インタビュー

粟野賢 障害福祉センターあらぐさの生活支援員「被災地での障害を持つ人の現状」

2011.05.19

3月11日の大震災以降、各メディアでその被害が取り上げられてきた。しかし災害弱者といわれる人たちは被災地で生活することができているのか、またその人たちに必要な物資や支援は行き届いているのかといった情報はなかなか伝わってこない。そこで今回、きょうされん(注)の一員として東北で障害のある方の支援を行われた、障害福祉センターあらぐさの生活支援員である粟野賢さんに、被災地での現状について伺った。(猪)

(注)きょうされん
前・共同作業所全国連絡会。1977年8月7日、国に対する全国規模での要求運動の展開、また各地の共同作業所づくりの経験を共有するために発足。現在では1880か所を超す会員を有し、小規模作業所だけにとどまらず、授産施設やグループホーム、生活施設、生活支援センターをつなぐ幅広いネットワークを構築。
連絡先:
03(5385)2223(本部)
075(323)5321(京都支部)

《本紙に写真掲載》

インタビュー



―いつごろ行かれたのですか

4月4日から13日です

―主になにをやっておられたのですか

避難所に障害のある方がおられるか、おられるならばどういうことで困っているのか、あとはきょうされんとして支援に行ったのできょうされんの関係施設に物資を運んだり、車が全部流された作業所もあってそこに車を届けたりですね。直接的な支援というよりは状況の把握段階だったので、その調査が主です。

―障害のある方はどのような現状におかれているのですか

僕は避難所を30か所くらい回ったのですが、本当に重い障害を持っておられる方は避難所にはおられないというのが現状です。ある避難所でそれほど重くない精神障害のある方に出会えて話を聞けたんですが、その方の支援をしているのはやはり家族の方で、家族の負担というものがすごく大きいんですね。夜中に暴れだしたらどうしようと思って不安になったり。身体障害のある方でも避難所にはベッドがなく、たとえば、ひざが悪い方では立ち上がったり寝転んだりするのがなかなか難しい。ベッドがあるだけでだいぶん変わるのですけども。避難所に入れたとしてもこういう苦しい現状です。

―障害のある方を避難所から排除するようなこともおきているのでしょうか

精神障害のある方が働いている作業所の人20人と職員4人で意を決して避難をしたれども、精神障害のある方を入れることはできませんと断られました。せめてトイレだけでも貸して欲しいと頼んだら崩れかけで立ち入り禁止となっているようなトイレに案内されたという話を聞きました。そういうことが悲しいですけど、現実に行われています。避難所に入れてもらえても個室を与えられて、個室対応というのはいいんですが、そこから一歩も出るなと言われたという話も聞きました。精神障害の方への差別が特にひどいですね。家族の方も避難所での生活ができないと考えていて、現実にも生活できないので知人の家や親戚の家に行くというのが現状ですね。

―重い障害を持っている方は結局家から出られない状態なのでしょうか

そうですね。家が壊れてなかったら家にいるでしょうし、家がなくなっていたら親戚や知り合いの家を転々としているというのがほとんどですね。避難所での生活というのはやっぱり難しいです。

―避難所で障害のある方をまとまって受け入れるような体制は整っていないのですか

それはなかなか難しいですね。ただ、山間にたまたま避難所として受け入れることができる施設があったのでそこをまるまる貸し切って作業所とか入所施設の70人くらいの障害ある方と職員が一緒に生活しているところを一つだけ見かけました。だからそういうところか、知り合いの家、親戚の家を転々としているかですね。あとは壊れかけている家で暮らしている方もいるとは思います。また、原発問題がありますけども、自主避難地域があるじゃないですか。あそこの人は早い段階でどんどん家に戻ってきていると聞いていますね。いくら親戚の家であっても自分の家以外での生活は2週間が限度といわれているんですよ。障害のある方は環境の変化に弱いですし、家族のストレスもある。避難所で周りに迷惑をかけてるのではないかという思いがどうしてもありますし、障害のある当事者の負担もまったく違うので長期間安心して生活できる場というのは避難所にはないですね。自宅以上の環境はやはりないと思います

―障害のある方に対する支援状況はどうなっていますか

障害のある方がどこに行ったのかなかなかわからない状況です。僕らは避難所回りというのをしていたのですが、なかなか出会わないのでいったいどこでどうしているのか分からないケースが多いです。作業所に通っている人であれば、作業所に問い合わせをすると状況がわかるのですが…。作業所に通っていなくて避難所にも入れていない人は本当にどこにいるのかわからない状況なので、そういう人たちには全然支援の手が回っていないですね。障害のある子どもを二人抱えている家族で、やっぱり最初から避難所での生活は無理だと思って、知人と親戚の家を転々としていたけれど避難所にいないと全国からの支援物資が手に入らない。そこでテレビのテロップで避難所の情報を見て、支援物資を分けてほしいと頼みに行ったんですけど、地域の人が何回も支援物資を分ける列に並んでいるというトラブルが起こったために、分けることができないと断られた事例もあります。避難所に入れていない方には物資が届いていないんですね。なので、避難所に入れていないとかなり危険な状況です。しかも何人くらいの方が避難所に入れていないか、はっきりと把握できていないので…。

