〈生協ベストセラー〉 内田樹著『街場のアメリカ論』(文春文庫)(2010.06.16)

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2005年に出版された同名の単行本の文庫版。大学院の演習をベースに、その講義録を著者が編集したのが本書である。時事的な話題も含め、加筆・修正が一切行われていないのは著者の意図による。日米関係にはじまり、ファースト・フード、コミック、児童虐待、肥満、宗教、と種々雑多な話題を論考する本書だが、執筆に際し読者として想定したのは先哲アレクシス・ド・トクヴィル(1805-1859)だと著者が語っているように、内容には時代を超えたある種の普遍性を持たせており、5年が経った今でも十分リーダブルである。著者自身が「非専門家」「門外漢」としてのスタンスを貫いている点も、その汎用性を支える重要な要素である(何より、そのお陰で肩を張らずに読むことができる)。

さて、前述のように内容は多岐に渡る。まず著者は「歴史に『もしも』はない」という考えに待ったをかけた上で、「実際には起こらなかったこと」に関する想像力、いわば「マイナスの想像力」を働かせれば、日米関係が意外な形で見えてくると語る。南北戦争で南軍が勝っていれば、資本主義が停滞していれば、太平洋戦争が起こらなければ… と、その想像は枚挙にいとまがない。しかしこうした作業が、事実を事実として鵜呑みにせず、相対的な枠組みの中で考える上で最も有効であるというのは確かだろう-何も日米関係に限った話ではないが。

肥満問題に対する見解も一読の価値がある。著者によればアメリカの低所得層において肥満問題が著しいのは、彼らに自己管理能力が欠如しているためではない。むしろ、自らを「豊かな文化資本を享受できない社会階層」に位置付け、その身体を以て異議申し立てを行う、いわば「社会的記号」として、肥満問題は現前するのだという。「異議申し立て」と呼べるほど過激な表明であるかどうかはともかく、暴論として切り捨てられない、ある意味で的を射た説明なのかもしれない。

それにしても、普天間問題が揺れに揺れ、多くの疑問を残したままでの「決着」を迎えることとなったこの時期に、何ともタイムリーな再版である。メディアでは連日、アメリカの「意向」こそ報道されていたが、そもそもアメリカというのはいかなる国で、いかなる信念を抱いているのかに立ち返って考えたことのある機会は、案外少なかったのではないか。本書は、もちろん直接的にではないが、そのヒントを少なからず提示してくれる。(薮)

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