文化

〈企画〉急成長を遂げる杭州、歴史と文化息づく西湖 中国・浙江省杭州市探訪

2011.11.21

今年6月、ユネスコの世界遺産委員会で「杭州西湖の文化的景観」が世界文化遺産に登録された。中国東部・浙江省の省都である杭州市は、かつて呉越と南宋の都として栄え、この地を訪れたマルコ・ポーロが「天に天国あり、地に杭州あり」と記したことで知られる。現在はビジネス都市として開発が進み、日本からも1日1本の定期便が就航するようになった。そんな伝統と発展が交わるこの街を、3泊4日で取材してきた。(釈)

◆ 10月20日 ◆



昨晩から旅行準備に取り掛かったものの、初めての海外で何を準備して良いものか悩み、スーツケースに着替えを詰めていたら夜明けを迎えてしまった。京都駅から「はるか」に乗って爆睡していたら関西国際空港に着いていた。手荷物検査とセキュリティチェック、出国審査もスムーズにクリアし日本人のCAに案内されるまま機内に乗り込んだら、3時間足らずで日本を脱出してしまった。杭州蕭山国際空港の入国審査は中国人の入国管理官の横に日本語の音声案内機が置いてあり、中国語が分からなくても何不自由なく通過できる。果たしてここは本当に中国なのかといまいち実感が持てないまま現地のガイドに案内されて車に乗り込む。右車線を走り出したミニバンの窓からは、やたらと色彩豊かな建物が見える。あれは収入がそれなりにある農家の家です、とのこと。ハイウェイの窓から見える排気ガス混じりの空を眺めて、ここは日本ではないとようやく理解に至る。

車が銭塘江に掛かる橋を渡った頃、金色の球体を始めとする巨大ビル群が姿を現す。ここは銭江新城と呼ばれる新興の開発地で、ホテルやマンション、劇場などがここ数年で雨後の筍の如く林立するようになった。マンションと思しき建物を遠目から覗いてみると、各部屋の窓ガラス越しに見える景色はどこも一緒に見える。まだあまり人が入居していないのだろう。

銭江新城

銭江新城のビル群

ホテルに着いて時間があったので早速日本円から人民元に両替する。この日のレートは1万円で803元だった。早速買物を試みる。「台湾」と書かれた屋台でクレープ生地にベーコンを挟んだものを食べる。5.5元。油分が強くて胃もたれを起こす。

清河坊を歩く。杭州は南宋の都で、清河坊は当時の趣を現在に残すストリートである。仏教博物館で仏像や如来の掛け軸を見る。表の通りにはお婆さんが笛や木琴などの伝統楽器をしていたり、電動ドリルで石を削って工芸品を作っている老人もいる。奥からは湯気とともに名状しがたい香りが漂ってきて(この匂いは人によって好みが出る香りだ、残念ながら私は受けつけなかった)それが屋台であると分かった。

そうしているうちに夕食の時間を迎える。杭州料理と聞いていたが(某百科事典によれば、杭州もとい浙江料理は旬の野菜やタケノコなど素材が豊富なのが特徴とのこと)やはり日本食と比べ肉の割合が多い印象を受けるが、意外にも野菜や魚も割合も多かった。この他にも角煮に似た東坡肉(トンポーロー)も出されたのだが、ホテルの何本か先の通りが「東坡肉」の名前の由来となった「東坡路」であった。部屋に帰って今敏監督の映画「パプリカ」を見て寝る。

◆ 10月21日 ◆



8時に起床してホテルの回転レストランで朝食をかき込む。この日は世界文化遺産に指定された西湖に向かう。西湖は中国国内でも観光都市という位置付けであり、この日湖畔沿いの道は人でごった返していた。

電動カート(湖1周は40元)に乗って湖の周りを移動する。人がいようがクラクションを鳴らしスピードを緩めることはない。途中の撮影ポイントで一時停車してもらったが、曇り空でうまく写真が撮れず涙目になる。気に入った一枚が得られそうにないので、撮影は午後以降に後回しにすることに。とりあえず昼食に向かう。この日の昼食は四川料理で唐辛子が多い。変面を楽しむ。

