インタビュー

竹内真澄 京都自由大学理事長/藤田悟 同事務局次長 「京都自由大学の試み 街に社会を学ぶ公共空間を」

2007.11.01

大学の授業料は年々上がり続けている。法人化後しばらくは上げないとしていた京都大学も文部科学省が隔年で行う値上げに押し切られて授業料免除による特別措置は取ったものの結局値上げし今後も値上げが予想されている。

大学人と市民との間で文化的な乖離のみならず、授業料の値上げを続けていくことで従来大学が担うべきとされた社会階層の固定化を防ぐ役割を放棄しようとしている大学は、経済的にも市民と乖離していく方向にあるのだろうか。「それではだめだ」と大学間の垣根を超え大学教員が市民に直接語りかけ同じ目線で議論しようと始めたのが「京都自由大学」である。

今年で3年目となる京都自由大学の取り組みから大学のあるべき姿について考える。京都自由大学の理事長を勤める竹内真澄さん(桃山学院大学社会学部社会学科教授・社会学)と学生ながら事務局次長として運営に関わる藤田悟さん(立命館大学大学院博士後期課程・社会学)に話を聞いた。

―京都自由大学を始めた経緯は何ですか。

竹内(略称) 今運営の中心となっている徐勝さん(立命館大学法学部教授・人権)、神谷雅子さん(京都シネマ代表)、重本直利さん(龍谷大学経営学部教授)、私、益川敏英さん(京都産業大学理学部教授)は神谷さんを除いてもともと大学評価学会で知り合いだった。大学評価委員会やら大学基準評価委員会やら、国の経済成長に結びつきやすいような経営的な物差しばかりが先行する大学のあり方を憂い、もっと公正で国際的な基準はないかと議論していた。当時ちょうど国立大学法人化についても大きく議論されていた。国の交付金は年々減る。それに対して授業料を値上げして経営の指標に照らし合わせ学問分野を絞り、授業料を上げたことにより結局元から裕福な環境に育った学生しか大学に残れないようであれば、大学が先細りするのは目に見えている。大学教員と市民との間で溝がどんどん深まってしまうような状況で、それをぽんと縮める「場」を作ろうと思ったのが自由大学だ。京都という土地には大学人や文化人がいっぱいいる。今までそういった場がなかっただけで、人と人とをつなぐ場を一度作ればいいと思った。そこでいろいろなテーマの授業のほかにも市民と一緒に大学のあり方についても考えていく。ヨーロッパやアメリカにはいっぱいある。気楽に集れるようにと最初は三条御幸町にあるラジオカフェを貸し切り講議していた。オープンカフェ・京都自由大学だ。

藤田 今は「オープンカフェ」が取れているが、そこにもこだわっていたい。私は京都出身ではないが大学で京都に来てずっと住んでいて、この土地にいながら大学を出て何かしないと言うのはもったいないと思っていた。古い喫茶店もまだまだ多くあり、自由に議論できる場があるといいなと思った。

-授業料1回500円。大学の授業料に比べたら安いですね。

竹内 ほとんど会場費など経費分しかもらっていない。講師にはほとんどボランティアで来てもらっている。非常勤講師や退職教員には今年から交通費程度の謝礼を払うことにした程度である。

-受講者にはどのような人が多いですか。

竹内 退職した人や公務員の人、社会活動をしている人や教員・主婦、たまに学生の姿も見える。

藤田 30~40代の働き盛りの人が少ない。

竹内 単純に忙しいんだろうね。そういう人らも取り込みたい。

-授業テーマはどのように決めているか。韓国・朝鮮関係の講義が多いのはなぜか。

竹内 平和・民主主義・人権について考えるというのは大テーマとしてある。それらに基づいた授業を開いている。副学長の徐勝さんは在日朝鮮人として日本に育ち韓国で19年間投獄された経験の持ち主だ。彼が活発に発言し独自のネットワークで授業を開けているというのはある。私たちも彼の活躍ぶりを見て何でもできるじゃないかと奮起した部分はある。

藤田 京都自由大学は小さいなりに国際を掲げている。そのときに朝鮮半島の問題を扱う理由と言うのは2つあってひとつは入り口として敷居が低いこと。もうひとつは考えては避けて通れないテーマであると言うことだ。

竹内 狭い日本に閉じこもっていては大きく掲げた民主主義・人権というのが見えてこない。朝鮮半島はじめ東アジアの問題を考えていく上で、まだ解決されていない問題は多々ありそのときそれらのテーマが浮き彫りにされる。

-大学で学生相手に教えるのとどこが違うか。

竹内 私は必ず何か起こる場として京都自由大学を見ている。教壇からではなく市民相手に届くわかりやすい新しい言葉を考えるうちに新しい発見があったりするし、同じ目線での討論では10人20人の少ない人数ながらも胸をつくような鋭い質問が飛び出しておもしろい。年を召している方は経験が多く講義内容もすっと分かりやすいのかもしれない。逆に言うと今の学生はおとなしい。集まる教員たちも大学の授業ではどこか物足りなさや欲求不満(?)みたいなものを抱えていて、自由大学では歯に衣着せずものが言えどこかいいはけぐちになっているのかもしれない。

―今後の京都自由大学の展望は。

竹内 もっと参加者を増やして行きたい。また活動の幅を広げて行きたいというのはある。これまでの授業では韓国に行っての国際交流や逆に韓国の人を日本に案内したりしていた。教室で授業というのに限らずいろんな形で授業を開いていきたい。

藤田 これから考えている軸が4つあって(1)出版(2)国際交流(3)喫茶店(4)シンクタンクだ。今の自由大学はある意味でもっともシンプルな形でやっている。授業を本の形にまとめることもしたい。喫茶店はできれば自分たちで店を構えてやりたいと思っている。喫茶店には社会文化的な空気というものを独自で作り上げることができると思っていて、教員や市民、学生も垣根を越えて、自分の空いた時間でたまりに来られる、居場所みたいなのを作ることができれば最高だ。

竹内 シンクタンクは企業の作るシンクタンク以外にも労働組合・新聞社のシンクタンクなどあるが社会を持続的に考え発信していけるような場所にもしたい。今講師として関わっている人が70~80人くらいいるが100人近くいれば夢でもないのでは。あとこれは大分と大きな話になるが「初のNPO法人立大学」という構想もある。500円しかもらっていなくて夢のような話だがいろんなつながりを生み出していけるように長くやって行きたい。