〈テレビ評〉 『クローズアップ現代・奨学金が返せない』(2010.10.01)

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かつてあるジャーナリストは、新聞やテレビといったマスメディアは既に顕在化している問題を扱うのは上手いと評したが、とすれば高等教育の奨学金をめぐる状況も公共放送で30分の特集番組が組まれるまでに「問題化」が進んでいるということか。

番組は最初京都に住む女性に焦点をあてる。彼女は司書資格を取得するため大学に進学。その際奨学金を利用した。しかし卒業後正規職がなく1年契約の司書として働くも、月収手取り10万円のうち2万円を奨学金の返済に充てねばなくなり生活が行き詰まる。副業を始めるも体調を崩し結局司書とは別の職に就いたという。

そして視聴者は「未来を明るくするはずの奨学金ではなかったのか」今彼女のように奨学金の返済に追われ生活苦に陥ったり、返済が出来ない例が急増している、と言われ、具体的に返済滞納者がこの10年で倍の33万人に激増し、その7割以上が年収200万円以下の困窮生活をしているという、衝撃のデータを突きつけられるのだ。

番組ではこの理由として大学の授業料が高騰を続けていること、かつて無利子中心だった奨学金が有利子中心になったことの2つを挙げている。前者の授業料の高騰という要素は放送で深く掘り下げられていなかったが、1975年に3万6000円だった授業料が現在53万5800円と15倍になっている(ちなみにこの間の物価上昇は3倍)のを見ると納得できる。この高学費化が学生を奨学金に向かわせた。後者の奨学金の構造の転換は、旧育英会(現日本学生支援機構)が奨学金を拡大する際に一般会計に余裕がないとの理由で、資金源を郵便貯金などからの財政投融資でまかなう有利子の奨学金(現在の第二種)が創設されたことを指す。有利子奨学金は年々規模を拡大し遂には全奨学金の7割を占めるまでになった。しかし若年労働市場の低迷により大学卒業後も経済的に困窮する者の数が増加、返したくても返せない層を生んでしまったというのである。

番組中盤に出た男性は恐らく上記の説明の典型例の役割を与えられているのだろう。卒業後不安定な生活にあって少しでもと毎月5000円、1万円と返済をするも足りず、挙句の果てには滞納利息(年率10%!)も加算され借金の総額は借りた額の2倍、約200万円にまで膨れ上がってしまったという。

若者に困窮を強いられる実状を観た視聴者は、現在の「奨学金」制度は最早scholarshipではなくloanと呼ぶのが適当なものになっており、学生支援機構の滞納者への取り立て方法を説明することで学生の恐怖を煽るビデオ映像には、消費者金融のそれを連想したハズだ。そこへ今年度から開始されたブラックリスト化(3ヶ月以上の滞納者の個人情報を金融機関で作る信用機関に提供する制度、ローンが組めなくなるなど金融機関が利用できなくなる)を「教育的措置」と言い放つ学生支援機構の担当者が映ると、もはや奨学金制度自体を根本的に見直さなければならない、という気にさせられること必至だ。

全体として非常にコンパクトにまとまっており、奨学金をめぐる問題を知らない人への導入には最適のテレビ番組といえるが、ちょうど来年度予算案の概算要求を財務省が査定しているこの時期にこの番組が放送されるというのは、予算削減の回避、あわよくば増額を狙う文部科学省の対世論工作という政治的意向も働いているのではないか、とつい穿ってしまう。(魚)

2010年9月6日NHK総合テレビ 19時30分~56分 放送

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