京都国立近代美術館パウル・クレー展 巨匠の「過程」に迫る(2011.05.16)

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3月12日から、京都国立近代美術館で特別展覧会「パウル・クレー展 おわらないアトリエ」が開催されている。

パウル・クレー(1879―1940)はスイス出身の画家で、具象画とも抽象画ともとれる独特の画風を持つ。ドイツで青騎士(ミュンヘンで1911年に集まった表現主義画家たちによるグループ)に参加、バウハウス(1919年、ヴァイマルに設立された美術・建築教育の学校)にて教鞭をとったこともある。1914年のチュニジア旅行に感銘を受け作風が一変。彼の紹介によく使われるような、色彩豊かな絵を多く描いた。

今までの展覧会では、作品の物語性やその理念が着目点になっていたが、今回の展覧会ではこれまでの成果をふまえつつ、新しい観点「クレー作品が物理的にどのように作られたか」を盛り込んでいる。クレーは自らの作品のリストを制作しており、そのリストには作品のタイトルだけでなく、制作方法が詳細に記述されてある。このことからも、どうやって作ったかはクレーにとって重要な視点だったと推測される。本展覧会では、クレーがこだわった制作方法を主に6つの章に分類し、それぞれについて代表的な作品を紹介している。

その中でも、油彩転写と作品のコラージュは特筆すべきだろう。油彩転写とは、クレーが生み出した技法である。まず鉛筆やペンなどで素描を描き、それを黒い油絵の具を塗った紙の上を置く。その描線を針でなぞって転写した後、水彩絵の具で彩色する。ときにはそこから、リトグラフや油彩画を制作することもあった。

油彩転写で描かれた絵には、この技法独特の黒いシミが浮かび上がることになる。絵画の制作過程そのものが画面に現れるのだ。こうした通常の油彩画や水彩画と異なる技法を用いることで、実際に描かれている対象だけでなく、キャンバスを通して制作の技法・過程をも作品として捉えることができる。

一方のコラージュ作品については、4月30日に開かれた記念講演「切断の時代―20世紀におけるクレーの制作プロセス」において、河本真理・広島大学大学院准教授が講演した。

本来コラージュは大きく2つに分類できる。新聞紙や広告といった異質な素材を組み合わせる「綜合的コラージュ」と、既存の写真などの既存のイメージを組み合わせ、意味の一貫性を失わせる「意味論的コラージュ」である。しかし、クレーが切断するのは自身の作品である。彼のコラージュはその断片を再構成するという、彼独自の「破壊的―創造的」方法である。

そして、彼のコラージュは、再構成の方法にも大きな特徴がある。1つは「中央と端の入れ換え」で、画面の中央やその周辺で作品を切断し、左右を入れ換える方法。そして、再構成の際に断片どうしを密着させずに、白紙の「『間』の挿入」を行う点である。この操作により、作品の平面性が強調され、また具体的な画面の線描が抽象的な線描に変化する。

こうしたクレー独自のコラージュ手法は、自らの作品を切断・再構成するという作業に芸術家自身の反省を伴い、「完成」という作品の不変性を覆した。作家はいつでも自らの作品に手を加えることができるため、芸術の制作プロレスに終りがなくなったのだ。これにより、クレーの作品はそれ単体ではもはや「作品」ではなく、そこに至るまでの制作過程や時間をも含むのだ。

こうして、クレーの作品は記号としての「絵画」だけでなく、キャンバスそのもの、そしてその背後にある額縁にいたるまでの過程をも必然的に含むにいたる。油彩転写の黒いシミは何も描かれていない空間を意識させ、彼独自のコラージュは大胆な断絶と余白によって「切断」という事実を突き付ける。こうした独特で印象的な制作手法を無視してクレーの絵画は語りえない。その点で、本展覧会はクレーの魅力に肉薄しているのではないだろうか。

なお、京都展は5月15日までの開催。5月31日―7月31日にかけて東京国立近代美術館にて、東京展が開かれる。(書)

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