々と同じ巡礼客とおぼしきグループを何組か見かけることができた。懐古園の入り口には『あの夏で待ってる』DVD販促用のポスターと、その横に「なつまちノート」なる記帳用ノートが設置されており、巡礼客がそれぞれ作品や小諸市への思いのたけをつづっていた。

懐古園を周り終えた後、駅前の観光協会に立ち寄ると受付のところにはまたしても「なつまちノート」が我々を出迎え、おまけに巡礼客がそれぞれ持ち寄った『あの夏』のイラストや同人誌、果ては自作のCDなども置かれていた。これらあふれかえるほどのアイテムの山を前に唖然としている間にも、受付のおばさんは丁寧に残りのロケーションの場所を説明してくれ、さらには巡礼客にお勧めの喫茶店まで教えてくれた。その店ではファン自作の「聖地巡礼マップ」や『あの夏』の特別メニューが提供されるのだという。

おばさんに礼を言って観光協会を後にし、件の喫茶店をたずねる。マスターはもとより、カウンターの腰掛けていた先客のおじさんまでが我々をはなから聖地巡礼客と見抜いており、『あの夏』やその他のアニメの話題などをきさくにふってくれる。私のようなオタクにとっては大変心地よい。メニューを見ると、「あのパスタ」、「あのサンド」、「ダイナマイトドリンク」といったラインナップが並んでいる。「あのパスタ」は劇中でイチカが作っていた冷やし中華風パスタ、「あのサンド」は同じく劇中で出てきた野沢菜サンド、「ダイナマイトドリンク」は檸檬先輩印の謎の飲料物のことである。私は「あのサンド」と「ダイナマイトドリンク」をいただいたが、この野沢菜サンドは案外おいしい(劇中では地球のことを知らないイチカ先輩がおかしな料理をしてしまうという話になっている)。マスターの話では劇中の設定通り本当にまずくしてしまうとメニューとしてなりたたないので試行錯誤を繰り返したそうだ。なんとも素晴らしい『あの夏』愛である。

また、我々の隣に座っていた先客のおじさんは小諸以外の色々な所にも「巡礼」をしているらしく、埼玉の鷲宮(人気TVアニメ、『らき☆すた』の舞台である)に行った時のおみやげ品(つかさのバルサミコ酢)などを見せてくれた。ファン同士が交流出来るこのような店は素晴らしいと感じた。

「ダイナマイトドリンク」にアルコールが入っていなかったおかげでその後の運転にも支障が出ることなく、なんとかレンタカーを借りた上田駅まで戻ることができた。途中、はじめてガソリンスタンドでの給油を行う。少しガソリンを漏らしてしまうなどしながらも親切な店員さんのおかげでなんとか給油に成功する。ガソリン補給に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。

上田駅に着いてレンタカーを返し、駅前で「『サマーウォーズ』手ぬぐい」と「真田幸村りんごクッキー」をお土産に買っておしまい。また機会があれば車を活用した「巡礼」を行ってみたいと思う。

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