―共同作業所の再開状況はどうですか

作業所は次第に開いてきています。しかし無理を押して開所しているという現状もあるんですね。たとえば原発から20キロ―30キロ圏内に含まれる場所がある南相馬市では避難所に避難していた障害のある方とその家族にも限界がきていて自宅にどんどん戻っている。作業所には障害のある方の働く場を保障する役割と同時に、家族の負担を軽減する大事な役割があります。なので、30キロ圏内にある作業所の職員も、やるしかないということで作業所を再開されているんですね。福島県からは30キロ圏内では開かないでくれと要請されているんですが、開かざるを得ないという状況があるんです。そういったところが何か所かあります。また作業所で津波にさらされて一階部分が浸水しているところもありますし、パンを作っている作業所なんかでもパンを作る機械が流されてしまって再開のめどが立っていないところもあります。被災状況はこのように様々ですが一刻も早い再開のためにみんなで頑張っている状況ですね。

―行ってみて粟野さんが感じたこと

障害のある方は障害があるという理由だけで避難所に入れない。避難所での生活ができないうえに、避難所に入れなかったら支援の手も回らなくて命の危険にさらされているという状況ですね。障害があるがゆえに生きられない状況っていうのは一刻も早く手を打つ必要があると思います。こういう災害があった時に障害のある方がどうやって生活していけるのかをいろんな教訓で考えていかないと。たとえば福祉避難所のような施設の整備をやっていかないと災害弱者と言われる障害のある方や高齢者の方は生活できない。避難所から入浴サービスでバスに乗って入浴しに出かけることもやっているんですけど自分が行くと人に迷惑になるからと言って遠慮している人もたくさんいて、一か月でまだお風呂に一回しか入れていないという話も多く聞きます。本当に、障害あるなしとか高齢とか関係なく災害弱者と言われている人たちが生活していけるシステムを一刻も早く作っていかなければと思いました。

―マスコミで障害のある方の現状について報道がそれほどありませんが取材などは来ていたのですか

支援センターに取材はありましたが、実態把握がはっきりできてないので報道しにくいようです。それでも避難所に入れていない人が、はっきりとした数字は出ていないですが、たくさんいるんだという事はマスコミが取り上げるべきだと思いますね。障害の重い人が暮らせない、避難所に入れない、そしてなぜそういう状況なのか、というところをもっと報道してもらいたいですね。

―現地で必要とされているものはなんですか

避難所を回っている段階では支援物資はどこも足りていますという声を聞きました。しかし広い体育館で、小さいお子さんを抱えているのに授乳できる場所がなかったり、高齢の方でオムツを変えなければならない方のオムツを変えたりできる場所がない。それを簡易の段ボールの箱でなんとかしのいでいる状況なんです。カップラーメン等のわかりやすい物資は割と足りているんですけど、もっと細分化した、たとえば足が悪い人、目が悪い人、小さい子どもを抱えている人などへの支援がまだまだ足りていない。

―関西の人が出来ることはありますか

関西からできることと言えば、たとえば街頭募金とか、みんなができることをちょっとずつやっていくしかないと思いますね。一週間しかボランティアに行くことができなくても積極的に参加していくとかね。まだまだ瓦礫の山があって、それを片付ける手伝いや、ヘルパー資格を持っている人なら入浴の手伝いに行くとかできるはずなんで、とにかくみんながちょっとずつやれることをやる事が一番大事かなと思います。

―障害のある方の支援に行きたい人はどこに連絡すればいいのですか

とりあえずは、きょうされんに連絡していただいたらいいですね。それか、現地ではJDF(日本障害フォーラム)という障害者団体が集まって作った組織が障害者支援センターを設置しているので、そちらに連絡していただいてもいいと思います。

―ありがとうございました

インタビュー後記

本当にこんな人権無視が起こっているのかと、インタビューをして愕然としました。まるで障害のある人は生きていちゃいけないんだと、社会全体が宣告しているような、そんな印象を受けました。平時に考えておくべきはずの、非常事態が発生したときに障害を抱えている人がどうやって生活していけるか、ということを考えてこなかったにも関わらず、非常事態だから人権侵害もやむなしという言い訳がまかり通っている事に違和感を感じました。健常者の日常から障害のある人を徹底的に排除しているという悲しい現実が、今回の地震ではっきりと現れたのだと思います。今一度、障害のある人とどう付き合って行くのかを考え直す必要があるのだと強く思いました。(猪)