午後からは遊覧船に乗って湖内を周遊する。西湖には「西湖十景」と呼ばれる景勝があり、季節や時間帯によって異なる趣を醸し出している。中国版富嶽三十六景といったところか。船が陸を離れてしばらくすると、水面から灯籠に似た石塔が伸びているのを見つける。これは「三潭印月(さんたんいんげつ)」と呼ばれるもので、旧暦の8月15日に石塔に空いた丸い穴にロウソクを差して風雅を楽しむというものである。私は昼に訪れたので実際に見た訳ではないが、一度は見てみたいものである。

西湖を渡る舟

西湖を渡る舟

この日の夕食も当然のごとく中華料理が出てくる。炒め物、汁物、揚げ物…どれを口にしても私の口に合ったのが嬉しい。さすがに締めの炒飯の後に白米を出されたときは尻込みしてしまったが。

空腹を満たした後は再び湖に戻り、演劇「印象西湖」を鑑賞する。観客は屋外に設営された客席から、湖面の舞台を臨む。この舞台は夜の上演時までは水中に沈められているという。ところで、西湖には多くの伝承が残されており、中国四大美人の一人である西施が入水した話や(この故事から「西湖」の名が定着したという説がある)、水滸伝にも登場している。そうした物語を産み出す土壌であるという点も、西湖の世界遺産登録を後押ししたと言えるだろう。

◆ 10月22日 ◆



この日訪れたのは京杭大運河。北京と杭州を結ぶ全長1700kmに及ぶ長大な運河である。船内のテーブルでナツメとライチを味わう。

午後からはバスで世界レジャー博覧会を取材する。中国国内の都市と世界各国がブースを出してお国自慢をするというもの。日本からは浜松市と和歌山県が出展していた。スリランカのブースでは象の置物、ギニアのブースでは民族楽器が売られていたりと、所によっては限定品を購入することができるようだ。

さて、杭州は龍井(ロンジン)茶と呼ばれるの名産地であり、郊外に足を運ぶと茶畑が広がっている。その一角に中国茶葉博物館がある。ここでは数種類のお茶を味わうことができ、学芸員の方が緑茶の種類ごとに何度のお湯で何秒間注げばいいかなどのポイントを日本語で実演してくれた。私が気に入ったのは朝鮮人参の烏龍茶であり、後味引く甘さに引かれてお土産として購入した。その後、茶農家を改装したレストランに移動し、最後の夕食を取る。この日は食前のツマミにヒマワリの種が出るなど、過去2日間と比べ野菜料理が多い印象だった。私は青島ビール片手にタニシを次々と食らうのであった。

◆ 10月23日 ◆



最終日は市内で買物をすることにする。古着屋で気に入ったシャツを眺めていると店員が積極的に声を掛けてくる。残念ながら私は中国語を話せないが、指差しながら「エックスエル」「イー」などと身振り手振りでアピールすると、向こうも私が中国語話者でないのを悟ってか鏡の前で採寸してくれた。面白いと思ったのが商品の清算方法だ。私の寄った店は商品に付けられたタグをレジに持って行って、支払いを終えてから店員にレシートを見せて商品を受け取る、というシステムだった。近くに新しく出来たと思われるショッピングモールにはユニクロが進出していたが、そこでは日本のように商品を直接レジに持って行くスタイルなのかもしれない(実際に訪れた訳ではないので知らないが)。

あとこれは街の中を歩いて気付いたのだが、杭州ではどこへ行っても「文明」という言葉が看板に描かれているのを見かける。歴史と革新の織りなすコントラストこそが、杭州の持つ魅力と言えるのかもしれない。

そうこうしている内に時間が過ぎて行き、13時過ぎの飛行機で杭州蕭山国際空港を旅立つ。離陸するボーイングの窓越しに、排気ガス交じりの市街地が遠ざかって行くのが分かる。長いようで短い4日間だった。

取材協力:杭州市旅游委員会・ANA全日空