〈生協ベストセラー〉 伊坂幸太郎著『砂漠』(新潮文庫)(2010.08.01)

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7月30日付のJ-CASTニュースで「東大生の読む文庫本ランキング」と表し、東大駒場キャンパス生協での文庫本売り上げランキングの結果が公開されていた。1位がライトノベルの『僕は友達が少ない』で、次いで2位だったのがこの『砂漠』である。

作者の伊坂幸太郎は学生時代を仙台で過ごした経験があり、彼の作品の多くは仙台が舞台となっている。この『砂漠』も例に漏れず、伊坂の学生時代を彷彿とさせるような描写に富んでいる。その内容はと言うと、主人公である北村が大学に入学して早々のコンパの場面から始まる。そこで知り合った同級生の西嶋、南、東堂、鳥井らと麻雀や合コン、通り魔犯との遭遇といった出来事を通して様々な体験を獲得していくというストーリーだ。その内容は割愛するが、麻雀をしながらも世界平和を願ってひたすら平和(ピンフ)の役を作り続ける(平和は一般に点数の高くない役)西嶋がいい味を出している、と思う。作中、彼は「俺たちがその気になれば、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」と言う。「法学部の学生でありながら今世界の裏側で起こっている情勢に関心を抱かないのは何事か」とたびたび激昂する。議論の場ならまだしも、これが初対面のコンパのカラオケマイクをいきなり握りながら自己紹介代わりに語り出すキャラクターなのだからドン引きものである。この描写だけを抽出するとただの空気の読めない学生に思われるかもしれない。西嶋の純粋さは確かに馬鹿正直で夢物語であるかもしれないが、それを信じ続けることで現実へと変わるのではないか、と思う。どんなに愚直な行為でも一途に思い込み続ければこの閉塞した世界に一撃を与えることができる、と信じている西嶋。その姿は、強烈なインパクトと爽やかさの入り交じった読後感をもたらすのである。

それにしても大学生活の中に置かれている立場の自分が大学生活の何たるかを知るこの小説を読むことは不思議な体験である。正直言って私も、今この小説を読むことで得た事を聞かれればあまり自信を持っては答えられないのが本音だ。大学生の登場人物の置かれた境遇や生活に共感を抱く事があっても、それ以上の感情が湧き上がらないのである。それは、私が「今」大学生であるからなのだと思う。やがて大学を卒業して社会に出て、歳を重ねた時改めてこの本のページをめくった時、どのような感情を覚えるのか。懐古か喪失感か、それは今の私には分からない。読書とは日々更新し続ける自分自身に向き合う行為なのだから。(如)

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