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「クニマス」慎重に同定 遺伝子的に調査

2011.04.06

昨年3月から4月にかけて、これまで絶滅したと考えられていた「クニマス」と同定できる個体が発見されたことに関し、遺伝子を分析したところ、その個体がよりオリジナルなものだという証拠が得られたとして2月18日、中坊徹次・総合博物館教授が発表会見を行った。

クニマスは、田沢湖(秋田県)に生息していた固有種(サケ科)。1940年より、温泉からの強酸性水を田沢湖に導入したために絶滅したと考えられていた。

しかし、それ以前に西湖(山梨県・富士五湖の一つ)や琵琶湖(滋賀県)などに発眼卵(受精卵)が移植されたという記録が残っており、伝説の魚としてクニマスがしばしば話題になった。

昨年3月、中坊教授らによるクニマスを再現しようとするプロジェクトの中で、さかなクン(宮澤正之・東京海洋大学客員准教授/タレント)や地元漁師の協力のもと、西湖でクニマスに近縁であるヒメマスを採集しようとしていたところ、計9個体の「黒いヒメマス」を得た。この発見は新聞・テレビなどで取り上げられ、世間の注目を浴びた。

水深30―40メートルの湖底に住むということや、鰓耙(えさをこしとるえらの器官)や幽門垂(胃の出口にある房)の数、2月頃に産卵した後に水面に浮き上がってくる「浮き魚」と呼ばれる現象がみられることなどから過去の文献と照らし合わせて、採集された「黒いヒメマス」はクニマスと同定された。なお、ヒメマスも成熟期に黒くなる個体があるという。

さらに、その「黒いヒメマス」がヒメマスと遺伝子が異なるか、または交雑を起こしていないかが、遺伝子座5つを用いた「マイクロサテライトDNA分析」で確かめられた。西湖のヒメマスと阿寒湖(北海道)のヒメマス、西湖のヒメマスと西湖の「黒いヒメマス」で比較。その結果、「黒いヒメマス」は、他のヒメマスと明らかに異質で生殖的に隔たれていることが分かった。

中坊教授らは2月22日、これらの発見をまとめて日本魚類学会英文誌(電子版)に論文を提出した。同教授によると、まだサンプルの数が少なく、これで正しいか今でも不安であるとのこと。一方、クニマス探しのために乱獲が行われ、湖の生態系が壊されることがあってはならないと強調した。