〈企画〉映画評 『ブラック・スワン』ダーレン・アロノフスキー監督(2011.06.01)

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現在公開中の映画で、もっとも美しいサクセスストーリーを描いている作品を挙げるとするならそれは間違いなく『ブラック・スワン』だろう。インディーズ映画でありながら現在、全世界で3億ドルの興行収入を得ている本作は主演のナタリー・ポートマンのアカデミー主演女優賞受賞など、映画界からの評価にも恵まれた。

ニューヨークのバレエ団に所属するニナは元バレリーナの母と同居しながら、生活のすべてをバレエに捧げる生活を送っている。ある日、そんな彼女に「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。「白鳥」を演じる技術にかけては誰にも劣ることがないニナだったが、優等生タイプの彼女はプリマが演じなければならないもう一つの役、すなわち悪魔の娘「黒鳥」の役作りに苦戦することになる。公演が近づき、大役としてのプレッシャーが日をおって高まる中、「黒鳥」にふさわしい官能的で予測不能な踊りを得意とするライバル、リリーの台頭も相まって、しだいにニナの心は「黒鳥」の闇にのみこまれていく……

恐怖とはなんだろう。

この問いへの答えとして『ブラック・スワン』が表現するのは、日常の中に、そして己の心に隠れる「亀裂」であろう。『パラノーマル・アクティビティ』シリーズに登場するような派手なポルターガイストなどなくとも、いつもと変わらぬ日々の中で、何かが違う、何かがおかしいというかすかな違和感を覚えるだけで人はいともたやすく不安に陥るのだ。知らぬ間に背中に出来ている傷、いつのまにか指から流れ出す血、しがない端役のまま引退した元バレリーナの母が突如として見せる狂気と嫉妬、監督トマスの誘惑、ライバルのリリーが見せる敵意。これらに挟まれたニナに心休まる瞬間などひとときもありはしない。全編を支配するほの暗い不吉な空気と緊張感はまさにサスペンス映画と呼ぶにふさわしい。ニナを演じるナタリー・ポートマンの演技も、日常に潜む「亀裂」の生む恐怖を我々視聴者により強く焼き付けてくれる。本番前の楽屋での「あの」出来事の後、完全なる「黒鳥」として目覚めた彼女の赤黒く光る目は見た者に強力な印象を残さずにはおかないだろう。美しく、危険な映画だ。(47)

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