【再掲】「墓地研のすすめ」 森毅(2010.10.01)

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大学にいたころ、学生としゃべっていて、墓地研というサークルの設立を提唱したことがある。

京都には、たくさんの寺がある。観光案内に出ない町の寺だって、それぞれに由緒があって、寺の裏の墓地には、どこかで聞いたことのある人の墓があったりする。

そこで月に1回、どこかの墓を探訪した報告をする。できれば、写真もあったほうがよい。このごろの学生なら、カメラの腕もよいのがいるだろう。京大新聞の記者で京大を出てからプロのカメラマンになって、週刊誌の表紙を撮っている先輩もいることだし。

絵心もあれば、イラストで行くのもよい。京大版の「街道を行く」で、安野光雅と張あうようなのが出てくればたのもしい。

もちろん、文章がなくてはならぬ。その墓の主がどういう人物かの解説がいる。訪れた季節の、町の匂いもしたほうがよい。短い文章で、情報をきちんと伝え、それでいてエッセーとして楽しめるには、なかなかの芸がいるものだが、エッセイスト志望の学生にとっては役にたとう。

できれば、タブロイド版ぐらいで、「今日の墓」というのを発行するとよい。この場合は、レイアウトが重要。ただ写真があって、文章があればよい、というものではない。このごろの雑誌はヴィジュアル化していて、よく売れているのはたいてい、アート・ディレクターの腕にかかっている。

もちろん、墓ならなんでもよいわけではない。いくつかを下見したりして、その月の企画を決めねばなるまい。同じ趣向ばかりでは飽きるから、月ごとの取りあわせも重要である。つまり、それは京都を編集することだ。今の時代、情報の時代と言われるけれど、それは編集の時代ということである。時代や世界は、事実によってではなく、編集によって見えてくるものなのだ。

こう言うと、京都文化総合サークルみたいで、とても大変そうに思える。たしかに、それぞれの芸のある人間、そしてそれを束ねる人間がいないとやりにくい。でも、文化というのはたいてい、こうして作られるものであって、既成文化の真似をして作られるものではない。だから、墓地研が未来の京大文化の源泉になることを期待したいのだ。

そのかわり、4年かけると五十篇ぐらいになる。出版するとベストセラーになるだろう。そのときは、「京都墓地マップ」もつけよう。観光会社とタイアップできるかもしれぬ。4年後には、ごっそり金が稼げる。

こんないい企画だが、世間の企業だと、四年がかりの計画はつらい。四年を保証された学生でしかやれない。

「いいですねえ」と学生は言ったが、誰も実行に手を出さぬ。昔だともっとオッチョコチョイがいて、すぐに始めたものだが。

(京都大学を知る本 京大サクセスブック1996掲載)

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