文化

連載第二回 タンザニア滞在記 タンザニア人は日本が好き?

2011.11.21

私がダルエスサラームの街角を歩いていると、タンザニアの人たちからよく「チナ!チナ!」と囃される。タンザニアに着いた当初はスワヒリ語の語彙にも自信がなく、「はてどういう意味のスワヒリ語だろうか?」と思っていた。

ちなみに、スワヒリ語は基本的にアルファベット表記であり、読み方は日本式のローマ字と同じである。例えば「Habari ya asubuhi(おはよう)」の読み方は、「ハバリヤアスブヒ」でよい。つまり日本人にとっては比較的とっつきやすい言語と言えるだろう。ただ、少し厄介なことに、タンザニアの人は普通の英単語もローマ字読みしてしまう傾向があり、英語のはずなのに話が通じないことがある。もっとも、タンザニア人の間ではローマ字読みの英単語が当たり前のように使われていることもままあるが。今回のケースもまさしくそれで、「チナ」をローマ字表記にすれば単純明快。「China」。つまり、私は中国人だと思われていたわけである。道理で、チナチナと言いながら、古武術のまね事みたいなポーズをとっているわけだ(基本的にみな陽気である)。

私がコンゴ人とタンザニア人の違いを認識できないのと同様に、彼らにとってもまた、日本人や中国人などの似たような顔は見分けがつかないようだ。タンザニアではジャッキー・チェンやブルースリーが大人気で、その影響からだろう、東洋の人はみなカンフーを習得していると思い込んでいる節がある(余談だが、侍は基本的に誰も知らない)。私がテレビの見よう見まねで正拳突きを披露してやると、大人はたいてい「すごい!頼むから教えてくれ!」と寄ってきて、小さい子供だと駆け足で逃げ出してしまうくらいである。

東洋の格闘技に対する彼らの認識について、10年以上前の話ではあるが、私の先輩の研究者から聞いたある印象的なエピソードを紹介しよう。先輩が車を運転していたところ、何も違反をしていないのに警官に止められたそうだ。昔は日本人(=お金持ち)と見るや難癖をつけて賄賂を要求するような警官が割と多くいたらしい。警官は先輩に車から降りるよう要求し、言われもない罪を被せようとしてきたらしい。業を煮やした先輩は、目を閉じてひとつふうと息を吐き、腰を落として拳を固め、スワヒリ語でひとこと、「…貴様、死にたいのか?」。警官は警官としての体面を崩さぬよう、しかし見るからに狼狽して、結局何事もなかったかのように道を通してくれたそうだ。

さて、スワヒリ語に多少自信が出てくると、私は日本人だと反論したくもなってくる。反論したのち、私が日本人だとわかって、次に決まって出てくるのは車の話題である(すぐさま私のことを「TOYOTA!」と呼んでくる人もいるくらいだ)。厳密に集計したわけではないが、私が見る限りタンザニアで走っている車はほとんどが日本車である。日本車の評判は上々どころかみなさん大絶賛の様子で、日本の車が欲しい、日本で買って送ってほしい、という要求をされたこともある。

日本車の評判に伴ってか、日本人と聞いて悪い印象を持つタンザニア人は少ないようだ。逆に中国人の作るものは粗悪だ、中国人はだめなやつだ、という話になったりもする。しかしこれは、私が日本人だから日本を褒めておけばいいことあるかも、という心理に基づくものかもしれない。

またもう一つ、今度は私の体験したエピソードを紹介しよう。ある日タクシーに乗ったところ、例にもれずタクシーの運転手が「お前はチナか?」と聞いてきた。私は悪戯心を起こして、「Ndio.(そうだよ。)ニーハオ!」と返事をしてみた。するとどうだろう。タクシーの運転手は嬉々として、「中国はタンザニアの道路建設に力を貸してくれた。すばらしい国だ」と言い始めたのだ。いつも中国の悪口を聞いていた私は可笑しくなって、「じゃあ日本をどう思う」と聞いてみた。すると案の定と言うべきか、「日本は良くない!」との返答。これでは、日本の評判が必ずしも良いとはいいきれないだろう。少なくとも、お金持ちだとは思われているだろうが…。

さんざん日本の悪口を聞いた後、目的地が近くなってきたところで、「僕、日本人なんだけどね」とばらしてやった。すると運転手は一瞬ぽかんとした後、驚くことに、すぐさま「日本人の作った車はすごいよね!」と言い出した。人当たりがいいというか調子がいいというか、なんとも、タクマシイ国民である。(侍)

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