〈生協ベストセラー〉山中伸弥・益川敏英『「大発見」の思考法―iPS細胞vs.素粒子』(文春新書)(2011.02.16)

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初めて書評を書くにあたって読む本をどれにするか悩んでいた時、この本が目に飛び込んできた。文系の私でも関心を惹きつけられる山中伸弥と益川敏英両氏による対談である。再生医学に大きな進展をもたらすと期待されているiPS細胞の開発に成功した山中氏と、トップクォークの仮説でノーベル物理学賞を受賞した益川氏の世界的にも有名な二人の思考の過程がこの本から窺い知ることができる。

対談内容は、6種類のクォークの存在を予言した「小林・益川理論」が構築されるまでの経緯、iPS細胞のメカニズムといった専門的な話から、二人の生い立ち、二人の考える宗教や教育、果ては分かりやすさを優先した「科学遊び」の蔓延や急速に進む若者の「科学離れ」、突拍子もない理論を展開する「エセ科学」好きな人々の出没に対する警鐘まで多岐にわたる。

中でも興味を惹き付けられたのが、二人が「閃き」を得た場所とタイミングの共通点だ。「大発見」への閃きに至った場所は両者とも風呂場。ともに、これ以上考えるのを諦めようとしていた時だった。風呂場に関して益川氏は、「ぼけーっとしながら戦略的なことを考えるのに適している」、「外から雑音が入ってこない状況の中に自分だけの世界があって、そこで自由に遊べるからインスピレーションが湧きやすい」と話す。そう言われると、閃きが生まれやすい場所なのかもしれない。それにしても、ひらめく瞬間が諦めかけた時であるというのはどこか皮肉めいていて、とても興味深い。以下は益川氏のケース。「小林・益川理論」が構築される前までクォークは3種類しか見つかっていなかったが、益川氏を含め当時の研究者の間ではクォークが4種類になると様々な問題が解決できると考えられていた。しかし、益川氏が4種類のクォークを用いてどれほど熟考しても、これというアイディアは浮かんでこなかった。見切りをつけようとしたその時に、クォークを6種類と仮定することを思いついた。「小林・益川理論」の誕生である。

「諦めるということが最も重要な作業であった」と益川氏は語る。もちろん、諦める前に机に向かってひたすら悩み続けることを前提としているのは言うまでもない。その悩みが諦めにつながり、結果的に「大発見」を生む。

ここで紹介したことは、この本の一部にすぎない。ほかにも「大発見」に通ずる様々なアプローチが書かれているが、どの方法であれ二人は、悩むことを楽しみと捉えている。純粋に科学を愛する二人の思考を知りたい人に、その機会を与えてくれる良書である。(銭)

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