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受賞者が語るノーベル賞 10年度化学賞鈴木章氏が講演

2011.08.14

7月17日、時計台記念館百周年記念ホールにおいて、鈴木章・北海道大学名誉教授が「ノーベル化学賞を受賞して」と題する講演を行った。この講演は社団法人・学士会が主催したもので、同組織は過去にも日本人ノーベル賞受賞者による講演会を企画している。

鈴木氏は2010年、有機合成によるパラジウム触媒を利用したクロスカップリングの業績が評価され、根岸英一・米パデュー大学特別教授、リチャード・F・ヘック・米デラウェア大学名誉教授らとともにノーベル化学賞を受賞。講演では、受賞にまつわる様々なエピソードを紹介した。かつて、恩師にあたる故ハーバート・ブラウン氏(1979年にノーベル化学賞を受賞)から、ふとした折に「アキラをノーベル化学賞の候補にノミネートしたいと思っている」と告げられていたものの、鈴木氏は一種の冗談として受け止めていた。しかしその後、受賞者発表の時期にあたる10月が近付く度に「あまり国外に出ないでほしい」という周囲の声があったという。そして昨年、ノーベル委員会からの電話を氏自らが受け、受賞を告知された。氏はその時の心境について、「びっくりした」と振り返った。また、授賞式の時期(「ノーベル・ウィーク」)についても回想し、「とにかく忘れがたい一週間になった」と話した。

講演の後半では、鈴木氏自ら、受賞理由となった「鈴木・宮浦カップリング」について、化学式や構造式を交えた解説を行った。天然に存在する生理活性物質やビニル型ホウ素化合物は、ビニル型ハロゲン化物とのカップリング反応により選択的に合成できるとされていたが、炭素―ホウ素結合の共有結合性の高さのために、その合成法は1970年代まで確立されていなかった。鈴木氏は、パラジウム触媒と塩基の存在下で、すべての共役ジエン異性体を選択的に合成できる方法を開拓。ホウ素化合物が水に対して安定であることや、反応時に毒性もみられないことなど、このカップリングにはいくつもの長所が存在する。

また、氏の業績の一つであるアリール型ボロン酸のカップリング反応法の確立は、医薬品や材料研究に寄与している。ある時、医師から処方された血圧抑制剤に「鈴木・宮浦カップリング」が応用されていることを説明され、自身の研究が実用化されている実感を得た、というエピソードを挙げた。

最後に、若手の研究者、学生に対して「重箱の隅をつつくような研究ではなく、小さな重箱でもいいので、独創的で偉大な仕事をしてほしい」と檄を飛ばし、講演を締めくくった。

質疑応答の時間が設けられると、研究に関する質問のほか、「座右の銘」を問う人もいた。この質問に鈴木氏は「普段からこれというものを考えていたわけではないけど、あえて挙げるとすれば精進、努力といったところです」と答えた。

《本紙に写真掲載》

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