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「移動」が変える文学 文学部で公開シンポ

2007.12.16

時計台記念館・百周年記念ホールで12月2日、京都大学文学研究科・文学部公開シンポジウム「世界地図と世界文学」が開催された。第1部は「地図が人類史をかえる」をテーマに講演が、第2部は「文学が世界をつなぐ」としパネルディスカッションが行われた。

〈第1部 新たな脚光浴びる 「地図」〉

第1部「地図が人類史をかえる」では壇上に、現存最古にして最大級の中国古代地図「大明混一図」の複製などが展示された。この地図は漢族の王朝である明の時代につくられたものだが、清代となって支配階級が満州民族に代わると、漢字で書かれた地名の上から満州語で書かれた付箋が貼り付けられた。近くでみると、貼付けてあったり現在に至るまでに外れてしまっているなど、一風変わった体裁をなしているのがよく分かる。

講演ではまず、東洋史学専修の杉山正明教授が「混一図が語る世界」と題した講演を行った。従来、清朝の文献は漢字で解読されることが多かったが、中枢の重要な文献は満州語で書かれており、これらを解読できずして中国研究はおわれない、と述べ、この地図を研究することの重要性を語った。 また、14世紀につくられたこの地図に既にアフリカが描かれているのは驚くべきことであると強調し、西洋より100年も先において既にアジアの知識人たちがアフリカの存在を知っていたことを明らかにした。

続いて、聴講者たちが壇上にあがり、混一図を間近で見る時間が設けられた後、総合地球環境学研究所の承 志研究員が「大明混一図の解説」と題した講演を行い、当時人々がどう世界を捉えていたか、など21世紀COEプログラム「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」の研究成果を披露した。

〈第2部 文学の世界広げる 「旅」〉

第2部「文学が世界をつなぐ」では英文学専修の若島正教授が司会を務め、小説家の池澤夏樹さん、および先頃「舞い落ちる村」で文學界新人賞を受賞した谷崎由依さんがディスカッション形式で話をすすめた。

まずは、世界文学との出会いについて各々のエピソードが赤裸々に語られた、池澤さんは小学生の時に親から買い与えられた自転車と世界文学全集が自分の世界を飛躍的に広げてくれた、と話し、中でも「ロビンソン・クルーソー」との出会いが、自身の作品の土台となっていると述べた。谷崎さんは高校時代には翻訳作品のぎこちなさに違和感を覚え、国内の著作ばかり読んでいたそうだが、大学に入ってからオーストラリアに行った際、初めて地平線を見て、世界はなんて大きいのだろうと涙を流すほどに感動し、それ以来ガルシア=マルケスの「百年の孤独」をはじめとした世界文学に親しむようになったという。

次に、河出書房から出版されている池澤夏樹個人編集の「世界文学全集」について意見が交わされた。作品の選定について池澤さんは、古典作品から近代の著作までバランスよく収めるという定石はあるが、今回は思い切って19世紀以前の作品を外し、できるだけ今日の世界を示唆するような作品、それも登場人物がなんらかのかたちで「うごく」作品を選んだ、と述べた。

続いて旅行と文学のつながりに話はうつる。池澤さんは、日本にいると、どうしてもよく翻訳される作家のものにしか触れることが出来ないが、現地に行くと案外知らない作家が人気あったりもする、と述べ、文学を楽しむうえでの旅行の重要性を指摘した。谷崎さんは日本にいるときはピンとこなかった作品を地中海の船のうえで読むと面白かったことがあると語り、色とりどりの事物があるところで読んではじめて分かる面白さもある、と経験に基づいた持論を披露した。

他にも大学と世界文学の関わりなどについて論じられた後、最後に若者へのメッセージを求められた池澤さんは、「自分は翻訳作品にからめとられた人生であり、言語間・文化間での『移動』に苦労した。世界文学に触れ、遠方に自分の分身をおいてみることで世界を認識する、という感覚を大事にしてもらいたい」と詩人らしい言葉でもって今回の講演を締めくくった。

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